油断の代償

・第一王女 メイティール

 

 兄上は油断した。半包囲したと言っていたが、降伏したと思い込んだ油断が各将軍にも伝染した。

 敵軍は夜明け前、突然鬨の声を上げた。奇襲なら、始めは静かに襲うものであろう。なのに大きな音を立て、全軍の注意を向けた。そのあと、巨大な、巨大な火球を空中に出現させた。

 それを味方は直視した。


 戦場を照らす、禍々しい火球。


 恐慌状態となった。わざとだ。みなに見せたのだ。

 敵は、本陣前の第一陣にその火球をぶつけた。


 第一陣は近寄ってくる火球に恐れ慄き、我先と逃げ出した。

 火球はぶつかって、予想に反し、あっさりと消滅した。

 だが火球の後ろには敵精鋭が密集陣形で接近して来た。

 わが軍は、突撃を受けた。

 第一陣は全く役に立たず、慌てる本陣も直撃された。

 本当なら、これで決まっていた。


 しかしリカルドの荷駄隊が食い止めた。

 リカルドの荷駄隊は本陣の両斜め後方、二つに分かれて陣を敷いていた。

 即席の高い櫓2基、柵を作っていた。

 本陣の兵は、間を逃げた。

 

 敵が追撃してきた。そのとき櫓から、密集した敵陣へ目掛け、弩が放たれる。

 弩には”火薬”とやらがつけられていたらしい。弩は爆発し、密集していた敵を直撃した。突撃が止まった。


 乱戦。


 戦意を取り戻した味方が包囲した。蛮勇王は逃げ出した。敵は降伏した。

兄上は亡くなっていた。だが、敵はほぼ全滅。多くの捕虜を得た。

リカルドの功は第一だろう。


だが、乱戦に突っ込んできてリカルドは負傷。昏睡状態にある。

 

私を救うためだ。

私は軽い傷だけだ。

彼が来たから、これだけで済んだ。

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