戦後処理

・第一王女 メイティール

 撤収準備を進めている。

 味方の戦死者は驚くほど少なかった。あの直径10mのファイヤーボール。私も見た。圧倒的だった。恐ろしかった。だから第一陣は潰走した。

 第一陣は初手から逃げに徹したが、それが幸いした。その第一陣の戦死者は、逃げ遅れた50名足らず。


 圧倒的だったが、あのファイヤーボールは威力が弱すぎる。リカルド曰く、直径の3乗。直径9mとして私の27000倍。辺り一面、破壊し尽くす威力があったはず。

 それを確認に行くと言うと皆に止められた。王女の見るべきものでないと。

 その通りだった。放置された敵味方の遺体が、あちらこちらにある。


 飛び出た眼。槍が刺さったままの胸。誰かの腕。

 飛び散った内臓を、カラスがついばんでいる。

 ごめんなさい。焼けた跡を確認したいの。

 味方の戦死者に、焼け跡があるか、ないか。

 謝りながら見て回るが、焼け跡はなかった。 

 埋葬を指示した。





・小聖女 アルフィーナ

 私は、第二王子の治療に行かなかった。いやだといった。私に伝令があったときには、すでに息絶えていたそうだ。問題ない。


 私たちが救った兵達は、エリート兵が多かった。直撃されたのは本陣だったからだ。皆、地位が高い。その彼らが、私を称える。

  「聖女様」

  「聖女様」

  「聖女様」

「小聖女」から昇格かな?


「聖女様。お願いがあります。外傷がないのに歩けない。我々ではどうしようもない患者がいます。」

「わかりました。どちらですか?」

多分神経だ。私の得意分野だ。神経の線をたどり、切れているところをつなぐ。

 

リカルド様が教えてくれた。

私の光は”レントゲン?”だそうだ。

それも患部観察と治療を同時に行う。尋常じゃないと。

不思議だ。でも神はその不思議をお取り上げなさらなかった。

リカルド様を治したくて祈った。この力を最後にしてもよいので”治してください”と。

でも、リカルド様の体の中は何も分からず、治癒しなかった。

患者をみた。

下半身が動かない。脊椎ね。

軍属の治癒士、教会からの見習い治癒士や侍女たちに、説明しながら手をかざす。

「両手でするの。立体的に動かして、立体的に感じるの。わかる?」

分からないらしい。

不思議な光が私だけに構造をみせる。ここだ。切れた個所をつなぐ。

「動く。動くぞ!聖女様。ありがとうございます。」

患者が涙を流して私を拝む。見学していた治癒士たちも感嘆の声をあげ、私をほめ称える。


急に怖くなった。この力はなんなのだろう?

力を失っては教会からリカルドを守れない。

リカルド。教えて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る