第3話 一夜




「死にな」


 闇の向こうから微かに斑色の何かが見えた気がした。

 アダムの前に立ち塞がっていた影二つは弾けて消えた。

 しかし極度の緊張状態が長時間続いた所為で限界が来てしまいアダムはその場で気絶してしまった。

 斑色の何か又の名を落合がアダムに近付く


「なーんでこんなもんに追われてたんだ? アダムくん……、ん?」


 落合はアダムの手首を持ち上げる、そこには銀色のブレスレットが着けられていた。


「コイツは……へぇ……リカルドの弟子かお前」


 落合は小さなアダムの身体を背負いその場から消えた。

 

 落合は瞬間移動で寮に戻りアダムをベッドの上で寝かせた。


「なんでお前が追われてたか、お前を追ってた奴らの親玉に聞いてみることにするよ」


「で? どういうことなんだ?」


 落合はその親玉の居る基地に瞬間移動した。

 親玉は突然現れた落合にあからさまに驚いたような仕草はみせずジッと落合を見詰め口を開いた。


「……驚いたなこんな所で”超越者”に出会えるとは」

「お前らの世界じゃ俺みたいなのを”超越者”と呼んでるのか? なんだか仰々しいな、超すごーい人とでも呼んでくれよ、きらーくにな、そんな超すごーい人からの質問なんだがお前は一人の少年を追ってただろ? どうして態々別世界から飛んできてまであんな真似をした?」

「あの少年の血が必要だったのだ。この世界を頂くための準備としてな」

「あの子の血には吸血鬼の血が混ざってる、その血を使って摩訶不思議素敵生物でも造り出そうとしてたって所か? まぁありがちな話だ」

「そうだな、それに近いことをしようとしてた。が」


 親玉は落合を指差す。


「それもここまでの様だ」

「へぇ諦めるのか? 根性ないな」

「超越者の恐ろしさは、過去に一度体験しているものでね……殺したければ殺せばいい」

「味気ないな、それじゃ、そうだなお前はどうしてこの世界を欲しがってるんだ? 元の世界を追放された?」

「いや、侵略された。私達の故郷はもう私達のモノではなくなってしまったのだ」

「侵略? 世界そのものをか? へぇ……面白い」

「どこが――」


 落合は言葉を待たず親玉の前から消えていた。


「クククッ世界侵略なんて早々起きるもんじゃない、一体なにがどうなってこうなってやがんだ?」


 落合が次に来たのはその親玉の世界

 名も知らぬ惑星に着陸すると一斉に巨大な昆虫のような生き物が落合に向かって飛んできた。


「止まれ」


 落合のその言葉をきっかけに昆虫は不自然に宙で止まる


「……お前らも誰かに操れてやがんな……なぁんだか嫌な予感がしてきたな」


 落合は昆虫を操っている親玉の元へ向かう


「よー親玉パートツー」

「!?」


 今度の親玉は落合に驚きその場で転倒してしまう


「で? なんでお前はこの世界を頂こうなんて考えたんだ?」

「侵略されたんだ! 俺の元の世界は! だ、だから――」


(世界侵略連鎖パターンか……面倒なことになって来たな)


 アダムは瞼を開く、窓から差す微かな月明かりがアダムを出迎える


(……あれ、ボク追われて……)


 先程まで追われていた筈しかし自分は柔かなベッドの上で横になっていた。いつの間にかに


(ゆ、夢……? いやでも……)


 アダムは上半身を起こす。


「……」


 微かに寝息が聞こえたので驚いて隣のベッドに目をやる


(新しい同居人? 今日入ってきたのか? ……)


 アダムはベッドから立ち上がり肩掛けを着けると部屋を出て行った。

 寮の屋根裏に向かいそこで小さな窓から月をのぞき込む


(リカルド……貴方も今この月を見ているの? ボクと同じこの月を……少しでもいいから貴方との繋がりが欲しいよ、寂しいよ……リカルド、こわいよ)


 アダムはそんな気持ちを抱きながら屋根裏で一夜を過ごす。


 同じ屋根の下で笠松はベッドの上でジッと天井を見詰め、診療所で言われた事を頭の中で反芻していた。


「驚かないでくれ、君の中にあった神託の力が消えてしまった様なんだ。原因は……不明だ」


 そう医師には告げられた。

 神託の力が失われたと言われ笠松は呪いからの解放を喜んだのと同時に一つの不安をその身に宿した。


(アイツの力がなくなっちまった俺に……一体何が出来るんだ?)


 あれは呪いでもあり圧倒的な力でもあった。しかしそれが失われた今、笠松は自分の存在価値に疑問を持つ


(俺は何処に行けばいいんだよ)


 眠れぬと分かっていても笠松はその瞼を閉じ、もう一度自問自答を最初から繰り返す。

 そうやって彼は一夜を過ごした。


「それでこの植物が突然現れ宇宙全体を覆ってしまったとそう言うんだな?」


 落合は親玉パート34にそう質問していた。 


「あ、あぁ……」

「銀河すらも軽く凌駕してしまう程の超巨大スーパー植物くんは誰かに操れてるなんてことはないよな? ないと言ってくれ」


 落合は植物の過去を覗く


「あぁ良かったようやくだ。コイツはこの世界のあんぽんたん魔術師によって生み出されたモノだ。誰かに操れているのではなくエネルギーを吸収する為に自発的に成長と吸収を繰り返している」

「どうする気なんだ? コイツは全宇宙の艦隊の集中砲火ですらビクともしなかった化け物なんだぞ!? お前一人でなにが――」


「解放』


 という落合の言葉と共に目の前に巨大な植物は姿を消してしまった。


「これでお終いだ。ヤツは永久にお前達の前に現れることはない」


 唖然とする親玉パート34


「普通はやらないんだが……今回ばかりは仕方ないな……特別だぞ」


 落合はそう言ってウィンクすると破壊された惑星、それにそこに建てられていた建造物、生物、全てが再生していく


「な、なんて事だこ、こんな事がこんなことが……」

「ぱぱ!」

「アナタ!!」

「そんな、馬鹿な……」


 死んだ筈の家族も蘇っている


「あの植物が破壊したモノ限定だが全てを元通りに戻した」

「あ、ありがとう、貴方は……神なのですか?」

「クククッそんなもんと比べないで欲しいね、俺は最強の魔術師だ」

「……なんてお礼を言えばいいか……」

「いや、いい、この辺りでお開きだ。なんせ時間がないんだ。俺は朝までにこれをあと33回やらなきゃならないもんでね」


 落合の一夜はこうして過ぎてゆくのだった。

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