女帝

・侯爵ヴィンダー

姫殿下はよくやる。

残敵掃討。捕虜の武装解除。負傷者の治療。食料配給。近隣の治安回復。戦死者埋葬...

そして第二王子直属部隊の掌握。

第二王子を失って混乱した軍を見事にまとめた。

評判が良い。

必死に公務をする様子も、皆の心に刺さった。


聖女と”仲良し”なのも良い。聖女の評価はうなぎ上りだが、そのまま姫殿下の評判なっている。ここに聖女を連れてきたのは姫殿下。そういうことに、なっている。


姫殿下はリカルドを連れて脅威を指摘した。

だが、愚かにも第二王子はそれを無視した。

それでも姫殿下は諦めず、最終防衛線を構築した。

一歩も引かずに戦った。

「姫騎士のファイヤーソードは太陽の欠片を鍛えし剣なり。勝利へ導く神の剣」

そのようにも謳われている。


わしは特使。

蛮勇王との降伏条件を整えるのが仕事であった。

領土の一部割譲。蛮勇王の臣従。年始には我が王へ謁見すること。

王の温情を示す、甘い条件。これが基本方針だった。

 

だが敵は第二王子を殺している。

降伏を申し出ている中で奇襲するなど信義にもとる。

わが王も、蛮勇王自身の引き渡しを含めた厳しい条件でないと、納得せぬ。

和平はない。 

追撃するか?


リカルドがもたらした情報は正しいだろう。皆の見た巨大ファイヤーボールは隣国の秘術。援軍があれば立て直せる。

それに蛮勇王は生きておる。彼は許されると思うまい。必至で抵抗するだろう。


弔い合戦は危険じゃ。

帝都に戻ってやり直しだ。

将軍とも意見が一致した。そろそろ撤兵の許可が入るはず。

皆を連れて帰らねば。




・侯爵ヴィンダー

姫殿下に別室へと誘われた。

ここには、姫殿下の護衛騎士たちがいる。

「御父上。私は兄上の兵たちを継承したいと思います。可能でしょうか?」

”御父上”か。一足飛びに距離を詰めてきた。早いな。好感を抱きながら、良い”ネゴシエーター”になれるのでは?などと、取り留めもないことを考えた。

リカルドは姫殿下の許嫁としては不適とされた。だが、姫殿下は揺るがない。

強く、美しき姫よ。果報者だな。リカルド。

だが、リカルドは間違いなく尻に敷かれる。

姫殿下は”あれ”を、わざと私に見せたのだ。

そして宣言している。私の”もの”だと。

 

「姫殿下。裏切り者の目途は立っておられますかな?」

「確証がありませんので言うことはできません。ですけど、今は敵でもいずれ味方にできる。そう思います。そうでないと大きくなりません。そうでしょう?」

 姫殿下は微笑みながら私を見つめた。そうか、裏切り者は誰か分かっているのか。強い。そして気概を感じる。

胸が高まる。

「噂も流されているようですな。可能でしょう。御意に従いたく思います。」


 そうだ。女帝だ。小娘ではない。”御意に従う”と言わされた。すでに私は家臣とされたのだ。今の王はつまらない。


「御父上。リカルドさんは、すでに”一線を越えてしまった”と思います。もう、戻れません。聖女の力が効かないこと。ばれるかもしれません。そして新兵器。」

「注目されますな。戻ろうとしても無駄でしょう」

「そうです。戻れません。突き進むしかありません」


 女帝に背中を押されるか。リカルド。


「廃嫡の撤回をしましょう。時間を頂けますか」

「有難うございます」

「他には?」

「聖女の権威を高めたいと思います。教会内で、彼女を侮るものがいます。今回の働き。十分活用したいのですが」

「わかりました。エウフィリア司祭を頼みましょう。」

「お願いします。彼女は健気に神を信仰しています。融通が利かない。陰謀から守ってあげないと」

 ・・・

 姫様は少し切なそうに外を眺められた。今の顔は女帝ではないな。

「聖女が付き添うのは勇者。勇者リカルドと聖女。治癒が効かないリカルドも、聖女が一緒なら教会から守れると思います。・・・」

 姫様がつぶやいている。

 私を見た。こんどは女帝の目だ。

「認めましょう。でもお父様。正妻は私になります。よろしいですね」

「は!」

 怖い人だ。 

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