あの女・3
その宵、風呂敷包みに絵描きの道具入れて猫茶屋に現れた旦那を、茶屋の主人は値踏みするように眺めた。
若紫に聞いた通り、こざっぱりした仕立ての良い着流しを着込んで少々めかしたのはどうやら功を奏したようで、主人は途端に相好を崩す。
金を持っていそうかどうか……旦那はどうやらお眼鏡にかなった様だ。
「おっと旦那、猫は外で待たせておくんなさい」
茶屋の主人が言うので、
でも笠木を昇りゃ外から中を拝める。
あの世間知らずを一人にするのはどうにも不案内で、
座敷に上がったら先ずは酒宴、格の高い遊女は芸事見せて
旦那の座敷にも酒宴の仕度は有りましたが、旦那そいつにゃ目も呉れずしきりに絵ばかり描いてなすった。
「慎さんは絵が上手だねェ」
若紫が褒めると、旦那は少しばかり困った顔に成った。
「師匠からはお前の絵には色気がねェと言われてな。上手い下手だと云うのなら、下手ではないが色気が無いと。俺にはどうにも其れが解らぬ」
「何だい、それで
こくりと頷く旦那を見て、若紫は更に
「
「や……その……」
おたおたと狼狽えると、若紫はまたからからと笑う。
「全く、可愛いお人だよ」
呟いて、少しばかり寂しい目をしたのを
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます