廃嫡の理由

・侯爵 ヴィンダー 療養所


 リカルドが眠っている。すでに3日。そばにいる侍女はミーアとかいったか?


「なんできた!」

 強い敵意をぶつけてくる。わしが侯爵だろうとリカルドの父親だろうと関係ないようだ。

 いや、父親だからだろう。廃嫡したのは私だ。ミーアにとっては許せない相手だ。

 ミーアを見ると、震えている。

 子猫を守ろうとする母猫に見える。


「リカルドを守ってくれていたのだな。感謝する」

 頭を下げ、少し待つと敵意が和らいできたのが分かった。

「息子を見せてくれぬか?」

 そういうと、ミーアはゆっくり後ろに下がった。


 リカルドは苦しんでいるようだ。毒か。

「リカルド様は足に毒矢をうけた。もう3日も目を覚まさない。」

「そうか。」

「なんであんな命令を出した。捨てたのはお前ではないか?」

 ミーアの怒りを感じる。命令とは何だ?

「今回のことは何も知らなかった。荷駄隊を率いていたことも初耳だ。だれが命令したか、何を命ぜられたか。わしのほうが知りたいくらいだ!」

「!」

「すまぬ。ミーアとかいったか?怒鳴ってしまった。申し訳ない。」

 ミーアは黙って聞いている。

「小聖女が見てくれたと聞いたが。ダメだったか。」

「聖女様は何度も来てくれるがダメだ。効かない。でも聖女様はあきらめていない。」

「・・・」

「王女様もあきらめていない。いま薬師をさがしている。昔滅んだ、薬師の技術。何か知らないか?」

「そうだな。領地に鳩を飛ばして探させよう」

 そう言ったが、もし何か出てきても間に合うまい。

 リカルドの命運に、すがるしかない。


「ミーア。聞いてくれるか。」

 答えを待たずに続ける。

「リカルドを廃嫡したのは、魔法が使えないからではない。治癒の魔法が効かなかったからだ。」

「!」

「治癒の魔法が効かなければ教会がうるさい。”神の奇跡を否定する”と。平民なら注目されないが侯爵家の跡取りとしては危険だ。異端視され排斥される」

「そうなのですか? 侯爵様はリカルド様を捨てたのではないと・・・」

「わかって欲しい。わしはリカルドを大事に思っている。リカルドは神童と呼ばれ、皆に注目され、陥れようとする者も現れた。危険だと思った。わしにとってはかわいい息子だ 治癒魔法が効かなければ、小さな傷でもあっさり死んでしまうこともある。だから戦場から離そうとした。商会をたちあげたと聞いたときは、ほっとしたものだった」

 ミーアは黙って聞いていてくれる。

「だが、愚か者め。なんでこんなところにおる。伯爵がほめておったが、死んでは何にもならぬぞ。早く目覚めよ・・・」

 リカルドの手をさすり、頭をなでる。

 

 四半時リカルドを見たが、目覚める気配がない。

 ミーアが唇に濡れたガーゼをあてて、口を湿らせていた。

「ミーア。すまぬ。リカルドを頼む。そして治癒の魔法が効かぬこと。何とか隠してくれ。また来る。」

「承りました。」

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