第40話 まるで別人みたい…!

 俺と徹は店内で食べる事にしてこの後の予定について話そうとしていた。


 窓際の席で美味しそうにバーガーを食べる徹を横目に周りに目を向けると、ゴールデンウィークもあって学生が多い気がする。もしかしたら同級生もいるかもしれない。


 そういえば、真凛ちゃんは今日どこに行っているんだろうか。友達と遊びに行くとは言ってたから、もしかしたら何処かでばったり会ったりして。


 なんてな、最近は真凛ちゃんの事ばかり考えてしまう。


「ねぇ、蓮くん。最近何かいい事あった?」

「え、なんで…?」


「うーん、なんとなくかな。そんな感じがしたから、良かったら聞かせてよ」


 徹はバーガーを置いてシェイクにストローを刺しながらそう聞いてくる。別に隠すような事でもないし、そもそも相談したくて付いてきたのが大きい、なら。


 俺は、ポテトを持っていた手を軽く拭いてから徹に視線を向ける。


「正直に言うと最近凄く楽しいんだ」

「あ、もしかして、一緒に住んでるって中学生の子?」


「う、うん…よく分かったな」

「まぁ、蓮くんが六花ちゃんと別れたって聞いた時は驚いたけど、支えてくれる人がどうこうって休み前に聞いてたからね。大体察しはつくよ」


「それもそうか」


 きちんとした弁当を学校に持って行ったのはあれが初めてだったから、徹も覚えていたんだろう。


「それで、その子ってどんな子なの?」

「どんな子か…」


「蓮くんがその子とどうなりたいかはボクには決められないけど、聞きたい事があれば相談に乗るからさ、色々教えてよ」


 そう言った徹は、真剣な顔をして俺を見ている。俺が六花と別れた時、要もそうだがすごく心配してくれた。


 そんな徹を見ていると冷やかしとか、適当に言っている訳じゃないと伝わってくる。


「じゃあ…」


 俺もこのまま自分1人で考えていても正解が見つかりそうになくて、徹に相談する事にした。


 まず、真凛ちゃんが六花の妹である事。

 振られてから毎日一緒に過ごしてきて、色んな感情がうごめいた事など伝えられることは言葉に出来たと思う。


 そう思い、徹の第一声を待つとこんな事を言われてしまった。


「なんで、付き合ってないの?」

「え、い、いや…。だって、真凛ちゃんがどう思ってるかも分からないんだし、もし失敗したらって考えたら言えなくて」


「そりゃあ、気持ちを伝えるのは怖いよ。でも、蓮くんその子の事好きなんでしょ?」

「……たぶん」


 そう曖昧に答えると徹は大きなため息を一つつき、俺のポテトを摘まんで差してくる。


「蓮くん、自分の気持ちはハッキリさせておいた方がいいよ。諦めるにしろ諦めないにしろ、後悔しない選択をした方がいいからね」

「そう…だよな」


「もう、そんなんだとその子誰かに取られちゃうかもよ。それでもいいの?」


 徹の言葉に少し、もやっとするものがあった。


 真凛ちゃんが知らない誰かと手を繋いでいたり、それ以上の事を…と考えるとモヤっとした曖昧なものではなく純粋に嫌な気持ちになってくる。


「ふーん、蓮くんもそんな顔するんだ」

「え、どんな顔?」


「ふふ、内緒」


 俺は変な顔でもしていたのかと、徹に聞くとなんだか楽しそうにはぐらかされてしまう。


「まぁ、その感じからして大丈夫そうだね。ボクは応援してるよ、また楽しそうに笑ってる蓮くん見たいしね」

「うん、頑張ってみるよ」


 いつかハッキリさせないといけないと思っていたから、いい機会だったのかもしれない。


 徹も、要に告白したのかされたのかは分からないが、好きだと思えるようにはなっている以上俺よりも一歩先を歩んでいる。


 そんな徹に背中を押して貰えているんだから、頑張らない理由が思いつかない。


「あ、そういえば徹と要ってどうやって付き合うようになったんだ?」

「おっ、聞きたいかね蓮くん」


「まぁ、うん。参考に聞きたいかなって」

「いいよ!ちょっと待ってね先食べないとポテトしなっちゃうからね」


 そう言った徹は俺のポテトへ手を伸ばし始める。


「ポテト俺のなんだけど…?」

「そんなお堅い事言わないでさ、ボクにもポテトを恵んでおくれよー」


「……分かった、相談に乗ってくれたしな」

「やりぃ!じゃあ全部貰うね」


 徹は俺からポテトを奪い取るとパクパク食べ始める。いいとは言ったが、少しは遠慮しろよと思ってしまうも相談のお礼として次の話が始まるまで、徹が食べ終わるのを眺めるのだった。



 ∩ ∩

(・×・)



「わぁ、まるで別人みたい…!」

「ふふん、あたしに掛かればこれくらい簡単に出来ちゃうんだよ!でも…」


 綾ちゃんは「簡単なのの前に一度本気の本気を見せてあげる」と私の顔を使ってメイクして貰ったのだけど、予想以上にレベルが高くてふさわしい言葉が出てこない。


 あと綾ちゃんがメイクしてくれている時に言っていた言葉全く分からなかった。ファンデ…?チーク?覚える事が多く、暗記の苦手な私には難しそうで明日のデート、大丈夫だろうか…と不安になってくる。


 そんな事を思い一人絶望していると、綾ちゃんは納得がいってないのか仕上がった私の顔を見て頭を傾げ始める。


「どうかした?」

「うーん、ここまでメイクするのも悪くはないんだけど…正直小林さんには合わないね」


「えっ…それって私にお化粧が似合わないって事?」


 私はまたまた落ち込んでしまう。もう諦めた方がいいのかな…


 そんな事を思っていると、綾ちゃんは「いや、そうじゃなくて」と否定された。


「えっと、小林さんって身長何センチだっけ?」

「身長?最近伸びて138センチ…かな」


 本当は135だけど…ちょっとくらいは見栄を張りたい、小学生から成長が止まって縦に伸びないなんて言えるはずが無い。だって綾ちゃん、胸の話をすると羨ましそうに凝視してくるからチラチラ見てくる男子よりタチが悪い。


「低い、やっぱりなぁ」

「なにやっぱりって?」


「いやね、小林さんは低身長で顔も結構童顔でしょ?だからここまでがっつり手を入れると小学生が頑張ってる感が否めなくてさ」

「しょ、小学生…」


「それよりも軽い感じの方が合うのかもなぁって」

「そ、そうなんだ。じゃああまりお化粧はしない方がいい?」


「うーん、デートって事ならいつもとは違う小林さんでアピールするのは悪くないと思うから、薄い口紅を塗るくらいかな」


 綾ちゃんはそう言うと、何本かの口紅を出してくる。


「まず左から薄いのと、ちょっと薄いのと少し濃い、濃いって感じかな。小林さんにはこの1番左のが合うんじゃないかなって思うからあげたい所なんだけど…」


 綾ちゃんは全く分からない私にもわかりやすく説明してくれた後、あげるかあげないかで悩んでいるみたい。


 口紅の値段は分からないけど、安いものではないはずだから無償で貰うのは少し気が引ける。


 お昼からは買い物の予定だから、その時にでも買いに行けば綾ちゃんにも迷惑が掛からないかもしれないし。


「綾ちゃん、貰うのはちょっと遠慮するかな。安くもないと思うし、綾ちゃんの持ってる物を貰うよりも自分に合う口紅を買ってみたい…かも」


 これは蓮兄さんの言っていたその人に似合う物を選びたい気持ちにも続いしている。今回は蓮兄さんに可愛いとか綺麗って思って貰うためってのはあるけど、最終的に決めるのは私なんだから自分で納得の行くものを見つけたい。


「そうだね、そっちの方がいいか。いやね、これお兄ちゃんに使った事あるやつだから、友達にあげるのはなって悩んでて…使う?」

「使わないよ!なんて物あげようとしてるの」


「あはは、冗談だよー。流石にお兄に使った物をあげたりしないよ」

「そ、そうだよね、良かった」


「うん、これは私が使うんだからね」


 それはそれでどうなんだろうと思ってしまうも、兄弟ならそれくらいが普通なのかもしれない。


 それにしても綾ちゃんのお兄さんってどんな人なんだろう、良くメイクの練習代にしているみたいな事は言っていたけど喧嘩してるような雰囲気もないから優しい人なのかも。


「あ、もうこんな時間」


 私がそんな事を考えていると綾ちゃんは壁に掛かった時計を見ていた。その言葉に釣られ私も目を向けると、12時をうに過ぎていた。


 朝からずっと話していたり、メイクして貰っていたから気付かなかったけど結構が時間が経っていたみたい。


「どこか行く?あたし料理出来ないから、お昼は外でもいいけど」

「うーん。ねぇ綾ちゃん、良かったら私が作ってもいいかな?今日はして貰ってばかりだから何か返したくて」


「小林さんの手料理…食べてみたい!」

「良かった、じゃあ台所借りるね」


「うん!美味しいの頼みます!」


 なんだか凄く期待されているみたいだけど、ここは気合を入れて作らないと、私の為に1日を使ってくれている綾ちゃんに申し訳ないしね。


「よし、じゃあキッチン案内するねー」

「うん」


「あー楽しみ!」


 子供みたいにワクワクした綾ちゃんを追って、お昼ご飯を作りに台所に向かうのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここまで読んでいただきありがとうございます! 


次回:第41話 か、彼氏だなんて…まだ早いよ


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