第46話 あ、あんまり見ないでください…

 ロープーウェイを使い、眉山の山頂まで登って来た俺と真凛ちゃんは目的のカフェに続く列に並んでいた。


 ここは山の山頂に位置し、ちょっと歩いた所にある展望台からは徳島市内を一望出来るようになっている。


 さっき俺も真凛ちゃんと一緒に見たが高い所が苦手な人にはあまりお勧めできない、情けないが手を繋いでいないと近寄ろうとすら考えなかったと思う程だ。


 列に並んで早10分程が経過し、前で俺たちと同じように2人組や3人組で来ている人たちがぞろぞろと店の中へと姿を消していく。


 しばらくし、前列が残り5人となった。


「もうすぐですね」

「そうだね、真凛ちゃんは何食べたいの?調べたら4種類くらいあったけど」


「一番頼みたいのはアニメ第1話で描写されていたあのチャーハンですかね」

「あー、俺が料理教えて貰うきっかけになった奴ね」


「そうです、それです!」


 そういう真凛ちゃんは言い当てられたのが嬉しかったのか小さくジャンプし始め、羽織っただけのジャケットから漏れた白のワンピースからでもわかる大きなおむ…を揺らし俺以外の視線も集めていた。


 微かに「おぉ、でっけぇ」と後ろから聞こえ少し独占欲めいた気持ちが沸き、軽く睨むとばつが悪そうに視線を逸らす。


 俺は繋いだ手を少し引き真凛ちゃんを自分の下に近付けると、


「どうしたんですか?」


 と聞かれ、


「なんでもないよ、そういう気分だったから」


 と誤魔化すように答えると、真凛ちゃんは「そ、そうですか…」小さく言い顔を伏せてしまう。


 もうちょっと気の利いた言い訳は出来なかったのだろうかと自分を攻めそうになったが、ふと髪の隙間から赤くなった耳が見え俺は前を向き、考えるのを辞めた。



 ∩ ∩

(・×・)



 最近、蓮兄さんが積極的だ。


 ハーバリウムを作った時「思い出として残したいから」って言ったり、今回のお出かけをちゃんとデートだと言ってくれたり、今だって凄く距離が近かったり。


 元々こういう関係を望んでいたはずなのに、もう少しで私の願いが叶うかもってなったら一緒に住むようになる前以上に胸のドキドキが激しさを増している。


 左手に伝わる温もりが、まだ風が吹くと冷たい季節のカイロみたいでいつまでも掴んでいたくなる。


 別に焦る必要はないのに、今日伝えたくなってしまう。


 蓮兄さんに触れるたび、その気持ちが膨れ上がって開けてはいけない箱を上から必死に抑えるような、そんな思いで今隣に立っている。


 油断したらつい言ってしまいそうで、軽く下唇を噛んだ。



*****



 真凛ちゃんが、俯いてしまってから数分が経ち中に入れるようになった。


「は、入ろうか」

「そ、そうですね」


 久々のぎこちなさが、少し恥ずかしい。


 手を引いて空いている席へと移動し座ると、ジャケットを脱いだ真凛ちゃんが、


「蓮兄さん蓮兄さん、あれ見て下さい!凄いですよ」


 そう言った真凛ちゃんは少し離れた席に座っている二人組の女性客を見ていて、そのテーブルにはアニメ第4話の主人公が作った紫色のゲテモノパフェを再現された物が立っていた。


「ほんとだ、凄いね…」

「は、はい」


「真凛ちゃん気になる?」

「……少しだけ」


「じゃあ、俺あれにしようかな」

「え、蓮兄さん甘いの苦手じゃなかったですか?」


「まぁ得意ではないけど、真凛ちゃんが食べたそうにしてたから。それに俺も気になるし」


 そう言って、テーブル端に置かれたメニュー表を対面に座る真凛ちゃんにも見えるように横にし、『ゲテモノパフェ』の書かれている部分を一緒に見る。


 内容物に関しての記述によると全体の紫は紫芋ソフトを使っており、作中で刺さっていたシシャモは魚の形をした芋チップスにゴマで目を作っているらしい。


 読者に大人層が多いからか、他のメニューも甘さ控えめな物が占めている。


「普通に美味しそうですね、何処がゲテモノなんでしょうか」

「ただの名前だと思うよ?本当に出したら完全にアウトだから」


 俺がツッコむと真凛ちゃんは「それもそうですね」と可愛い笑顔を見せてくれて、先程までのぎこちなさが嘘のような気がしてくる。


「じゃあ注文しよっか」

「蓮兄さん飲み物!まだ決まってないですよ」


「あー、そうだった。パフェに気を取られて忘れてた」

「もう、しっかりして下さいね?」


 そういう真凛ちゃんは少し唇を尖らせてメニュー表を一枚捲ってドリンクと書かれているページを見始めた。その表情は怒っているようにも見えるけど、嬉しさが勝っている気もする。


 そんな真凛ちゃんの顔が可愛くてつい見惚れてしまっていると、


「あ、あんまり見ないでください…」


 と少し顔を赤らめて言われてしまう。


「ご、ごめん。真凛ちゃんが可愛くて」

「か、かわっ……れ、蓮兄さんはすぐそうやって…お外でそう言う事あまり言わないでください」


「じゃあ、何処でならいいの?」

「……」


 そう聞くと真凛ちゃんは少し黙ってしまい、メニュー表を持ち上げ顔が見えなくなると「2人の時なら…」か細い声が前から聞こえて来る。


 バッチリ聞こえてしまった俺は暫くの間、可愛すぎ…と一人も悶え苦しむのだった。


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ここまで読んでいただきありがとうございます! 


次回:第47話 おぉ、凄いですね


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