第19話 約束

 クロノスと姫は畳が敷かれた客間で年季が入った机を囲み座布団一枚敷いて座って居る


「ど、どうぞ」


 突然の来客に驚きながらもお茶を用意した姫の巫女


「あぁありがとう! えっと君の名は……」

「西宮光、じゃ」

「そうか改めてありがとう光ちゃん、この子の世話は大変でしょ?」

「え? いえいえ……」

「えぇい! もう良いじゃろう! 光、すまんが今は出て行ってくれ」

「う、うん」


 と姫は光を部屋から追い出した。

 そんな光に向かって笑顔で手を振るクロノス


「良い子だね」

「……あぁ」


 暫くの沈黙

 クロノスはお茶を一回啜ってから口を開いた。


「私が言うまでもないことだと思うけど此処へ来た理由は一つ、昨日のことについてだよ」

「すまなかった。連中があの様な事を企んでいたとはワシも気付かんかった。完全にワシのミスじゃ、言い訳もできん」

「謝罪を聞きに来た訳じゃない、昨日暴れていた彼等の唐突な原因不明の死……確実に魔法使いの仕業だけど、犯人はあんな強力な魔法を使ったというのに魔力の痕跡を一切残さず完全に消息を絶った。そんな神業と呼ぶのも痴がましい業を扱える人物は私は一人しか知らない、私が言いたい意味わかるよね?」

「……」

「師匠が帰ってきた」

「可能性は高いじゃろな、だが相手はあの先生じゃ、例え帰ってきていたとしてもワシたちにそれを調べる術はない」


 姫は落合と会った事を伏せた。

 何故なら落合に自分の事は他の奴らには話すなと口止めをされていたから彼女はその約束を律儀に守ったのだ。


「……会ったんじゃないの? そんなこと言ってるけど」


 クロノスの瞳が鋭く輝く


「だとしたら何故、ワシがそれを隠す必要があるのか、意味もない嘘はつかんぞ」

「……そっか、分かった。信用するよ、でももしそれが嘘だったら……私、君を許さないから」


(……クロノス、彼女は弟子の中でも先生に対する思いは強い方じゃからの、会いたくて仕方がないのじゃろう……だが先生と約束してしまったからには口に出す訳にはいかぬ)


 クロノスの脅しに屈することもなく姫は平然と茶を啜る


「で? どうするつもりじゃ、どうやって先生を探す?」

「探すと言われても私も本国で仕事あるし、そんな日本に長居できないからね、今日中には帰らなきゃいけないんだよ、君みたいに毎日ぐーたら出来る身分だったら良かったんだけどなぁ」

「そうか、ではワシが探しておく、見つけたら連絡するよ、無駄だと思うがな」

「ふーん、今日は随分と素直で優しいじゃない」


 と言われ内心ギクッとする姫


「あの話が嘘だったら本当に許さないからね」

「わかっとる、その時はワシを好きにせい」

「うん、言われなくてもそうするよ、嘘を付いてるなら私がどれだけ師匠を思ってるのかよく知ってて嘘を付いてるんだからそれ相応の罰は受けてくれないと」

「肝に銘じておこうその言葉、先生に会ったらどうするつもりじゃ?」

「分からない、顔みたら絶対頭真っ白になるだろうし……でもそうだなぁ……”刺す”かもね、師匠も私との約束破ったんだから」

「1年に1度は顔を出すと言っておってそれを100年近く平気で顔をださんかったからな」

「それもあるけど……」

「それ以外にも何か約束が?」

「いいや、なんでもないや、それよりお茶美味しかったよごちそうさま」


 クロノスは大したやり取りもせず神社を後にした。

 帰りの後ろ姿を光と共に見送る姫


(クロノス達を放ってあの人は今、何処で何をしているのやら……)


 と寂しげなクロノスの後ろ姿を見ながら思う姫


「なに話してたの?」

「気にするな、大人の話じゃ」

「何時もと違ってなーーんか偉そうで腹立つんですけど」

「偉そうにして何が悪い、ワシは偉いぞ!」


 とエッヘンと胸を張る姫


「今日は晩ご飯なしね」

「な、なんじゃと!? お、横暴じゃ! 鬼! 悪魔!!」

「偉い人なら自分で食べる分は自分で用意してください」

「ぐぬぬぬぬ……身体はちっとも成長せぬ癖にそういう事だけはいっちょ前に覚えおって……」

「私の身体はまだ成長期なの!!! まだまだ伸びるの!! それに万年ちび助のアンタにだけは絶対言われたくないわよ!」

「なんじゃと!」

「なによ!」

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