前を見る
・リカルド
飯を食った。もう大丈夫。起きよう。
そう思っていたら父が来た。
フィーナに礼を言っている。
父には“心配おかけしました”と言っておいた。
父は「無理をするな。そのままベッドで寝転んでおけ。座らせていると聖女が怖い。安静にしろと言われているのだろ?」
と笑っていた。父上も冗談を言うのだな。
父は嬉しそうにしている。本当に心配かけた。
姫が来た。フィーナとミーアも一緒だ。
姫は危険を良く分かっている。その点は安心だ。
だが、公務に戻る前に”あれ”はないよな。
押さえつけられ、紅茶を無理やり飲まされた。
商会の皆に会った。良かった。皆元気そうだ。
ミーアの兄がいた。俺の懐刀だ。名をジークという。
今回でも有能さを示した。統率に優れ、運営、経営、情報管理、そして今回の戦闘。何でもこなす。
敵わない。
俺は廃嫡されても侯爵の息子。権力、資金、前世の知識があるから彼の上に立っている。逆であっても、おかしくない。
俺をみて、嬉しそうにしている。ありがたいことだ。
「若。逃げ出して殺害された第二王子ですが、補給基地後方の隘路で襲われています」
「どういうことだ?」
「敵は”勝てる”と思っていた、ということです。暗殺者を忍ばせていた。必ず逃げてくると」
「まあ、そうだよな。あんな隠し玉があるなら、そう思うだろう」
「聖女様にあった伝令ですが、あの後行方が知れません」
「?」
「第二王子の伝令ということは、それなりの身分です。その者が誰だったか、確認できると思ったのですが・・・」
「悪い。なにを言っているか、わからない。」
「逃げた王子は護衛共々、皆殺でした。伝令は変です」
・・・
王子を生きて確保する。これが敵として最善のはずだ。身代金もとれるし交渉にも役立つ。だが、死体があったということは、抵抗され、殺してしまったのだろうか?護衛共々皆殺し。ということは、あの伝令が出せる状況ではなかった?
「ジーク。その伝令は偽物だったと?」
「そう考えられます」
「狙いは聖女の連れ出し・・・」
「その通りかと。聖女様は危難を乗り越えられました。神のお導きかと。」
「暗殺者はどちらだ?蛮勇王の者か?隣国の者か?」
「怪しい轍が、隣国へと」
「隣国か。轍?では聖女の拉致が目的か?」
「そう考えております」
「ありがとう。隣国の動向。引き続き、注意してくれ」
俺は“第二王子は後回し”と言ったフィーナのことを“愚か”だと思った。
だが、伝令に従っていれば拉致されていた・・・
伝令が、”俺が怪我をした”と言ったとしたら・・・ついて行ってしまったか?
愚かだったのは俺だったか・・・
・リカルドの従者 ジーク
若と丘に登った。仲間6人の墓がある。
俺たちは、もともと奴隷だ。墓がある。十分だ。
カール。マルコ。ジョン。ポール。カルロ。ピエール。
若は黙って手を合わせている。
「若。ここに眠る皆は、若を守れて満足していると思います」
・・・
「皆、若がここに元気に参られて、安心していることでしょう」
・・・
「若、皆のため、泣くのをお止めください。前を向いて、我々のような、多くの人に幸せを与えてください」
そうだ。前を、前を見なければ・・・
自分の言葉に、自分が押される。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます