かなう願い

・リカルド 王都への道

 皆が歌っている。こちらの世界の鉱山節だな。しかし、なんだかなー。前世のポップな曲に慣れた俺にとっては、その味が分からない。

 まあ、演歌も同じだったな。前世で、もう少し長生きできていれば、その良さが分かったかもしれないが。

 撤収許可が出た。今は帰路についている。

 荷駄隊の積荷は歩けなくなったエリート兵、重い武器、防具。あ、俺もか。


 俺たちは商会だ。軍隊の行進曲は知らない。荷台のエリート兵が文句を言っていたが、あきらめたようだ。

 生き残ったことを皆喜んでいる。軍功は辞退したが、内々に褒美が出ることになっている。皆自信を付けた。

 貴族にも負けない。内心ではそう思っているだろう。


 行軍の最後尾。本当なら軍功第一で先頭なのだが、正規軍ではないし、目立ちたくもない。皆に諦めてもらった。

 後ろがいないので、追い立てられたりしない。気楽に進める。山賊などを警戒すべきだが、ここには聖女(アルフィーナ)も乗っている。彼女の親衛隊みたいなものが、できていた。彼らは、この一団と一緒に進む。護衛してくれるので楽だ。だから、問題ない。

 いい天気だ。


「しかし、ほんとに、第二王子はお馬鹿だよな~」

 御者が話している。おいおい、不敬罪だぞ。注意しろ。ジークで目で指示を出したが、ジークは言った。

「若、大丈夫です。今、全軍がその話をしております」

「全軍? 大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。リカルド様」

 アルフィーナが話に入ってきた。さっきまで寝てたのに。


 よくわからない顔をしていたのだろう。ジークが説明してきた。

「王子が戦死した。普通なら補佐する将軍や近習が責を負わねばなりません。ですが姫殿下は、王子が兵を捨てて逃げ出したことを大々的に公表しました。彼らを守り、抱き込もうとしています」

「ふむ」

「王子は愚かにも忠告を聞かず、油断した。しかも皆が諫めたのに酒を飲んでいた。誰の助言も聞かない愚か者を、どうやって補佐しますか?と言いたいのでしょう」

 なるほどね。全責任をトップに取らせた。いいね!俺好みだ。やるな!姫様。


 アルフィーナが嬉しそうにして言った。

「それに蛮勇王を怒らせたのも王子だと。前々から蛮勇王の三姉妹をよこせと言っていったそうですよ。一人ならまだしも、三人とも。皆美しいと評判ですものね」


「!?」




・聖女アルフィーナ

リカルド様が、急に不機嫌になった。どうしたのだろう。


「それは本当か?」

「はい。姫殿下もお怒りになって公表しています。評判になってますよ?」

・・・

「どうなさいましたか?」

・・・

心配になりました。



「悪い。俺はこの戦、急に言われてここに来たんだ。みんなが心配だった・・・」

「?」

「メイティールが、アルフィーナが、学園の友人が殺される。それを防ぐことしか考えなかった・・・」

「はい」

「だが、蛮勇王から見ればどうだ。娘をよこせ、領地をよこせ、金を払え・・・許せなかっただろうな」

「・・・」

「ふっ。俺は馬鹿だ。仲間を失っても多くを助けた。戦功も上げた。俺を馬鹿にしていた奴らも、俺を見直すだろうな。ざまあみろと・・・」


・・・リカルド様は目を伏せています。・・・


「俺たちは悪の軍隊だ」

「若!何を言われる?」

「聞け!」


「魔王が王に、娘を生贄によこせという。王は知恵を絞って賢者を呼び、耐えてチャンスを作って魔王を滅ぼそうとした。・・・そこに現れたのが俺だ。立ち塞がって魔王を逃がそうと邪魔し、集まった大切な兵を罠にかけ、捕らえ、殺した。」

「・・・」


「相手から見れば、そういうことだ。許せないだろう」

「若、言われることは分かりました。でも我々一兵卒には何もできません。生き残るためには仕方がなかった。そうは思いませんか?」

リカルド様はジーク殿を”じろり”とみて言われた。

「俺には力があった。”火薬”を使えばどうなるかも、知っていた。そして仕方がないと使った。だが、悪の軍団側として・・・死んだ蛮勇王の兵達には言い訳できない・・・」



リカルド様は、ポツンとつぶやく。

<あの中には、未来の勇者がいたかもな、>


リカルド様は、もう私たちを見てはいません。

「あんな奴らにはならないと、思っていたのに。考えなければならぬ時は、もっともっと先だと思っていたのに・・・そうか、もう既に、あんな奴らと同じになってしまったのか・・・」

・・・あんな奴ら?・・・

リカルド様は、もう話しかけても、返事しません。

うずくまって何も言わなくなってしまいました。




・ミーア 帰路途中の宿にて

 暗くて顔が見えませんが、ご主人様は苦しんでおられる。

 それだけは分かる。


 ご主人様?

「ミーア。すまない。ごめん。一緒にいてくれ」

 ご主人様が、私を求めている。

「わかりました」


 私でよろしければ・・・




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ヒールが効かない貴族の息子 @moguzo

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