第一王女
・第一王女メイティール SIDE
「なぜリカルドがここにいる?」
与えられた天幕に戻る途中、思いつめた顔をしたリカルドに出会った。
リカルドは侯爵家の嫡男だが、廃嫡されている。
魔法も使えず、戦場に不向きな男というのが、その理由である。
「姫様。元帥にお目通り願いたいと参じました」
元帥は私の兄。王家、第二王子。
「しばし待て。蛮族からの使者が来たそうだ。白旗を掲げていたそうだぞ。」
リカルドは一瞬驚いた顔をしたが、その目をリカルドの従者に向けた。
従者は首を左右に振った。
「・・・姫様。虚偽と思います・・・」
小声だ。
「わかった。話を聞かせてくれ。私の天幕に案内する」
「承りました。お願いします」
私の騎士が先に立ち、天幕に入った。
天幕に入り、私と護衛騎士2名、リカルドの4名となった。
話が漏れる恐れはない。
「さて、リカルド。どうしてここへ?」
リカルドが口を開いた。
「補給を命ぜられました。商人として参っています。急な依頼でした。断りたかったのですが、姫様も参陣されていると聞いて、ここに来ました。驚きました」
リカルドは心配してくれている。そうだな。私も含め、学院の仲間の多くが、この戦場にきている。兵数はこちらが圧倒的に多い。問題ない戦場で観戦せよとか、初陣を飾れとか言っていた。
だが・・・
「私には、”戦に不安はない。大丈夫”とか言ってました。蛮族の王、”蛮勇王”は強力な戦士であっても戦術を知らず、魔法隊も持たない愚か者。対する我が軍は、兵数も圧倒的であり、練度も高い。物資の手配、搬送だけしておけばいい。そう命ぜられました」
「そうか。ご苦労だった。だが、リカルドが補給の命を受けていたこと、知らなかったぞ。どうなってるのだ」
「他にもアルフィーナ、学院の友人達。学生の身でありながら、ここに来ている者が多いようです。ただ、その・・・。選ばれた人員に偏りがあると思います」
「なるほど。胡散臭いな」
「蛮勇王ですが・・・」
「蛮勇王がどうした?」
「どうやら、北の隣国より賢者フルシーをひそかに呼び寄せているようです」
「なんだと?蛮勇王は北の隣国と組んだというのか?」
「私の商会からの情報です。ただ、確認する間はありませんでした。敵が降伏するのであれば、ありがたいです。しかし、蛮勇王は信用できません。そして呼び寄せられた賢者フルシーには、新たな魔術を編み出したとの噂があります」
「!」
リカルドは困った顔をしている。
リカルドは魔法が使えない。
だから、魔法を忌避するところはある。
廃嫡はそれが原因だ。
だが、魔法の使えないリカルドは、他になにか持っている。
幼少の頃から、色々な物を作ってきた。
商会を立ち上げ、大きくした。
他国にも支店を持っている。
私の大切な幼馴染。
魔法が使えないなど、些細なこと。私はそう思う。
これほど有能であるのに、なぜ侯爵は彼を廃嫡したのか?
・第一王女メイティールの護衛騎士 SIDE
「姫様。降伏に来たのは本当ならば有難いことです。ですが私は、なにか時間稼ぎをしているように思います。その準備をさせた上、奇襲を食らっては・・・。兵力3倍といえ危険です」
リカルド殿が真剣な眼差しで姫殿下を見ています。リカルド殿は姫殿下の幼馴染。家柄もよく、婚約者候補に名が挙がった神童です。しかし、魔法が全く使えない事が知れると、貴族として不適格と烙印をおされ、廃嫡されました。
リカルド殿が婚約者候補から外れて以来、姫様は男のような話し方をするようになりました。そして学院では”騎士院”を選んでいます。
「リカルドの言うとおりだ。賢者フルシーの、その新たな術式とはなんだ?」
「・・・はっきりしませんが、大型のファイヤーボールだという話があります」
「どの程度だ? 私も鞠ぐらいのものが出せるが」
姫様は魔術も優れています。
姫様のファイヤーボールが当たれば、その辺の貴族なら即死でしょう。
「・・・すみません。賢者フルシーが来ているかも定かでないうえ、そこまでの不確定情報は出しかねます」
「わかった。誰にもリカルドから聞いたとは言わない。だから、教えてくれ」
「・・・直径3m程度と聞いています」
「!」
驚きました。あり得ません。そんな大きさのファイヤーボールなど・・・。
姫様も驚いています。
「僭越ながら申し上げます。そのような大きさのファイヤーボールなど、おとぎ話でしかありません。うかつに漏らすと、笑われるか、無用の流言をばらまいた利敵行為として処罰されるかもしれません。お気を付けください」
私が進言するとリカルト殿がはっとしました。
「その通りです。気が付きませんでした。ご助言ありがとうございます」
姫殿下がリカルド殿を心配そうに見つめています。
「リカルド。どうする?」
「そうですね。姫様の火球の大きさを直径30cmとして、その直径で10倍。体積1000倍。威力も1000倍・・・。話を持ってきた私が言うのもなんですが、ありえませんね。ですが・・・」
思い悩んだ様子でしたが、しばらくしてリカルド殿が口を開きました。
「やはり、元帥にお伝えしようと思います。本当なら軍の危機です。伝えずに後悔するより、伝えて笑われることを選びたいと思います」
思いつめた顔をしています。リカルド殿を見て、もしかすると、それは本当にあるのでは、と思いました。
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