第41話 か、彼氏だなんて…まだ早いよ
「それで、要って何が欲しいんだ?」
マックを後にした俺達は、数駅離れたゆめタウンを訪れていた。
この前真凛ちゃんと来たばかりだが、イオンは遠いので大抵行くとなるとこちらになる。
今は、アンティークやら服やらのある一階を徹と歩き回って目ぼしいものを探しているのだが、そもそも要が何を欲しているのかを知らない以上選びようがない。
そう思い、徹に質問した。
「えっとね、直接聞いた訳じゃないから分かんないけど通学に使ってる鞄がボロボロになってきたからそれでもいいし、スマホケース付けてないからお揃いなのもいいよね」
後者は徹以外に貰っても嬉しくない気がするし、友達からカバンを貰うっていうのも値段を考えると貰う側も気が引けるだろうしな、本当にどうしよ。
「まぁ、色々見てたらなんとなくこれ良いかもってのが見つかると思うよ」
「そういうものかね」
「そういうものだよ!因みにボクが友達から貰うならお菓子かスイーツがいいかな、ちょっとお高めな普段あまり食べない奴とか」
「お菓子か、俺全然食べないから何が良いとかわかんないぞ」
「そうなんだ、じゃあバームクーヘンとかフィナンシェとか…あ、あれもいいよね最近できたケーキ屋さんのショートケーキ!ボク上に乗ってるイチゴ食べるのが好きなんだー」
「あー、ちょっと分かるかも。最初に食べるか最後に食べるか迷うわ」
「でしょでしょ、誕生日プレゼントにケーキ!ボクいいと思うなー食べたいし」
「誕生日にケーキってのは定番だよな…ん?なぁ途中から徹の食べたい物になってないか?」
「当たり前じゃん、ボクも食べるからね!」
そう言った徹は「モンブランもいいかな」と勝手に話を進めていく。まだ買うなんて言ってないからな?
それに、要へのプレゼントなのに徹の分を買う必要はあるのだろうか?そんな事を思ってしまうも、多分1人への贈り物よりも2人で楽しめる物の方が喜ばれるかもしれない。
「ホールじゃなきゃ買ってやるよ」
「ほんと!?じゃあ4等分されてるのを2種類ずつが良いなー」
4等分を2種類ずつ…ずつ?
「おい、それホールと変わんなくないか?」
「あはは、ばれちゃったか」
そう言って笑う徹を見ていると、この選択は間違いではないんだと思えて来る。
もし、真凛ちゃんにもケーキを買って帰ったら喜んでもらえたりするのだろうか。
「なぁ、なんでもない日にケーキを買うのって変かな」
「うーん、別に変ではないと思うよ。なになにその真凛ちゃんだっけ?一緒に住んでる子にあげるんだ」
隣を歩く徹はこちらを覗き込むように口に手を当ててそう言って来る。からかっているのかにやけが隠せていなくて恥ずかしい事でも言ってしまったんじゃないかと思ってしまう。
「可笑しいかよ」
「いやぁ蓮くんからそんな言葉が出て来るなんて意外で、その子の事本当に好きなんだなって」
徹に言われて改めて考えてしまう。
真凛ちゃんの為に何かをしたいという気持ちが日に日に強まっている気がする。何をすれば喜んでくれるかとか、何が彼女に似合いそうかとか、一緒に出来るものはないだろうかとか。
自然と脳裏にちらつく。
これが、人を好きになるって事なのかもしれない。
「徹は何のケーキが食べたいんだ?」
やっぱり相談してよかった。自分1人で悩んでいてもこの気持ちが何なのかどこにぶつければいいのか分からずにいたはずだ。
俺がそう言うと徹は少し驚いた表情をするも、何かを察したのか話に乗ってくれた。
「ふふ、じゃあボクはマスカットのフルーツサンドにしようかな要くんは安いので」
「それでいいのか」
「良いんだよ、だって」
隣を歩いていた徹は少し小走りに俺の前に立つと笑顔でこう言って来る。
「何を食べるかじゃなくて、誰と食べるかだからね」
「誰と…か」
「うん、どんなに美味しい物でもまずい物でも好きな人と食べればすべてが思い出になるんだよ。だから蓮くんも一緒に食べたいと思える人と食べるんだね。きっと喜んで貰えるから」
真凛ちゃんに喜んでもらえる、そう聞いただけで俺は少し背中を押された気になってくる。
元々誕生日プレゼントを買う予定だったから懐も暖かい。
「そうだな、2人分増えるくらい大丈夫だよな」
「決まったね!じゃあ買いに行こう!」
そう言った徹は俺の右手をおもむろに握るとケーキ屋のある方へと引っ張ってくる。
握られた手は、真凛ちゃんよりも大きく少し骨ばった男の子の手をしていてやはり俺は彼女じゃないとドキドキしないんだと実感するのだった。
∩ ∩
(・×・)
「んー!!美味しい」
「えへへ、良かった」
「こんなおいしいご飯を毎日食べられるなんて彼氏さん羨ましいね」
「か、彼氏だなんて…まだ早いよ」
綾ちゃん家の冷蔵庫から作れそうな物をお昼として出すと、美味しそうに食べてくれて嬉しいのだけど、少し恥ずかしくなる発言をされ顔に熱が集まっていく。
「あ、赤くなった!小林さん分かりやすいね」
私は顔が赤くなっている事を綾ちゃんに指摘され、ますます赤くなっていくのを感じる。
「そ、そんな事よりも早くいかないと暗くなっちゃうよ」
「うわっもうこんな時間なんだ」
綾ちゃんの興味を逸らしたくて、何も考えずにそう言うと実際に良い時間になっていたようで時計の針は3時を指していた。
今から行ったとして、買って帰るだけになりそう。
そんな事を考えていると、ゆっくり食べていたお昼ご飯をすぐ平らげ始める。
「ふぅ。よし、食べ終わったし行こうか」
「う、うん」
綾ちゃんが食べ終わるのを見届け、軽く準備をしてから出発するのだった。
∩ ∩
(・×・)
「小林さん気になる物ある?」
「うーん、これとかかな」
私達は取り敢えず近くでいろんな種類のメイク用品を見ようとゆめタウンへと訪れていた。
綾ちゃんはお店に着くと「これ持ってない」「これ使ってみたい」など言って、中々買い物が進まないと思っていたけど、何を見ればいいか分からず呆然と立ち尽くす私を見てこちらを優先してくれたようだ。
今は綾ちゃんに連れられて来たコスメショップで私に似合いそうな口紅を選んでいる最中。
「色とかは多分この辺りだとは思うけど、小林さんは他に何か要望あったりする?」
「えっと…例えば?」
「そっか、全然分かんないんだよね。口紅ってね、唇に光沢や艶を出したりして大人っぽく見せるイメージがあると思うんだけど、乾燥を防いだり潤いを与えたりする役割もあるんだよね」
「へ、へぇ」
「だから、保湿の為にも長持ちさせたいとか、見た目だけでいいから比較的落ちやすい物をとか目的によって買う物も変わってくるの。小林さんは唇が乾燥するとかある?」
綾ちゃんにそう質問され唇に触れてみると少しカサカサしていて乾燥しているように感じる。あまりリップをつけないから気にしていなかったけど、唇が乾燥しているかどうかも気にした方が良い印象を与えやすいのかな。
だったら、普段から付ける習慣がないから長持ちする物が良いかな?すぐ忘れそうだから朝に着けるようにしないとね。
「結構乾燥しているかも、あと出来れば長持ちするのが良いかな」
私が一応の希望を言うと綾ちゃんは「じゃあこれかな」と1つの口紅を手渡してくる。
「色も薄いし、小林さんに似合うと思うけどどうかな」
「うん、値段もそこまで高くないし色もいいね」
「気に入ってくれたみたいだね、良かった」
「ありがとう綾ちゃん」
朝からメイクのお勉強をしたり、買い物に付き合ってくれたりと綾ちゃんには感謝しても感謝しきれない。これは絶対に明日のデート、成功させないとね!
「それじゃあ買って来るね」
私はそう言って、買い物を済ませる。
「帰ろっか、お楽しみの明日の為にも早く寝た方が良いだろうしね」
「そ、そうだね。今日は本当にありがとね、忙しいのに」
「ううん、楽しかったから全然!」
綾ちゃんは笑顔で答えてくれて、付き合って貰っている私からしたら感謝に尽きる。
目的の物も買えあとは帰るだけとなり、綾ちゃんとちょっと話しながら入口方面へと歩いていた。
「そう言えば、小林さんの意中の人写真で見たけどどこかで見た事あるなぁって思ったんだよね」
「え?そうなの?どこで?」
「うーん、何処だったっかな」
蓮兄さんの事を綾ちゃんが知っているかもという発言に少し驚き食い気味に聞いてしまう。
この感じ面識があるというよりも見かけたくらいだとは思うけど、少しだけもやっとする物を感じてしまう。
「えっ」
そんな事を考えていると綾ちゃんは驚いたような声を上げると、急に足を止めてしまう。
「どうしたの?」
私は振り返ってこちらとは反対側の誰かを目で追うように顔を動かしている綾ちゃんに聞いてみた。
「いや、人違いだったらごめんだけど…小林さんの意中の人ってあの人かなって」
そう言った綾ちゃんはある2人組を指で差し始める。
「蓮兄さんが居るの?って、え…」
私は綾ちゃんの指した方を見てついさっき買った口紅の入った袋を落としてうのだった。
だって私の目に映ったのは、蓮兄さんの腕に知らない女の人が抱き着いている光景だったのだから。
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回:第42話 分かってたんだ
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『毒親から逃げた俺と捨てられた義妹は一つ屋根の下で大人になる。』新作始まりました!是非!
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