神の御意思

・隣国 ???


「どうした?聖女は確保できたか?」

「申し訳ございません。蛮勇王は敗れました」

「なんだと。秘術を使って負けたのか?内応した者どもは、どうしたのだ?」

最近名高い、敵国の聖女。

秘術と交換で、蛮勇王がとらえた場合は、こちらに引き渡してもらうことになっていた。


「彼らは我が火球をみて、予定通り隊を混乱させ、逃げました。他の敵もつられて逃亡を図りました。予定通り動いています」

「それで」

「蛮勇王主力騎兵は、敵本陣を直撃。崩しました」

「そこまで行けば、勝ったも同然ではないか?なにがあった」

「敵補給部隊が簡素な櫓と柵を作っておりました。蛮勇王は逃げる敵を追って突撃しましたが・・・」

「続けよ」

「櫓から弩が放たれ、着弾とともに爆発。密集していた軍を直撃し、多くの指揮官が倒されました」

「・・・」

「蛮勇王はなお、進もうとしましたが、敵第一王女メイティールが立ち塞がりました。メイティール姫は炎をまとった剣を使っていました。それに怖気づいたところに、また爆発があり、その柵を破ることが、できなかったようです」

「そうか。残念だ。敵にも隠している”もの”があったのだな。」

「それから”聖女”ですが・・・」

「うむ」

「逃亡ルートに暗殺者を忍ばせて待ち受けておりましたが、聖女は逆方向の戦場に向かってしまいました」

「そうか。それもダメだったか」

「はい。代わりに敵の第二王子・元帥が逃げてきましたので、打ち取っております」

「そうか!それは良かった」

「機転の利く者がおり、聖女に伝令を出しました。”第二王子が負傷。すぐ救護に向かれたし”と」

「おお。素晴らしい。それで。」

「ですが、聖女は”神の前に人は平等”と言って拒絶。伝令はなんとか連れ出そうとしたのですが、周囲の敵に抑えられてしまいました」

「ふん。小生意気な!つまらぬ正義感でも持っているようじゃな。」

「まこと、残念にございます」


「・・・もう少しであったの?」

「はい?」


「そうじゃな。”王を選んだのは神だ。王子は神に選ばれた。神のご意思に背くのか?”とでも言ってやればよかったのだ」

「ごもっとも。次の教訓としましょう」


・蛮勇王

 残念だ。

 敵を破ることができなかった。

内通者を作り、兵数を誤認させ、敵陣を分散させ、隣国の助力を得、秘術を使い、油断させて明け方に奇襲した。

火球を出した直後に敵の2部隊は予定通り撤退を開始。つられて正面も逃亡。火球に合わせて進軍し、我が精鋭は敵本陣を直撃。ワシは、その時、歓喜の雄たけびを上げた。

 憎い敵が逃げる。敵第二王子。我が至宝の三姉妹。美しく育った娘たち。みな側女に差し出せと、淫蕩にふける第二王子は言った。許さぬ。


 だが、我が牙は届かなかった。

 爆発、大音響。分からぬ。何が起きたのか?

 美しい少女を見た。


 ワルキューレ!?

 炎の剣を掲げて、我に立ち塞がる。兵が怯えた。破れない!


 兵を置き去りにして、逃げる。ただ逃げる。なんとか家族のところまで帰らねば。

 すまぬ。皆すまぬ。王の責務を果たさなかったワシを許せ。だが、あのような王子に娘達を差し出すことなど、できようものか。

 

 逃げる途中、村落で聞いた。

 敵第二王子、死亡。戦場を逃げ出して死んだ。

 笑った。大声を出して笑った。宿願がかなった。


 敵は死んだ。逃げるぞ。





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