戦争の後始末
第一王女メイティール
戦さの”あらまし”が分かってきた。
思いの外、死者が少ない。
こちらは、まず逃げた。敵は追ってきたが、騎兵と歩兵は速度が違う。騎兵と歩兵が分離した。その合流を火薬が阻止。敵はそれなりの距離を走って、疲れていたのだろう。勢いを止められ、戦意喪失。包囲され降伏。
追いかけっこして、疲れてやめた。私はそう理解した。
そんな事を言ったら、リカルドに怒られるな。死んだ人もいる。とくに”火薬”で死んだ者が多い。リカルドには言えぬな。
降伏の偽装だが、あれは兄上が悪い。
蛮勇王の三姉妹を、皆寄越せとは!一人なら友好の証になるかも知れないが、三人なら嬲って辱めるだけだと、皆考える。
それを知らないまま敵本国へ攻め込んだら危険であったな。敵国民には反感を持たれてしまった。必ず原地部族が激しい抵抗をしたはずだ。危なかった。
リカルドが倒れたので私は進む気はなかった。
私情に走って、この地に留まったが。良かった、良かった。
元々、王の温情を示して、彼等を傘下にするのが目的であったこの出征。
これでは逆だ。
兄上には、全ての責任を取ってもらおう。
この交渉内容。全て公表する。無様に戦場を逃げ死んだこともな。我が国が悪いのではない。全て死んだ兄上が悪い。そう言う風に持っていこう。
そして、残された兵には兄の死の責任はない。何の問題も無かった。そうかばって恩に着せる。
考えなければ、ならぬことが沢山ある。
敵歩兵は、奴隷兵が多かった。明け方に開戦し、勝ちいくさの戦果を拡大する為だったそうだ。
だが、分断されたので、簡単に降伏した。奴隷兵だものな。敵精鋭も、それで戦意喪失。運が良かった。
リカルドが馬鹿みたいに沢山、兵糧を持ってきていた。捕虜が多い。助かった。食糧は治安回復にも役立った。みなに配って近隣の部族は服属させた。
リカルドが ”衣食足って礼節を知る” とか言っていた。そんな感じだ。
そのリカルドだが、昨夜はフィーナと一緒だった。
いまの私の立場では、それができぬ。
ずるい。
・将軍
ヴィンダー侯爵に呼ばれた。側近は、みな下がらされた。
「撤兵許可が出た。帰る。」
「は!」
「第二王子は戦死した。だが貴殿は奮闘した。そう言上する。」
「!」
私は良くて隠居。おそらく死罪と覚悟していた。
「ありがたく存じます・・・。」
よいのか?助かってよいのか?
・・・
「落ち着いたか?」
「は。ご厚意、感謝いたします。あわせてリカルド殿にも我が軍を救っていただいたことを、生涯忘れはしません。何なりと命じください。」
「そうか。わかった。早速だが第二王子が指揮していた軍を姫殿下直属としたい。姫殿下はまだ学生。だが彼女は優秀だ。そうは思わんか?」
「勿論でございます。それにすでに、姫殿下は軍を掌握しています。王の決済があれば問題ありません。」
「そうよの。だが貴殿が確実に生き残るのが肝要じゃ。貴殿は第二王子を諫めたが、第二王子は酒を飲んで油断した。そういうことだ。他にも第二王子の失点を集めなければならぬ。戦闘詳報も吟味する。時間がない。頼むぞ。」
「は。」
「リカルドは第二王子と謁見後、不安に思った貴殿と姫殿下から、あの最終防衛線を構築した。そう記せ。」
「よろしいので?」
「リカルドは正規の軍属でない。あそこに櫓を立てたのは貴殿の指示だ。そのほうが都合がよい。リカルドもそう言っておる」
「は。功を譲っていただいたこと。生涯忘れません。」
「うむ。」
私を厳しい目で見つめていた侯爵は、突然”にやっ”と笑った。
「貴殿は姫殿下のあの目をみたことがあるか?強いぞ。わしは小娘と思っていたが、あの強い目を見た。震えたぞ。」
「!?」
「姫殿下の恩に応えるのもよい。だが、あの強い目を見ることができれば、仕えるのも楽しそうだ。将軍、頼んだぞ!」
「!」
侯爵は出ていった。
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