第8話 解放

 「うぇーん! 落合くん!! ごめんなさい! 用事が出来てしまったので今日はここでお別れしましょう! ここの代金はもう支払ってありますからそこはご心配なく! あとあとあのバス停に行けば帰りのバス来ますから! それと前にも説明しましたがその学生証があれば無料で利用できますからね! ではでは!」


 と落合がファミレスでハンバーグ定食を食べている時に烏間が電話をかけてきてそう言ってぶつっと切れてしまう


(戯けていたが……あの声色、普通じゃなかったな……仕方ない)


 落合はハンバーグとライスをかきこんだ。


(烏間の魔力を追ってきたが……なんだ? ゲームセンター朝顔……この中に続いてるな)


 ゲームセンター朝顔

 閑散とした店で人気を感じない、しかし閉店している訳でもない様で店前の看板はキラキラと虚しく光り続けている

 自動扉を開くと生温かいエアコンの空気が落合を包んだ。


(ショボいが結界も張られてる、店開いてるヤツが人払いの結界を張るとはこりゃ怪しいな)


 落合は一歩その店の中に足を踏み入れた。

 薄暗い店内には何台かのゲーム機が置かれており、モチロン電源は入っているが画面に映るモノの様子がおかしい

 全てのゲーム機の画面に不気味に微笑む男の顔が映し出されていた。


「あぁ、なるほどこうやって人をビビらせてその負の感情を吸収してる訳だ。なぁ? そうだろ?」


 落合は天井を見上げる

 そこには四本足で舌の長い化け物が天井にへばり付き落合をその緑色の瞳で見詰めていた。


「あぁ? おまえ誰だぁ?」


 化け物が口を開く


「妖怪の仕業かと思ったが違うな、お前悪霊だろ?」

「まぁなんでもいいか、いただきまぁす!!!!」


 天井から飛びかかってきた悪霊

 しかし悪霊はそのまま落合に到達することなく宙をふわふわと浮いている


「悪いがお前の身体を重力に影響受けない身体に改造させて貰った」

「!? あぁ!!? なんだぁ!?」


 悪霊は訳も分からずその強靱な足をばたつかせるが落合に届くことはなく訳の分からない方向に自分の身体が勝手に運ばれていく


「言葉は喋れるがまぁその程度、大した知能は持ってないな、オタクに結界なんざ張れるとは思えないから他にも何体か居るだろ、そうだな五体ぐらいか? ソイツらが今俺の背後目掛けて襲って来てる、だろ?」


 落合の言葉通り、悪霊五体が落合の背後から襲いかかっていたが先程の悪霊のように一瞬で身体を改造され重力から解放されてしまう


「はてさて、この中に言葉が通じる悪霊くんはいるのかな? ……んー居なさそう、なるほどコイツらは前菜、メインは店の裏に居るんだな?」


 落合はバッグヤードに続いていると思わしきレジ裏にある通路を指差す。


「クククッその通路、入った瞬間に幻覚をくらう罠が仕掛けてあるな、ったくやるならもっと上手く隠せよ……まぁ俺には通用せんから意味ないがそれだと余りにもその罠が不憫だ。だからちょっとこちらも工夫させて貰おうか」


 裏にバックヤードがあると思わしき壁に向かって落合は指を指した。


「ドーン」


 と落合が口にするとその壁に綺麗な丸い穴が生まれた。

 その穴の奥には男が複数に女が一人、その女とは烏間の事である、どうやら彼女は気絶しているようで地に伏せている


「……ふーん、君ら見覚えあんな、烏間に叱られてた子達だろ?」


 確かに彼等は気の弱そうな少年を囲っていたぶっていた男達だった。


「あーあ、ザンネン殺されたの君ら」


 男達は立って居るが目に生気はないただそこに佇んでいるだけ


「そこの裏にいる子にさ」


 屈強な男達の影に隠れている何かを指差す落合

 そこから気の弱そうな少年が現れた。


「よぉ少年、久々、と言っても憶えてねぇか俺のことは」


 その少年は確かに屈強な男達に囲まれていた少年であった。


「……何者だ?」


 少年の額には汗


「今は落合真と名乗らせて貰ってる、最強の魔術師だ」

「落合? 聞いた事がない名前だ。でも……」


 宙に浮かんでいる悪霊を見る少年


「最強というのもあながち嘘という訳でもなさそう」

「嘘を言っても仕方ないしな、で? 何してんの? キミ、なにやら悪巧みしてるのは間違いないんだろ? その様子からしてさ」

「キミなら聞かずとも答えが分かる術を持ってるんじゃないのか?」

「あるが使わない、趣味じゃないんだよ」

「……そうか」


 少年は事務所に置かれてた椅子に座る


「なぜ烏間をサラってコイツらを殺した?」

「このカス達を殺したのは俺を不愉快な気分にしたから、それ以外の理由要らないでしょ、あとこの子烏間って言うんだね、ありがとう教えてくれて」

「助けて貰って恋してしまったってところか?」

「正解、こんな美しい心を持ってる女性にこそ”新世界”は相応しい、彼女こそ生き残るべき人間だ。コイツらと違って」

「新世界……世の中の腐った連中を皆殺しにして新たな美しい世界を生み出そうぜってな感じの計画を企んでるワケね、はいはいそのパターンか」

「慣れてるの? こういう事に対処するの」

「まぁな」

「……”クラス”の人?」


 落合は首を振る


「まぁなんでもいいや、この辺りでお喋りはやめよう、新世界を造るのにキミは確実に邪魔になるだからここで消させてもらうよ、本来はこんなところで使うべきじゃないんだが仕方ない」


 少年は両手を合わせる


「解放 『悪鬼騒乱(あっきそうらん)』」

「解放を使えるのか、だったら結構な使い手ってワケだ。まぁ効果は付近数千㎞の悪霊たちを此処へ一気に呼び寄せる程度のもんだが……数は約五万程度か、自然に生まれたにしちゃ数が多いな事前にかなりの数を用意していたな? 魔法を発動してから悪霊を転移させて俺を攻撃させるまで五秒オーバー掛かってる、実戦で使えるレベルじゃないな」


 落合の説明通りの現象が起き、そして無数の悪霊たちが落合を襲おうと飛びかかってきた。

 しかし


「度々になって悪いが……コイツらの身体を改造させて貰った。全身の細胞を全て変換しその殆どをポリ塩化ビニールにした。よくフィギュア等で使われる素材だな、形と色には拘って烏間が買ってたフィギュアよりも高密度だがしつこすぎない造形とどんなライティングだろうが美しく見える塗装を心掛けた。どうだ? デザインは老若男女様々にしてみたんだ。キミの好みが分からんもんでね」

「……冗談、だろ」

「五万体全てをフィギュア化してしまったらどえらい事になるからそれは止して、殆どは二酸化炭素になって貰って宇宙空間まで転移させた」

「……ははは、なんで今更キミみたいなヤツが現れたんだ。なんで今なんだよ……」

「さぁね、それは俺も気になってる、この出会いは偶然なのかそれとも何者かに仕組まれたもんなのか……積極的に探ってやろうと思うほど好奇心はくすぐられんがな」

「終わりにしてくれ」

「さっきの解放で魔力はすっからかんか、まぁ無理もない、本来はそういう大技だからな、ソレ」

「……」

「他にも仲間は居るのか?」

「……殺せ」

「居るな、その反応、それに計画は今日この時この瞬間から始まる予定だった。そうだろ?」

「せめて……」

「どうしたんだ?」

「お前の最高の技で俺を殺してみてくれよ」

「……クククッまぁいいぜ、なにを以って最高と指すのかという議論は置いといてお前に俺が持って術式の中で最も殺傷力の高い術式をぶつける」

「すまないな、みんな」


「解放』


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