第17話 人造ドキュメント

「私の作品は繊細でね、君のようながさつなヤツが好き勝手に弄くっていい代物じゃないんだ」

「はははっコイツの人生を物扱いか、相変わらずだな」

「私を殺す気か?」

「クククッしない理由があるか?」

「……勝手にすればいい、君は確かに私よりは強いのだ。決定権は君にあるが私の話を聞く気があるのなら耳を傾けるといい、損はさせない」

「命の危機だというのに随分と偉そうだな」

「嫌味はいい、それより私を殺すのか? それとも耳を傾けるのか? どちらを選ぶのか早急に判断して貰えると助かる、私も時間がないんだよ」

「……」


 ウィザードは彼の話を聞くことに決めた。


「となれば話は早い、ようこそ我が工房へ」


 男が工房と呼んだ施設の中には大量のスクリーンと白い毛玉のような物が大量に宙に浮いていた。


「コイツがお前の作品か?」


 落合が覗いたスクリーンにはボロボロになった魔法少女が映し出されていた。


「その子はそろそろ最終回でね、魔王は討ち滅ぼされ晴れて平和を手に入れ彼女は人として一段階上へ登る」

「一段階上……ねぇ、クククッ趣味じゃねぇんだよ、人として上だの下だの、何を基準に語ってんだか」

「これ……全部、私と同じ……」


 奏が大量のスクリーンの前で立ち尽くしている


「ザンネンだが君の物語は彼が現れてしまったことで打ち切らざる終えなくなった。あともう少しで仲間加入回だったというのに……」

「加入回とか……最終回とかアニメみたいなことを言うんですね」

「アレとは全く違うモノだ。コレはアレよりももっと高度で純粋なエンタテインメント、いい歳をした大人達が少女ごっこをしているアレとは訳が違うんだ。これはリアルの少女を使ったドキュメントだ」

「鼻息ムンムンでこの子に近付かないで貰えるか?」

「あぁっと失礼、私とした事が少し取り乱した」

 

 男はゴホンと咳払いをし奏から距離を置く


「ウィザード、確かに私はこの少女を使って作品を造り出した。それは間違いない、がしかしだ。それで一体誰が損をした? 魔法のおかげでその少女は平凡で退屈な人生から脱出できた。私が監視しているから命の心配もない、もし危険が訪れたらパワーアップアイテムもある」


 と言って男は煌びやかな杖を取り出す。

 落合が魔法でその杖を自分の手へと転移させた。

 杖をマジマジと見詰める落合


「こんなもん作ってんなら最初から渡せば良い話なんじゃないか?」

「最初から渡してどうする? 視聴者が最初のフォームに飽き始めた頃にパワーアップ回を中盤と終盤に差し込む、そうすることで視聴者が飽きずに私の作品に夢中になれるという訳だ。魔法少女といえばアニメが主流だった頃からある簡単なノウハウだよ」

「……へぇどうでもいい豆知識をどうもありがとよ」


 落合が男に向かって杖を向ける


「そのつまらねぇ豆知識のお返しだ」


 落合は男をカエルの人形に変えた。


「腕を切り落としたり舌を切り落とかとも考えたが魔法少女の目の前だ。そんな残酷な光景は魔法少女に見せる訳にはいかない、だから人形にさせて貰ったよ、喋ることは出来るが身体を動かすことは出来ない、もう二度とな」

「ぐっ……貴様……私を殺さず、生かしたまま苦しめる気か?」


 落合の斑色の瞳が人形を見下ろしている


「クククッまぁな」

「私一人を消した所で同業者は数多いる、私を一人を黙らせた所でなんの意味もない」

「だとしても俺の溜飲を下る、それだけでも十分だろ? なぁ? それに、あるんだろ? この窮地を脱するお前のとっておきの魔法が」

「……」

「発動してみろよ、ほらほら」


 確かに人形には人形の姿になっていても使える最後の手段があった。それは時間の逆戻り

 魔法を発動した瞬間、時間を戻し、落合が現れ人形になる前の数時間前に戻れる

 この絶体絶命のピンチを唯一突破可能な魔法

 使う他ない


(しかし、これを一度使ってしまうと魔力が枯渇し暫く他の魔法すら使えなくなる、確実に作品作りに悪影響を及ぼしてしまうが……仕方ない)


 人形は意を決し、魔法を発動した。


(よし! 発動成功!)


 したかと思った。最初は


「解放》

「なっ!?」


 しかしザンネンながらそうはならず

 

「お前の時間操作の魔法は発動までに1秒掛かるが俺の解放は0,001秒で発動する、魔法使いにおいて発動までの時間というのはかなり重要でな、どれだけ強力な効果でも発動までに時間が掛かったら意味がない発動する前に簡単に潰されるからな」

「これが最強の魔術師ウィザード……か」

「今更俺の凄さに気付いたのか? にぶちん野郎、お前は俺の解放を喰らった。コイツの能力は対象の死を確定する魔法、その他にも効果があってな、発動が確定した瞬間に対象が行った行動は魔法も含め全て無効化される、モチロンお前が今さっき発動した時間逆行の魔法もな」

「……死が確定するんだろ? なぜ私は死んでいない?」

「殺せるタイミングも俺が決められる」

「お前が私を殺す間は私はなにも出来ないという訳か」

「その通り、お前の行動は全て無効化されるからな、クククッどうだ? なにも出来ない気分はよ」

「こうなる事は最初から分かっていた。とっとと殺せ」

「その前に同業者がいるとか言ってたな? お前の他にも変態仲間がいんのか?」

「だからなんだというのだ?」

「人数は?」

「300ほど居る」

「マジかよ、面倒くせぇな……俺がいない間に大繁殖しやがって虫けら共が」

「まぁ精々頑張ることだな」

「あぁ、そうさせて貰うよ、アバヨ、変態」


 人形が落合の前から消えた後、奏の元に落合は向かった。

 奏とその相棒は空中に浮いたビジョンをボーと眺めていた。

 ビジョンには奏と同じ境遇の魔法少女が戦っている姿が映し出されている


「私達は見世物にされてたんですか?」

「その通り、ヤツが憎いか?」

「……分かりません、でも胸が苦しくて……悲しくて……」

「ボク達も造られた存在なの、カル……?」

「間違いなくそうだ。お前らは魔法少女を彩る為だけに造られた人造生物だ」


 落合は誤魔化すことはせず全てあるがままに答えた。

 その結果どれだけ傷つく事になったとしてもそうするべきだと思ったからだ。

 

「着いて来い、終わりにしようぜ、全部な」


 と言って落合は二人の肩をポンポンと叩いた。



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