第22話 水野さん

 教壇には柊

 席には生徒たちが着席しそれぞれの思惑や欲をその身に秘めながら教師の声を聞いたり聞いていなかったりしている

 落合真の隣に着席している花梨は柊と教科書の言葉を自分なりに分かりやすく咀嚼しノートに記している

 落合真の前に着席している来栖(クルス) アゲハのノートは白紙

 落合真の隣の隣に着席している烏間静子のノートには男子と男子が濃密に絡み合っている官能小説が認(したた)められていた。

 教室では全員が同じ方向を向いているがその内面ではそれぞれがそれぞれの方向をバラバラに向いている、この教室という小さな世界でも人間の多様さというモノが遺憾なく発揮されていたので落合は内面でほくそ笑む

 その本人のノートには蛇の落書きが大量に描かれていた。


「真くん……? 授業中になにを書いてるのかなぁ? 授業が終わったら私のところに来てね。それとアゲハも静子も後で私のところに来なさい」

「は、はいぃ?」

「はぁ!? なんでアタシがアンタの言うことを聞かなくちゃ――」


 花梨から後でお叱りの言葉を頂く結果になった。

 十分休みの最中にその様子を教室の外から伺っていた人物が居たその人物は小等部の生徒だったので高等部の生徒たちに取り囲まれる


「ねぇねぇねぇ、ぼくくんかわいいねぇ、何年生なのかな?」

「えっと……僕は」

「きゃー顔真っ赤にしちゃってかわいい!」

「うぅ……」

「ねぇ、からかうのはやめなさいよ、ねぇ坊や、誰かに用事があってここに来たんでしょ? その人のお名前を教えてくれる?」

「あ、あの……落合さんを……」

「落合くん……?」


 転校してきたばかりの落合真に一体なんの用事なのだろうと疑問に感じながらもその女子生徒は説教をくらっている最中の落合を呼び出した。


「は、はいぃ……? 僕になにか用が?」


(剣に炎を纏っていた少年か、俺に何やらシリアスな依頼があるようだな)


 落合真のあまりにも激しい変貌ぶりに少年は戸惑っているようだったので場所を移すことにした落合

 人気がないと判断した途端に落合は再びキャラを変貌させる


「名前、聞いてなかったな少年、名前は?」

「青羽(アオバ)雷鳴(ライメイ)です……」

「では聞こうか、青羽殿が俺に一体どんな用があるんだ?」

「……弟子にしてください!」


 落合が想定していた回答の一つでもあったのでその言葉を聞いても驚くことはなかった。


「弟子になりたいのは分かった。だが弟子になって何がほしい? 力か? それとも知恵か?」

「僕は。俺は……強くならなきゃいけないんです……だから……」

「ふーん」


 落合はそんな言葉幾つも聞いてきたそして行き着く先もよく分かっている


「弟子にはしない、俺が弟子として技を教えるのは姫たちが最後ってことにしてるんだ。だからお前を弟子にする気はない、それなのに理由を聞いたのはお前という人物が何処を向き生きているのかを知りたかったからだ。お前は力を欲してる、誰か殺したいのか? それとも誰かを護りたいのか?」

「……」


 雷鳴はその落合の直球な質問に口ごもってしまう


「教えたくないならそれでいい、秘密の一つや二つあるぐらいの方が人間は健全なのさ」

「あ、あのもう一つお願いがあるんです」

「なんだ?」

「放課後に街にある暗弧屋というお店に一緒に行ってほしいんです」

「……なぜ?」

「えっと、あの……」


 と顔を赤くしてもじもじする雷鳴を見て落合は微笑む


「秘密か? まぁいいついていくよ、別にやることもないしな」


 約束通り落合は雷鳴と共に暗弧屋という古びた雑居ビルの3階にある怪しげな店に向かった。


「……今どきの小学生はこんな店に出入りしてるのか?」

「は、はい。でも! そんな怪しいお店じゃないんですよ! 水野さんもいい人で魔法を教えてくれたり魔法道具を貸してくれたりしてくれるんです!」

「その紹介で益々怪しく感じてきたよ」


 と言いながら落合が片手にポケットをツッコミながら店の扉を開いた。カランカランというドアベルの高い音が店に響き渡ると奥から子供たちが飛んできた。中には奏もいた。


「おぉおぉなんだどういう事だ? これは」

「あ、あの! どうしても落合さんにお礼を言いたくて……みんなでお礼パーティーを開くことにしたんです!」

「お礼パーティー、か、ははっそりゃありがいたいな」

「落合さん!」

 

 ニナが落合の前に出る


「元気そうだな」

「はい! 落合さんのおかげです!」

「お前も元気そうで安心したよ、全てを司るモノちゃんよ」


 ニナの影に隠れていた人形に向かって落合をそう問いかけた。


「お前、私にこの少女から離れられない魔法をかけたな……?」

「あぁ、気付いたの? そのとおり、それとニナが死亡した場合、お前も消滅する魔法をかけておいた。だから必死になってその少女を護ってやるんだなぁ死にたくなければ」


 人形は落合をにらみつける、しかし時間の無駄だと察して人形は再びニナの影に隠れる


「悪いな空気悪くして、クククッパーティーなんて久々だ。行こうか? 早速案内してくれ」

「はい!」


 子供たちに手を引っ張られ店の奥のバッグヤードに案内される落合

 バッグヤードはパーティー会場らしく子供らしい飾り付けがされテーブルの上にはクッキーやジュースなどが並んでいた。

 落合は子どもたちに誘われるまま席に座る


「それでは今から落合さんありがとうの会を始めます! 乾杯~!」


 全員が一斉に乾杯というと一人の女性がバッグヤードに入ってきた。


「あ!? 水野さん! 今日はお店をあけるんじゃ……」

「そのつもりだったのだが君たちの様子が気になってね……」


 水野と呼ばれた女性が落合を見下ろす。


「彼は?」


 落合は水野を見上げる


「……あぁそうか認識阻害の魔法を使ってるんだった。ほら解除してやったぞ、これで一体俺が誰なのかわかったろ?」

「! 師匠……」

「え!?」


 水野の発言に驚く子供たち


「よぉお久々だな、お前も混ざれよ、楽しいぜ? ”水野”さん」


 と言って落合はオレンジジュースを口にした。

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