第9話 最高の魔法


 落合は丸い穴を通って事務所に入る、中には少年と屈強な男たちの遺体それに気絶した烏間がいた。落合が穴を通ると穴は消滅し壁は元通りに戻る

 少年の傍らには粉々に砕けたガラス


「ソイツで俺の魔法を反射する気だったんだな? ザンネンだがそういった魔法道具は許容魔力量以上の魔力が流されると簡単に壊れる、俺の傲慢さに付け込んで魔法を使わせる所までは良かったんだがな、頼るモノを間違えたな」


 次に視線を移したのは屈強な男たち


「若気の至り……というには余りにも大きな代償を支払う羽目になったな君たち、まぁそれも人生だ。罪と罰が釣り合わないことなんて往々にして起こりえる」


 落合は次に烏間に視線を移す。


「幻覚の迷宮に捕らわれてるのか」


 落合は烏間の幻覚を解く


「命に別状なさそうだな、暫くすれば目を覚ますだろう、さてどうしたものか君をこのまま寮まで転移するか、先程の名も知らぬ少年が発動した解放を検知してこちらへやって来てる連中に君を任せるべきか……悩みどころだな」


 落合は一秒悩んだ結果、烏間を転移するのはやめにした。

 落合は事務所に置いてあった丸椅子に腰掛ける

 それから30分後に事務所に何者かたちが入り込んできた。

 事務所に入ってきたのは三人、内二人の顔を落合は知っていた。


「柊に笠松……ふぅん」


 三人とも丸椅子に座っている落合にはなんの反応も示さない


「おい! 無事か!」


 烏間に駆け寄ろうとする笠松を柊が止めた。


「落ち着け馬鹿者、罠の可能性がある、鈴野、チェックしてくれ」

「了解、隊長」

「目がいいみたいだな、この女、辺りの魔力を察知して危険はないか捜索する技術に長けている、がしかしだ。そんな彼女でも俺のことは認識できない、俺の”姿”を認識できないのはモチロン――」


 落合はタップダンスを踊る


「俺が放つ”音”も」


 落合は地面に落ちていた紙くずを笠松に投げつける


「俺が行った”行動”も」


 最後に柊を押し倒した。

 受け身も取らずその場で派手に転ぶ柊

 しかし柊は転んだことやその結果頭部から血を流した事にリアクションをとることはない


「俺が生んだ”結果”も彼等は認識することができない、クククッどうだ? キミがくらった魔法とはまた違った意味で最高の技だろ? 少年」


 落合は死体に喋りかけている、しかしそれを誰も認識することは叶わない


「まぁだが弱点がない訳じゃない、この技は発動まで時間が掛かりすぎる、だから実戦じゃ使えない、ザンネンながら……あぁ悪いな続けてくれ」

「大丈夫よ、隊長、この部屋はクリーン」

「医者と増援を呼べ、私と笠松はこの部屋を捜索する」

「了解、隊長」

「おっと忘れてた。血をずっと垂れ流したままじゃ可哀想だな」


 落合は柊の怪我を治療した。


「烏間は息をしているようだな、他は……ダメだ死んでしまっている」

「チッ……何があったんだよ……」

「それを確かめる為に来た」

「笠松、お前は部屋の調査を私は遺体を見る」

「柊先生も学校の時とはまた随分と違ったキャラをしてるな、というか何をやってるんだろうな? 調査をするとか言ってたから自警団のような組織に属してる? 先生はともかく学生も動員してるのか? だとしたらなかなかブラックな組織じゃないか、こんなもんに捕まっちまうとは笠松もツいてないな」


 その後も落合はペラペラと独り言を喋りながら二人の観察を続けたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る