第1話 今日この時この瞬間に
ウィザードは多彩な輝きで煌めき万華鏡の如く美しいその斑色(まだらいろ)の瞳をひときわ輝かせ、一言呟いた。
「解放》
マジシャンは杖を発動しようとしたがウィザードの方が魔術の発動が速く杖は発動する前に消滅してしまった。
(は……ははは、僕は死ぬ、今日この時この瞬間に……負けていた。敵う訳もなかったんだこの男に……でもよかった。最期に見るのがその美しい瞳で……)
マジシャンも世界最高峰の魔術師の一人と呼ばれていた今日この時この瞬間までは、しかしそれも終わる
身体の感覚が薄れてゆく
死が到達した。
最高峰の魔術師は呆気なく安らかに逝く
しかし次の瞬間、死んだハズのマジシャンの胸から砂時計が飛び出して来た。
「時飛ばしの効果を持つ魔法道具、お前が死亡した瞬間に発動するよう仕組んでいたのか」
宇宙空間に漂いながらウィザードはそう呟く
「クククッどうせもうやる事もないんだ。喰らってやろうその魔法、お前の最期の力がどんなモノか確かめさせて貰うぜ」
自分と同レベルの力を持つ相手だと思っていたマジシャンがそうではなかったのだとそれは勘違いだったのだと知った途端ウィザードは何を思ったのか時飛ばしの魔法を敢えて喰らった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「飛ばされた時間は……そうだな百年ほどか? 地球にいる俺を知ってる連中はほぼ死んだか」
このまま暫く無重力の中を漂ってても良かったが地球の様子が気になったのでウィザードは転移魔法で地球に戻ることにした。
場所は日本の東京、スクランブル交差点
大量に人が行き交う場所、しかしウィザードが突然そこに出現してもそれに気がついた者は誰一人として存在しなかった。
「町並みや流行りの服装は変わりはしたが……まぁこんなもんか」
と退屈そうに町並みや人混みを真っ黒な瞳で見つめるウィザード
そんな中に唯一ウィザードの目を引いたモノがあった。それは広告
「魔法学校へおいでよ!」とそう広告には書かれていた。
(魔法学校……百年前にもあったがあんな大々的に広告を打つ様な連中だったか? この星の魔術師連中はもう少し慎ましやかな連中だと思ってたが……いや、それか魔法とは関係ないただの怪しいカルト集団の学校か? ……退屈だし少し冷やかしに行ってやるか)
ウィザードは広告に書かれている住所を確認し噂の魔法学校へと向かった。
「へぇ広いな、山一つ丸々潰して創ったのか、しかもこの山、大音寺(だいおんじ)家の本家があった山だろ、奴らこんなビジネスを始めたのか、日本の魔術師の奴らの中じゃ奇天烈な事をする方の連中だったがここまでとはな」
日本魔術師専門学園と書かれた門の前に向かうとその前に居た警備員に呼び止められる
「ここから先は関係者以外立ち入り禁止です」
門の前には二人黒いスーツを着た警備員が立っており、ウィザードを危険人物かそうでないのか見定めるかのような目で見ている、ウィザードの服装は百年前にイタリアで購入した古めかしい黒のスーツ
そこまでの不審者には見えないが善良なる市民に見えるかと言われればそれも違う
警備員は二人共女性
「あぁ、えっとここで合ってます……よね? えっと日本魔術師専門学校ってぼく今日ここへ転入してきた”落合真”っていうんですけども……」
とおどおどとしながら口にするウィザード
その場ででっち上げた設定を元に警備員たちに自分は無害でしかもこの学園の転入生であると主張する
顔を見合わせる警備員二人
転校生なんてそんな話聞いた? 片方の警備員に顔を向けて訴え掛けるが心当たりのない片方の警備員は首を横に振る
「確認をしてくるからここで少しの間待っててもらってもいいかな?」
「千鶴(ちづる)、敬語」
「あ、ごめんごめん、待っててくださいね」
と言って千鶴と呼ばれた警備員は門を潜り学園の施設に姿を消した。
数分で戻ってくると千鶴は
「確認がとれました! ごめんなさいお待たせして、あとそれと! ようこそ! 魔法学校へ! 教師の方が迎えに来るので玄関先で待っていてくださいね」
と言ってウィザードもとい落合真の侵入を許可してしまった。
落合があわわ、と学園の威厳と広大さに戸惑うフリをしながら警備員二人に礼を言い門を潜りその場から姿を消す。
「連絡忘れ?」
「珍しいよね、メメさんがこんな重要なことのを忘れるなんて」
千鶴が口にしたメメさんとはメメリアン・カートランド、今年で二十代後半に突入する海外生まれの女性
彼女は自分の事務所にある一枚の紙を見つめながら困惑している
(転入生が今日やってくるなんて……そんな大事な事を私が忘れてたの? でもこの書類には確かにそう書かれている)
その書類は鍵の掛かったメメリアンの引き出しの中にしっかりと置かれていた。
鍵とは言っても普通の鍵ではない魔法が掛けられた鍵であるのでそう簡単に開くことは出来ない筈なのである
(それにちゃんと転入生の書類もあるし……私のミス……なのよね?)
落合は学園の本校の玄関前にてあわわと言いながら待っている
(記憶も一緒に弄ってやってもよかったが俺の趣味じゃないからな)
落合があわわと数分言っているとようやく教師らしき女性が慌てた様子でやってきた。
「こ、こんにちわ! あ、違うようこそ! 魔法学校へ! えっと落合真くんで間違いなかったよね?」
「は、はいぃ! よろしくおねがいしまっすぅ……」
「たはは、ごめんねぇこっちの手違いで真くんが学校に来るってことになってなかったみたいでさ、でも大丈夫! 事務の人が早急に手続きを済ましてくれるらしいから! 制服もまだ準備できてないけど下校する頃には用意できてるだろうから、今日のところはその格好で授業を受けてね」
とえっへんとなぜか胸を張る教師らしき女性
「あ、ごめん自己紹介がまだだったね、私は柊(ひいらぎ)霞(かすみ)貴方の担任になります。これからよろしくね? 真くん」
「よろしくおねがいしまっすぅ……」
(当然だがこの女もさっきの警備員も事務所の連中も全員、魔術師か、しかも流派も系統バラバラ、大音寺家がオーナーだからと言って大音寺家に多かった治療系統の魔術師を集め教育を行ってる訳ではない、と)
落合は柊に連れられ自分の教室まで案内される
「2ーA組。ここが貴方の教室になります。一緒に入りましょうか」
「は、はいぃ……」
柊に連れられ落合は教室に足を踏み入れる
(今も昔も変わらぬ安心安全の和風のザ・教室だな、なにか特別な機材が置かれている訳でもない)
「さ、皆さん静粛に! 転入生を連れてきましたよ!」
教室のクラスメートたちが一斉に落合の顔を見る
「自己紹介をお願いしてもいいかな?」
「は、はいぃ……落合真です! えっと青山からやってきました。よろしくおねがいします!!」
と元気よく挨拶をし、バッと頭を下げる落合
するとクラスメートたちが拍手をする
「真くんの席なんだけど、花梨(かりん)ちゃんの隣の席ね、あそこ」
と言って柊は窓際の席を指差した。
花梨と呼ばれた少女は丁寧に手を上げ、自分が花梨だと落合に伝える
二人のフォローもあり難なく落合は自分の席に着席する事ができた。
「よろしくね、私は大音寺 花梨、一応このクラスでクラス委員長やってるからなにか困りごとがあったら遠慮なく私を頼ってね」
「は、はいぃ……よろしくおねがいしまっすぅ……」
(大音寺家の子か、通りで……)
「それではここからは予定通り授業を始めますよ!」
ここから昼までの授業はなんてことない普通の学校でやるような授業が繰り広げられた。
(魔法専門とは言っても学校は学校という訳か、学校には行ったことはないが授業内容も昔と大して違いないだろう、ただの興味本位でやってきちまったが大分暇だな)
落合はクラスメートたちを眺める
(このクラスには日本人しか居ないが他のクラスには他国の人間もいる、使える言語によってクラスを分けてるみたいだな)
そして昼がやってくる
「落合君、学食まで案内するね」
「は、はいぃ……よろしくおねがいしまっすぅ……」
花梨に連れられ落合は食堂まで連れて行かれる
昼に入ったばかりだと言うのに食堂にはすでに大量の生徒たちが二つの食券機の前に列をつくっていた。
「落合君の口に合うモノがあるといいけど……日本人向けのメニューだとうどんとかカレーは毎日あるけど他は日替わりなんだぁ」
「僕、好き嫌いないんでなんでも食べられると思いますよ!」
「そうなんだ。いいなぁ私は苦手な物が多くって食べる物がなくて困っちゃう日がよくあるんだよねぇ……」
(苦手な食べ物が多い、というより大音寺家は代々重い魔力障害を持って生まれてくる子供が多かった。その中でも一番多かった症例は栄養の摂取障害、一部の食材以外からは栄養を補給する事ができず、吐き出してしまう、この子も同じなんだろう)
「おぉー花っちが食堂に来るなんて珍しいじゃん!」
「や、花梨」
二人の女子生徒が花梨に向かって歩いてくる
「そのお隣さん誰? ま、まさか、カレ――」
シという言葉は隣にいた女子生徒が口を塞いだことで止められる
「こーら余計なことは言わないの」
「ふぁい、わかりましたよー」
「あはは……」
「で、その子は誰なのさ、実際のところ」
「今日転入してきた私と同じクラスになった落合真くんです」
「おぉ、真かぁ……じゃあ、まこまこね」
「こぉら、勝手にあだ名をつけないの、それと自己紹介」
「そうか、ごめーんねまこまこ、私の名前は名手(なで)梨里(りり)それで隣のこの麗しき美少女は荒川(あらかわ)小夜(さよ)」
「恥ずかしい変な二つ名をつけないでくれる?」
「えぇ!? 美少女って呼ばれて喜ばないなんて! そんなの女の子じゃない!」
「うるさい、静かにしてよ……ごめんね落合くん、この子この通り騒がしくってさ、もし絡まれたら私に教えてね、なんとかするから」
「もぉ、人を厄災かなんかみたいに言わないでよぉ」
「はいはい、花梨、これ以上邪魔しても悪いから私達は消えるね、さ、行くよ梨里」
「ちょ! ま、まってよぉ!」
と慌ただしく荒川の後を追う名手
そんな二人の後ろ姿を見て花梨はふふっと微笑む
「面白い人達でしょう? 仲良くしてあげてね」
「は、はいぃ……」
落合はカレーを頼み、花梨と一緒の卓で食事をした。
花梨は持参してきたお弁当のおにぎりを二つぱくぱくと食べた後に落合の緊張を解こうと落合と他愛のない世間話をする
「魔法学校って言っても名手さんや荒川さんを見たらわかる通り、普通の人達が多いからそんな緊張しないでも大丈夫ですからね、皆さん優しいですよ」
「はいぃ……」
(普通なように見えるだけで普通じゃないのがちらほら居るがね)
落合は一人の男子生徒を見つめる
(神託(しんたく)得た子供か、アイツ等まだこんな遊びしてやがるのか、クククッ懲りねぇな)
落合は食事を終えたあと、花梨と別れその男子生徒が食堂から出ようとしたところで呼び止めた。
「あのすんません、これ落としましたよ」
「え? あぁ、悪いな」
といってその男子生徒はハンカチを受け取った。
「……えっとお前、あれだよな転校してきたっていう……」
「はいぃ……落合真っていいます」
「俺は笠松(かさまつ)葉(よう)ってんだ。よろしくな、転校生くん、あの喧しいお節介クラス会長様の隣の席になっちまったのは災難だったな、まぁウザく感じる時もあるだろうがアイツには悪気はないんだ。許してやってくれよ、転校生くん」
と言って笠松は後手を振りながらその場を去ろうとすると
「葉!」
と再び呼び止める声がその声の主は花梨
「ちょっと落合くんに変なこと吹き込んでないでしょうね!」
「……言ってねぇよ、お隣の席のお節介な女には気をつけろ、って言っただけでな」
「言ってるじゃない!」
「あーったく面倒くせぇな、転校生くんこの通りこいつはこういう奴でな、きぃつけろ俺は少し授業に遅刻しただけで五時間お説教くらったことがある、そうあれは暑い日のことだった……」
「それは貴方が十五時に登校してきたからでしょう!? それに転校生くんって呼び方やめて、彼には落合真という立派な名前があるのですから!」
「そうかい、そら悪かったな”転校生”くん」
「もう!」
笠松は面倒くさそうに頭をかく
「俺はこれから昼寝しなきゃならないんだ。もう行くぞ」
「ちょっと!」
笠松は花梨の静止も聞かず足早にその場から立ち去っていった。
「……落合くん、あの人の言うことを真に受けちゃだめだからね? あの人はいつもああなんだから」
「は、はいぃ……」
「さっき言ったとおり次の授業は一時に第3演習場で行われるからね、そのままの格好でいいからね、忘れないでね」
と言い残し花梨もその場を立ち去っていった。
(神託の力は未来視と魔力増量か、とうぜん厄介な副作用もセットであるな……すっとぼけた事を言ってたが相当苦労をしてきたハズだ。あんな子供にそんなもん与えてどうするつもりなんだ? 何を考えてやがる……俺が居た時代にはそんな勝手は絶対にしなかったが俺が居ない間に好き勝手やってくれてるじゃないか)
次の授業までまだ時間があったので学園をしばらくの間ぶらぶらすることにした落合
なにか目新しいモノでもないかと廊下を歩いていると小学生ていどの身長の子供たちが落合の隣を走って通り過ぎていった。
(小中高大一貫とか言ってたな、あの子らも変なもんに取り憑かれてたり変なもんが身に宿ったりしてたな、気まぐれな神様連中ならともかく精霊だったり妖怪だったりがこんな盛んに人間に干渉してきてるってことはなにかあったな? 連中が大騒ぎするほどの問題が起きてる、まぁどうせ大したことじゃない、クククッ今の処は様子見をしておこう、俺が出張ってまた連中に頼られるのも面倒だ)
この地球でなにか起こっているということはこの学園に居る生徒たちを見て分かったが落合はそれを一先ず放置することに決め歩みを進める
「あのすみません。落合真さんに間違いありませんか?」
と和服を着た少女が後ろから声をかけてきた。
「後ろからいきなり申し訳ございません、私の名は明宮(はるのみや)櫻乃(さくの)と申します。こちらの学校で生徒会長を務めさせて頂いております。今回は貴方の制服と運動着を届けに参りました」
と言って落合に制服とジャージを手渡す櫻乃
それをあわわと言いながら受け取る落合
「今回はこちらの不手際でお手数をおかけしてしまったみたいで申し訳ございませんでした」
「あわわ……」
と頭を低くさげる櫻乃を見て最強の魔術師と呼ばれた落合も多少の罪悪感に苛まれる
(こんなことになるぐらいだったらやっぱり記憶も弄っておくべきだったか? それにしても明宮の奴が大音寺家管轄の施設に居るなんてな、百年前なら考えられなかった。アイツ等アホほど仲が悪かったし)
「サイズが合ってなかったら遠慮なく言ってくださいね、すぐに変わりの物を用意しますから」
と頭を上げてから言って片方赤もう片方が青の瞳で落合を見つめる
(魔眼、赤は魔力を映し青は未来を映す。笠松の神託の力と似てるがこちらの方が見える範囲は狭いし正確性は低いな、大した力を感じない、それに常時発動しっぱなしか制御の仕方は教わらなかったのか? それともまだ連中、魔眼の制御方を発見してないのか? 恐らく後者だろう、方法を知っていたら魔眼を2つ持って生まれた明宮家の希望たる子供にその方法を教えない訳がない、魔眼は体力と魔力を相当消費
する、そんなもんを2つもぶら下げて挙句の果てに年がら年中ガンガンに発動しっぱなしじゃ日常生活もままならないだろう)
「それではそろそろ失礼します。どうかここでの学生生活が貴方にとって大切なモノの一つになりますように」
と言ってニコリと微笑んだ。
「は、はいぃ……よろしくおねがいしまっすぅ……」
(明宮の連中は未だに魔眼に取り憑かれてると分かって嬉しい限りだな、扱えもしねぇ癖によ)
と真っ直ぐに背筋を伸ばしたまま姿勢を崩すこともなく立ち去っていく櫻乃の背中を見ながら落合は思う
早速手渡された制服に袖を通す落合
「サイズはピッタリ、誰かが俺を何処かで監視してる様子はなかったあの警備員の連中か担任の教師が俺の身体のサイズを目安で測ったのか、いい目をしてるな」
鏡で服の着こなしを確認したりすることもなく落合はまだ時間はあるが早速第3演習場に向かう
(なにを演習する場なのかと思ってきてみたが、こりゃまるで軍の演習場だな、殺しでも教えてんのか?)
「お、転校生くん早いな、まだ授業の時間じゃねぇぜ?」
と笠松が話しかけてきた。
「か、笠松くんはここでなにを?」
「同級生なんだ。呼び捨てにしろよ、笠松でも葉でも好きに呼んでくれ、俺はここで少しやる事があってな」
と心底面倒くさそうにしながら語る笠松
「笠松、待たせたな」
と一人のシュッとした高身長の男が笠松に向かって言った。
その後ろには男と女も一人ずつ立っている
「今日の演習会に付き合ってもらって感謝している」
「付き合わなきゃ、延々と粘着されそうだったんでね」
「ははは、そうかもしれないな、こんな気分は初めてなんだ。君のような可能性の塊に出会う事ができるのはここでも珍しくてな」
「兄貴、御託はいい、さっさとこいつと戦わせてくれ、俺はこの日をずっと待ってたんだ。笠松、お前と本気でぶつかれるこの日をな」
「洋次(ようじ)これはあくまでもデータ収集の為の演習だ。それを忘れるなよ」
「わぁってるよ、んなこと」
「二人しか居ないけど、どうすんの? これじゃ演習になんないわよ」
「だったらタイマンでケリつけりゃいい」
「一対一では欲しいデータは得られない、足りないのであればこちらで用意をしようか?」
「安心しろよ、すぐに来る」
笠松がそういうと二人の女がやってくる
「はぁい、黒夜(くろよ)三兄弟さんたち」
と女子生徒が黒夜と呼んだ三人集団に向かって手をふる
「笠松くぅんがぁどうしてもって言うんでぇ、やってきましたぁ」
と手を振っている方とは別の女子がニコニコしながら三兄弟にむかってそう言った。
「笠松くぅん。明野(あけの)ちゃんはともかく私は高いよぉ?」
「私だって高いわよ!」
「分かってるよ、コロッケパン、3日分でどうだ?」
それを聞いて女子二人は目を輝かせる
「おぉ! ホンキ? ほんとぉのほんとぉにいいの?」
「貴方、死ぬ気?」
「仕方あるめぇよ、アンタ等これぐらいやんないとやる気出さないだろ?」
「よぉく、私のことが分かってるみたいでうれしいよぉ」
その様子を傍から見ていた黒夜兄弟
「明野(あけの)珱姫(ようひめ)に東原(ひがしはら)木葉(このは)か、面白い組み合わせだな」
「なんでもいいから始めようぜ」
「早くしないと昼休み終わっちゃうわよ」
「そうだな、そろそろ演習を始めようと思うんだがそちらの準備はいいか?」
「私はいつでも大丈夫」
「わたしもぉ」
「とっとと終わらせよう」
と一人あくびをする笠松
「そうかでは細かいルールは省くが普段授業で行っている演習と同じルールで試合を行う、それぞれ三人チームで攻撃と防御側に別れ3ゲームごとに後退する」
「1ゲーム何分だ?」
「時間があまりないから1分だ。1分で攻撃側が防御側の護衛対象を破壊出来れば攻撃側の勝利、1分以内に防衛できれば防御側の勝ちだ」
「それじゃ防御側が有利すぎやしないか?」
「安心しろ、そこは考えてある――」
と演習とやらのルールを延々と喋り続ける黒夜をジッと見詰めている落合
(演習ってよりスポーツみたいなノリだな、この演習一つで自分の命が助けるかもしれないみたいな危機感は感じない、まぁそりゃそうかここは軍事施設じゃないんだし今は人間的には平和な世なんだろうからな、そこまで必死に演習やらなんやらをやる必要はない時代って訳だ)
笠松と黒夜が演習を行うと聞き付けギャラリーがその六人を囲う
やいのやいのと六人を煽るギャラリー達
その演習で賭け事を堂々としている者もいた。
(……人が増えて分かったが不安定な連中が多すぎやしないか? ちょっとした感情の起伏で魔力が暴走するかもしれんレベルの連中があちこちにいやがるぞ、魔力制御の技術はこの百年で殆ど発展しなかったみたいだな)
落合の隣に立って居る女子生徒もその不安定な連中の一人だった。
「……なに、これ……いやだ。いやだいやだ……」
周りの騒がしい騒音の中その女子生徒はそうぼそぼそと言ってその場を逃げるように立ち去っていった。
(精神系の魔法を扱えるが故に周りの強い感情の揺れに敏感でそれが原因で精神系の魔法を扱えるヤツは自分の精神を壊すヤツが多い、あの子もそろそろ限界だな)
落合はあわわわわわわと言いながら人混みを掻き分けその女子生徒の後を追った。
女子生徒は演習場から離れた本校の隅でしゃがみ込みガタガタと震えていた。
落合はその女子生徒に声をかけることはせず黙って彼女の魔力を完全に制御し頭の中に流れ込む周りの人々の感情を全てシャットアウトした。
(変わりに俺が解除しない限り魔法は使えなくなるがね)
誰か近付いてくる気配を感じ落合はその場から姿を隠す。
「綾野(あやの)! 大丈夫!?」
と震えている女子生徒に声をかけながら近付いてくる金髪の女子生徒
「ニナ? ニナ!!」
と震えていた綾野と呼ばれた女子生徒がニナと呼ばれた金髪の女子生徒に抱きつく
「震えてるじゃない……保健室に行って先生に診てもらお? あんな授業受ける必要ないよ」
「ううんいやだ。ニナの傍がいい……それにここに来たら少し楽になったんだよ? 大丈夫だからニナの傍に居させて……?」
と涙ながらにニナに訴え掛ける
(あぁいった不安定な連中も昔は放置されそのまま野垂れ死ぬのが普通だった。それを考えればやり方は未熟でもこうやって子供達を救う姿勢を見せているだけ人間界にとって大きな前進と言ってもいいだろう……まぁ俺にとっちゃどうでも良いことだが)
落合は壁にかがれられて居る校章を見詰める
「……!」
先程の演習場から何やら普通ではない気配を感じ落合は転移魔法で演習場に瞬時に向かう
するとそこには黒夜洋次と呼ばれていた男子生徒の上に馬乗りになり魔法で生み出した剣でその喉元を突き刺そうとしている笠松の姿があった。その目は真っ青に輝いていた。
周りのギャラリーは悲鳴を上げ、近くに居た生徒達はそんな笠松を止めようとしている
(笠松のヤツ、操られてやがるな? この中にあの凶行を止められそうなヤツは居ない、俺がやるしかないか、趣味じゃねぇんだが仕方ねぇ)
落合は瞬時に笠松の脳内に自分の魔力を流し込み笠松を操っている魔法を解除しようとする、その時に笠松の記憶が落合に逆流してくる
「坊ちゃま、坊ちゃま! もう朝で御座いますよ!」
「もぉわかってるよぉ、でももうちょっとだけ……」
「坊ちゃま、坊ちゃま! お勉強はもうすんだのですか!?」
「後でやるよぉ……」
「坊ちゃま、坊ちゃま! お誕生日おめでとう御座います!」
「べ、べたべたしないでよ、恥ずかしいだろ……」
「坊ちゃま、坊ちゃま! 制服、よくお似合いです!!」
「もうそれ何回目だよ、褒めすぎだよ……」
「坊ちゃま……坊ちゃま……そこにいますか?」
「婆や、婆や! 大丈夫、大丈夫だから!! た、たすかる、死なないでお願いお願い……!!」
「あぁ……よかった。無事だったのですね……」
「いやだ! いやだ!! ボクを一人にしないで……」
「坊ちゃま、大丈夫で御座いますよ……アナタは一人にはならない、アナタはお優しいから……」
そう彼女は言って息を引き取った。
今でも思い出す。婆やの温かい身体が徐々に氷の様に冷たくなっていく感覚を
俺が子供の頃に死んだ両親の変わりに婆やは俺をずっと傍で面倒見てくれてた。そんな婆やが車道に飛び出した俺を突き飛ばして死んだ。俺の所為で死んだんだ。
俺の両親もそうだった。あの二人も俺を護る為に……死んだ。
婆やが死んだあの夜に俺はアイツの声を始めてきいた。
「坊主、悔しいか? 悔しいよな? またお前の所為で身内が死んだぞ、なぜだか分かるか?」
「……」
「オメェが弱いからだよ!!」
「! お、お前は誰だ!」
「ひでぇなテメェに神託してやった神の名も知らねぇのか」
「……ま、まさか……」
「アッハハハハ!! とは言っても俺に名前はないがなぁ! まぁ俺のことはナナシとでも呼んでくれ」
「……ボクになんの用だ」
「お前も薄々分かってるだろ? お前は自分の周りの人間を不幸にする力がある」
「……」
「それはお前の神託の力の一部だ」
「ふ、ふざけるな!! お、お前の所為でボクの父さんと母さんは……! 婆やは……!!」
「だがその変わりにお前は多くの人々を救える力を得ただろう? 我が儘を言うな」
「な、なんでこんな力をボクに……なんでボクなんだよ!!」
「お前が最も適任だったからだ。でけぇ力にはでけぇ代償が付き纏う、それを忘れるなよ、笠松葉」
この日から俺は人を遠ざける様になった。
「葉……あの、近くに居てもいい?」
「うるっさい! お前うざいんだよ! どっか行けよ!!」
「……ごめんね」
幼馴染みの花梨も泣かせた。
優しくしてくれたみんなに俺は唾を吐いた。それで良いと思ってたそれが最善なんだと思った。それが俺の人生なんだと思った。そう生きるしかないんだと思った。
だけどこの学校に来て俺は……
「葉! また遅刻!? 今日で何回目だと思ってるの!?」
「はっぱちゃん! どうしたん? 具合でも悪いん? 悩み事があるならこの名手ちゃんにおまかせ! だよ?」
「こぉら、笠松が困ってるでしょ? そんなグイグイいかないの」
「おぉい! 笠松!! 今日の演習サボりやがったな!! 放課後に演習場に来やがれ!」
「少し落ち着け洋次」
「おぉお熱いラブコール、ラブラブだねぇ笠松っち」
思っちまった。別の生き方があるんじゃないかって、でもやっぱりそんなモンはなかったんだ。
そんなモノは俺には許されなかったんだ。
俺は人を不幸にする
「そうだぁこれでよぉーくわかっただろぉ!? お前は一人で生きるしかねぇんだよ!!」
「ナナシ……そうだな、そうだったよ、ごめんみんな、ごめんなさい、母さん父さん……婆や……俺、また人を不幸に……」
「そうだお前は一人だ。それしか生き方はねぇのさ、これで思い出せただろ? お前がその使命を思い出せるなら安いもんだろ人の命の一つや二つ」
「やめろ……」
「さぁ殺れ」
「やめてくれ……」
「さぁ!!」
「まるで詐欺師だな」
笠松とナナシしかいない筈の空間に別の人物の声が聞こえたので驚きその方を振り向くとそこには両目を斑色に輝かせる男が立っていた。
「よぉ! 悪いなお取り込みの最中お邪魔して」
「誰だぁ? てめぇ……」
「落合……?」
「誰かと思ってやって来たら、なんだよ人に忘れられた神かよ、クククッ消えかけのクソザコが人間相手に必死に威張り散らしてる様は見るに堪えない、だからよ、俺の祈りを聞いてくれよ神様、どうかのたうち回って苦しんで……死ね」
斑色の瞳が怪しく輝くとナナシに無数の光の光線が降り注ぎナナシの全身を貫く
「は、ははは!! アホかぁ!? お前!! 俺は神、不老不死なんだよ!! ――!?」
ナナシの身体は瞬時に回復したが身体は動かず
「な、なんだこれは……い、いたみ? ば、馬鹿な、そんな馬鹿な!!」
「この世に不死は存在しない、不死と呼ばれてる連中は殺し方が分からないから不死と呼ばれてるだけの話でな、殺し方はちゃんとある、どんなモノにもな」
ナナシは苦しみのたうち回る
「実は即死させてやる事も出来た。が、それじゃ面白くないからお前には踊って貰うことにしたよ、大いなる力には大いなる代償が伴う……だったか? だったらお前がその代償を支払う番がやって来たのさ、今日この時この瞬間によ」
「落合……お前は一体……」
「宇宙最強の魔術師、そう呼んでくれ、まぁ此処で起きた事はお前は忘れちまうだろうからこんな事言っても無駄だと思うが」
「……」
笠松は落合の斑色の瞳をジッと見たまま、涙を零す。
「ありがとう、落合」
と言い泣き崩れた笠松の肩を叩く落合
「安心しろ、全部終わらせる」
と言って落合は再びナナシに視線を送る
「苦しいかぁ? えぇ? クククッなぁ? お前、もしかしてそろそろ死ねるとか思ってんじゃないだろうな?」
落合は目の前に黒い空間を生み出しそこにナナシを閉じ込める
「どうか神様、お願いします。どうか! どうか!! そこでゆっくりとジックリと永遠に払ってろ、代償をよ」
「よ、よせぇ! 殺せ! 殺せ!!!」
両手をパンと叩き空間を閉じる
「私めのような哀れな羊の願いを聞き入れてくれて共栄至極で御座います。”神様”よ」
そう言って落合はその場から立ち去ろうとする
「落合!」
それを止める笠松
「これで神託の力は消えた。後は好きに生きろよ」
「ここで起きたこと本当に忘れるのか? お前が俺にしてくれたこと全部」
「ここは精神の世界、この世界で起きた事を記憶出来る力はお前にはない、それに憶えて貰ってちゃ困るんだよ、俺の本当の姿を知られたらモテモテになって困っちまうしな」
「……忘れない」
「は?」
「絶対に忘れない! お前のこと! 忘れても絶対に思い出すからな! 落合!」
「……ハハハッじゃあその時を楽しみにしてるよ、”泣き虫”くん」
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