第23話 弟子たち
「偽名をつかってこんな店開いて子供を唆すなんて、誰に似たんだ?」
「さてな」
眉間にシワを寄せながら水野はサイダーを口に運ぶ
同じ机を囲んでいる子供たちは気まずそうに座っていた。
「クククッ子供に気を遣われるのはあんまし気分がいいもんじゃないな、まぁ仲良くしようじゃないか水野さん、過去のことは水に流してよ、”水”野だけに」
「……」
「つめたーいな、愛想笑いぐらいはしてくれてもいいだろ?」
「一昨日のあの魔法……やはりお前の仕業だったか」
「俺の凄さに恐れおののいたか? はははっまぁそう恐縮するな」
「……他の連中がお前を探しているぞ、今朝私のところにクロノスが訪ねて来た」
「クロノス……弟子連中の中で今一番会いたくないヤツだな」
「それに関しては私も同感だな、今のクロノスには会わない方がいい今のアイツがお前と出会ってしまうと何をやらかすか分かったもんじゃない」
「随分と精神状態が不安定なようだな」
「昔から繊細なヤツだったけどお前が姿を表さなくなってから更に悪化した」
落合は憂鬱な気分をオレンジジュースで流し込んだ。
「せ、せんせい……ご本」
クロノスは生まれつき生存することが困難になるほど重い魔力障害を患っており、小さい頃は身体が弱く数分も立って活動することすら困難だった。
「師匠になるとは言ったがお前の保護者になったつもりはないぞ、クロノス」
と過去の落合はクロノスを突き放すような発言が多かったがそれでもクロノスは落合の後を追うのをやめることはなかった。
「お前の術式は分断を司る、モノとモノを切り離す魔法を使えると言ってしまえば大したことがないように思えるがお前の術式が影響を与えられるのは物質だけに留まらない鍛錬を積めば魔力や概念すらも分断する事が可能になるだろう、俺に対抗するためにお前の父親が残したこの星で最高クラスの術式、それがお前の術式だ」
クロノスの正体は落合の嘗ての弟子により生み出された最強の人造人間
彼女が生み出された理由は自分の師匠をである落合を殺すため、しかし計画はバレて計画のその全てはクロノスを除いて落合によって全て破壊された。その弟子も落合により殺害されている
なのでクロノスにとって落合は親殺しの仇のハズだが自分を殺人兵器として生み出した親にクロノスは愛着や情などは持ち合わせておらず自分を縛り付けていた親や環境を全て破壊し自分を助け出した落合に
対し星よりも重い愛情を抱いており決して傍から離れることはなかった。
「でも……せんせいがいちばんつよいです。せんせいが最高です」
「クククッそりゃそうだ。俺と比べるな俺は規格外の存在なんだからな」
「せんせいが居てくれれば安全です」
「だが何時までもお前らと居てやる気はない、俺も忙しいもんでね、さっさと魔力制御と最低限の知恵をお前らに叩き込んだら俺はこの星を離れる」
「え……?」
クロノスは落合の傍にずっと居られると思っていたが落合の口から飛び出したのは北極の海水よりも冷たい言葉
なのでその後は完全に塞ぎ込んでしまい落合が用意した部屋から出てこなくなってしまった。
「強い依存が招いた最悪の事態だな、クロノスの生い立ちを考えればこうなるのも無理はないんだろうが、ずっとこのままでは困るな」
と大して心配しているような素振りも見せず落合は言った。
そんな師匠を見かねて過去の水野が落合に口を出す。
「クロノスが全部悪いかのような言い方ですが師匠が冷たすぎるんです。あんなことを言われたら誰だって傷つきます。クロノスは繊細な子なんです優しくしてあげてください」
「繊細、ねぇクククッあぁいうのをお前らは繊細とか言ってさもか弱いモノかの様に扱うからあぁいう奴が図に乗るのさ、アイツはあぁすれば俺が折れると思い部屋に閉じ籠もりこちらを心配させるような行動をとってるのさ、強かだぜあの女は俺たちが思ってるよりずっとな」
「! 最低ですよ! 師匠……そんな言い方はあんまりです!」
「お前だってクロノスを盾にして自分が言いたいことを遠回しに俺に伝えて来てるじゃないか、クククッお前もアイツも小狡いクソガキであることに変わりないだが俺は別にその狡賢さとなにがなんでも自分の意見を押し通そうとするその頑固さを否定する気はないそれは強い武器になる、大事に育てろ、だが俺は巻き込むな、以上今日の授業は終わり、タメになったろ?」
落合は弟子たちのご機嫌をとるような真似は決してしなかった。
別に好かれる為に彼らを育てている訳ではないからである
落合が彼らにしたことは生きる力を与えること、それだけである
それ以上のことは絶対にしないと弟子たちにも公言していた。
なぜ落合がそんなことを言うかは弟子たちも分かっていた。
歴史上の魔術師が起こした事件の中でも最大の事件であるが魔術師の歴史からは完全に消えている事件それが原因である
落合の弟子には第一世代と第二世代がいる、第二世代がクロノスや水野、姫の世代で第一世代はクロノスを作り出した親と姫の親などが居た。
この第一世代が中心となって魔術界隈さらにはこの星そのものを破壊しかねない程の大事件が起こすが落合が第一世代の弟子を皆殺しにして事なきを得た。第二世代の子供というのはこの事件の影響により生まれた子供であり、落合は自責の念もあったので彼らを弟子にすることに決めた。
この事件の原因は教えすぎたことだと落合は考えこの事件以降は教えることは魔力制御などかなり基礎的なことだけに留めることとなる、あの様な事件を二度と起こさない為に落合が第二世代の弟子たちを面倒みた期間は三年程度である、三年後には完全に自分の魔力を制御できる様になり魔力制御の不安定さにより起こっていたクロノスの魔力障害も完全になくなっていた。
「覚えてるか? 最初の頃、俺が何れお前らの元を離れると言った時部屋に閉じこもって一ヶ月間部屋から出て来なかった時のことを、クククッそれが今では立派な魔術師だ。おめでとうこれでお前も卒業だ」
「貴方に立派な魔術師だとかそうオベンチャラを言われたくありません、師匠からしてみれば私たちなんてミノムシ以下の存在でしょう?」
「魔術師としての実力や破壊力だけを見れば確かにそうだな、そりゃお前ら程度もんが何十何百何千何万何億何兆何京何垓何秭何穣何溝何澗何正何載何極何恒河沙何阿僧祇何那由他何不可思議何無量大数あらわれようが俺の相手になることはない、それが紛うことなき事実だ。だがそんな事がどうしたよ、お前無駄に強くなりたいから生きてんのか?」
「……」
「お前の人生に納得するため、お前が満足する為に生きてるんじゃないのか? お前は強さで完全に劣る俺に大して強い劣等感を感じてるようだが強さはなんでもかんでも解決してくれる万能的な存在じゃない、これからの人生の中でよーく考えろお前にとって本当は何が一番重要なのかをな」
「……師匠です」
「は?」
「一番大事なモノは」
クロノスはどれだけ落合に冷たくされてもその気持が冷めたことは一度もなかった。
「マジかよ、言っただろ? お前の師匠にはなっても伴侶になってやる気は一切ないってな」
「でも、私にとって一番大事なモノは師匠なんです……この気持ちに嘘なんてつけない」
「……あっそ、まぁ好きにしたらいい、俺はその気持ちには応えることはないがそういうなら仕方ない」
「それとあの約束は絶対護ってくださいね」
「一年に一度は顔を出すだったか? わかったわかった」
弟子たちと交わした約束、弟子とのじゃんけんに負け渋々了承した約束
「ぜったい。ですからね、でないと私どうなるか分かりませんから」
「……ま、最低限の努力はするさ」
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