第24話 翳の世界
落合の約束は護られず百年もの間落合の弟子たちやクロノスは放置された。
その事が弟子たちの心に深い闇を落とす結果となったが落合がそれを気にしている様子はなかった。
「かと言って世界を巻き込むような大事件なんて物騒なことを起こす訳じゃないんだろ? お前らの性格が多少悪くなる程度だったら問題ない」
「幾ら年月が経ってもその口と性格は治らなかったみたいだな」
「まぁね、生まれつきなんだ許してくれ」
水野は憎まれ口を叩き呆れながらも落合の帰還を内心では喜んでいる
姫も同様だがそれを表に出せるほどの勇気と純粋さはもう持ち合わせていなかった。
「まーだゲームしてるよ……」
「ふん、何時何処でなにをしていようがワシの勝手だろう」
「もう少し威厳ってモノを大切にしてほしいんだけど、ウチの神社の看板がその体たらくじゃあさ……」
「くだらん何が威厳じゃ、そんなモノを有難がたがっているから何時まで経ってもお前は半人前のままなんじゃ」
「なによ!」
「なんじゃ!」
「巫女と喧嘩をする神が何処にいる」
「!?」
突然自分のプライベートルームに侵入してきた水野に対し姫と光は驚きしり持ちを着いてしまう
「な、なぜヌシがここに……」
「俺が転移してきたんだよ~」
と水野の後に転移してきた落合がへらへらとしながら言う
「行き成りこんな場所まで転移して来てどういうつもりだ? 自分の力をひけらかしたかっただけならとっとと店まで戻せ」
「俺のぱわーはすごいだろーと自慢したかったのもあるが……」
姫と水野は落合を睨みつける
「クククッ姫、随分と人生エンジョイしているようじゃないか」
「……」
落合の顔を見た途端、姫は無言のまま光の手を引いて部屋の外まで光を追い出した。何時もなら何か文句の一つでもいう所だったのだが姫の尋常ではない雰囲気に圧倒され何も言えないまま部屋を大人しく出て行く光
その様子を見ていた落合がニヤリとイヤらしく歪に笑う
「大事な家族か、クククッいいな微笑ましくて」
「何の用だ?」
姫が落合に殺気を当てる
「世界平和の為の旅に今から出ないか? 二人とも」
「は……?」
と素っ頓狂な声を出してる間に姫も水野も見知らぬ夜中の海岸の柔らかな白い砂浜に転移されていた。
「……ここは翳(かげ)の世界か?」
「カゲの世界? ふーんお前らはそう呼んでるの? 人々のイマジネーションを源として存在することが許された夢と恐怖が混在するこの場所のことをさ、俺はゴミ捨て場と呼んでたが」
「へ……? な、なに!? ど、どうして私、家にいたのに……」
と言って戸惑い白い砂浜に小さな尻餅の後をつけたのは光
「あぁ悪いな、加減を間違えてお前の家族を連れてきちまったよ」
「!! 貴様!」
落合が光を故意に巻き込んだ事は分かりきっていた事なので姫は落合に殺気をぶつけるが本人は涼しい顔
「お前にとっちゃこの子を含めたあの家族は平和の象徴であり帰る場所でもある、それを脅かす存在が現れたんだ。例えそれが嘗て師匠と仰いだ奴だったとしてもそりゃ殺してやりたくもなるわな、分かるぜその気持ち、尊重してやる気は起きんがな」
「完全に不法侵入だ。このままでは翳法師(カゲホウシ)がやってくるぞ」
「不”法”侵入? しらねぇウチに法律なんてご立派な首輪が出来たのか? ここに? ……クククッ面白い、ただ行き場のない人々の想いが滞留しているだけだった此処にルールが造られたのか、数千年間も変化がなかったこの場所にも近代化の波に襲いかかってきたワケか」
「こ、ここはどこなの? ひ、姫」
黒い海と白い砂浜
地平線の奥で赤く光っている月
そんな場所に突然放り出された光は強い恐怖心を抱き姫にすり寄る
すぐさま姫は光を抱き安心させようとする
「俺も説明をして欲しい所だね、この場所の成り立ちは知っているが今はどうなっているのかさっぱりわかんねぇからさ」
「まさかその説明をさせる為に私たちを呼んだのか?」
「さてな」
やれやれとため息を吐きながらも水野はこの翳の世界についての説明を始めた。
「簡単に説明するとこの場所は人々の夢や恐怖心から生まれた生き物たちが生息する危険な世界だ。本来は人間が気軽に足を踏み入れて良い場所ではない」
「それは知ってる、問題はそこから先さ」
「翳の世界には一つルールがある、陽(ヒ)の世界にも陰(イン)の世界にも介入しない代わり、他の世界からの介入も侵入も許されない。というな」
「カゲ……? ヒ……? イン……?」
「光ちゃんの為に一つ説明しておこう。コイツが今言った陽の世界は君らがいる世界の事で陰の世界というのは君の隣にいる妖狐が生まれた妖怪と魂の世界のことさ、そしてこの世界はその二つとも完全に関係を断ち切った第三の世界というワケだ。ついでに説明しておくと君らの世界で神とか名乗って偉そうにしてる連中の殆どはこの世界の出身だ」
「せ、世界って三つもあるんですか!?」
「その通りかなりややこしい事件があって三つに分断されてしまったのさ、だが普通に生きている分にはあまり問題は起きないと思われる次第でござりますから光ちゃんは今まで通り安心して生きて行ってくれたまえよ」
と落合が大学の教授のような威厳のある咳払いをしていると三つのカゲが落合たちの元へ接近してくる
「来たぞ翳法師が」
「その翳法師ってのが謎なんだよそんなの前はいなかったぞ、この世界の警察的な存在か?」
「そんな所だ」
カゲは落合達の近くまで接近すると地面からカゲを伸ばし人の形へと姿を変わってゆく
それを見た光の手はより強く姫の手を握りしめる
「此処の摂理を知った上で此処へやって来た。確信を持っているのなら問題あるまい」
「同情の余地はない誤認の余地もないならば私達の選択は一つ」
「屠るのみ」
翳法師は動こうとする
しかし
「待った」
それを許さないモノがいた。
「!」
「動けないだろ? ハハハザンネン、俺も無闇矢鱈にバッタンバッタンと殺しまくりたい快楽殺人鬼という訳じゃないもんでね、此処で暫く休んでいてくれよ」
「……何者」
「最強の魔術師と呼んでくれ、この世界、延いてはこの三つの世界の命運を抱えて此処へやって来た次第でござるで御座んす。と言った所だな」
「いやぁ悪いねウチの者が失礼した」
男が突然天から降ってきて落合の目の前で着地してきた。
白い砂がふわっと舞う
「久々だね、大魔術師ウィザード」
天から降ってきた真っ黒なシルクハットを被った男が礼儀正しくお辞儀する
「コイツはどうも、大魔術師なんて呼ばれたのは久々だ。まぁ超越者なんていうナンセンスな二つ名よりはそっちの方がいいな、言って置くと俺は今改名してねウィザードではなく落合真と呼んでくれると嬉しい」
「名に拘らないとは君らしいな、後ろにいるのはファーストクラスの姫、と……サキエル、君と会うのも久しいな」
「水野だ。その名は捨てた」
「おっとこれは失礼した。ミス水野、それにそこの可愛らしいお嬢さんは……」
「あ、あの西宮光と言います。あの巫女やってます。よろしくお願いします」
とあせあせと慌てながら頭を下げる光
「よろしく、私はこの世界の王を務めさせて頂いているルシファーという、以後お見知りおきを……」
「る、るしふぁー!?」
光も知っているその悪の象徴とも言える名に驚き思わず姫の背後に隠れてしまう
「ハハハッ君のそのリアクション、私が見て来たリアクションの中でもトップ10に入れるぐらいの良いリアクションだ。でも安心して私は君たちを食べてしまおうとなんて考えていないから」
というとルシファーは手品のように何も無い掌からアメ玉を出現させ光に差し出す。
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