第39話 切りたくない、かな

 私はあやちゃんの部屋でメイクのお勉強をしていた。


 綾ちゃんは学校でも軽くお化粧をしていたのか唇の辺りがいつもと同じで仄かに赤く輝いている。


 白く綺麗な肌と艶のある長い黒髪、そしてその透き通るようなエメラルドグーンの瞳を持っていてクラスの中でも人気なお友達。


 中学生とは思えない綺麗な顔をしていて、落ち着いた雰囲気を漂わせているせいかたまに告白されているって噂を耳にする。まぁ、話してみると結構元気でいたずら心を忘れられない子供みたいな性格をしているけど…


 性格は置いといて、そんなモテる綾ちゃんにお化粧を教えて貰えるんだ、明日のデートの為にも頑張って勉強しないと!


私はそう強く思い、前に座る綾ちゃんの手を握り今日の先生に挨拶する。


「綾ちゃん今日はよろしくね!」

「うん!任せて小林さん、あたしが意中の人を振り向かせれるようなメイクをしてあげるから!」


 そういうと綾ちゃんも私の手を強く握ってくれて、気合いの入り様が感じ取れる。綾ちゃんは私が片想いと聞くと、クラスの中で一番に興味を示していたからこういう話は好きなんだろうな。


「それじゃあ早速やっていこうかな。あ、聞いてなかったけど小林さんってメイクに関してどれくらいの知識があるの?」

「えっと…ハンドクリームとかリップ、塗るくらい?かな」


「マジで言ってる?」


 私は一度もお洒落をした事が無く服もお母さんが買ってくれた物で良く分からずそう答えると、綾ちゃんはありえないと言うかのように口を開けている。


 一度もメイクをした事が無いってそんなにおかしいかな。


 そう思っていると綾ちゃんは用意していた、コスメセットを机の上に出してこう言って来る。


「小林さんにも出来る簡単なのにするね。それにしても…」


 そう言った綾ちゃんは私を凝視し、顎に手を当てて少し唸り始めた。


「小林さんさ、その長い前髪は切らないの?」

「これは…出来れば切りたくない、かな」


 これは蓮兄さんに顔を見られたくないってのもあるけど、もう1つ見られたくない物があるから今は隠している。


「切りたくないんだ。うーん、分かった。でもそのヘアピン可愛いね、小林さんが選んだの?」

「あ、これはその…蓮兄さん――片思いの人に選んで貰ったもので」


「へぇ、その人センスいいね。小林さんに凄く似合ってるよ」

「えへへ、嬉しい」


 綾ちゃんに蓮兄さんの事を褒められて嬉しい気持ちになり、口元が緩んでしまう。すると綾ちゃんは私の顔を見て、ニヤニヤし始める。


「小林さん本当にその人の事好きなんだね。恋する女の子の顔してたよ」

「そ、そうなの…」


 私は恥ずかしい指摘をされ、顔に手を当ててみる。そんな事をしても、顔の緩みが戻る訳もなくその後も綾ちゃんのニヤケ顔が解ける事は無かった。


「とりあえず始めちゃおうか」

「う、うん」



*****



 最近真凛ちゃんに料理を教わっているので、折角だからと簡単な焼きそばを作り、家を出て2つ離れた駅の入り口である人物を待っていた。


「あいつ遅刻しないよな」


 スマホで時間を確認し、周りを見回してみるも待ち人は現れない。


 昼1時待ち合わせで、現在時刻12時55分。


 今日は俺の買い物に付き合って貰う訳ではなく、あいつの付き添いになる訳だけど…


「普通、先に到着してるものじゃないのか?こういうのって」


 そんな愚痴を口走り、それから10分程経ち姿を現した。


「ご、ごめんね。ボクの我儘に付き合って貰ってるのに遅れちゃって」

「ううん、あまり待ってないから」


 走ってきたのか息を切らしながら、そう言って来たのは黒髪ボブの美少女…もとい、美少年の南野みなみの とおるだ。


 今日は彼なのか彼女なのか分からない徹の恋人である、かなめの誕生日プレゼントを購入するのが目的。


 ついでに俺も何かあげようと思っていたので丁度良いと約束を取り付けたのだ。


「ありがとう、そう言ってくれると助かるよ」

「あぁ、飲み物1本奢ってくれたら許すわ」


「さっきの優しい言葉はどこに!?」

「あはは、冗談だよ」


「良かったぁ。でも、呼んでおいて遅れたのは申し訳ないから何か奢らせて?」

「じゃあ、要が喜びそうな物のアドバイスをくれたらでいいよ」


「そんなことで良いの?ふふ、任せなさい!」


 そう言ってラフな格好をした徹は胸を張り、自信満々に鼻を鳴らしていた。そんな姿を見て、恋人になれば相手の好みも分かるのだろうかと少し思ってしまう。


 まだ俺は知らない事が多すぎる気がする。もっと彼女を知りたいし、出来ればずっと傍で笑っている顔を見ていたい。


 でも、もしこれが独りよがりなものだったなら次こそ恋愛は出来なくなるんじゃないかって怯えてしまう。


 そんな気持ちでいるから勇気が出ないんだろう、情けないけどまだ俺の傷は癒きれていないんだ。


「それじゃあ行こうか、何か話もありそうだしね」


 徹はそう言って俺の背中の軽く叩いてくれる。もしかしたら、暗い顔にでもなっていたのかもしれない、徹は俺の友達の中で1番察しがいいから上手く誤魔化す事が難しい。


「そうだな、歩きながらで良いかな」

「うん!ボクに任せて、どんな愚痴でも聞くよ」


「別に愚痴限定じゃないんだけどな」

「あはは、でも…明るい話しじゃないでしょ?」


「…まぁ、うん」


 この傷ついた心を少しでも癒して、次の恋へと歩む必要があると思う。真凛ちゃんと過ごして、僅かだけど満たされる感覚を味わう事ができた。


 回復は徐々にだがしていると思う。でも、根本的な誰かを信用すると言う所は一向に改善されてない。


 こんな短時間で好きになったかもしれない真凛ちゃんを信用して良いのか、まだ決めかねているんだ。


 信頼出来る人間なのかどうかを…


 徹は何も言わず歩き出す。俺もそれを追うように隣を歩く。ゆっくりと、でも何処かに着実に向かっているのはわかる。


 そこで俺は少し気になり、徹に尋ねる事に。


「どこ行くんだ?」

「うーん、最初はまぁ簡単にぶらぶらして要くんの好みに合いそうな物を探そうかなって」


「当てはあるのか?」

「あるよ、まずあそこだよね」


 そう言って徹の隣を歩き、しばらくして辿り着いた場所を見て俺は疑問符を浮かべる事になる。


「なぜ、マック?」

「お腹空いたからかな」


「自由だなおい。これなら昼食べるんじゃ無かったわ」

「あはは、ごめんねー。家を出る前まで要くんとお話ししててさ食べ損ねちゃって」


「それならいっその事連れてこれば良かったんじゃ…?」


 俺は思ったことをそのまま口にすると徹は「それはダメなんだよ」と突っぱねてくる。


「長く付き合うとね、こういう誕生日の楽しみってのは大切になるんだよ?付き合い始めはよくても、何度も同じような日を過ごすとどちらもだれて来るからね。ちょっとしたサプライズも必要になるんだよ」

「そういうものなのか」


 六花と付き合っていた頃は、元々一緒にいる事が多かったからかあまり気にしていなかったが、お互いの気持ちを大切にしたいと思うなら今徹の言った事も参考になるかもしれない。


「因みに、今年の誕生日プレゼントはハッピーセットだよ!」

「そのチョイスで合ってるの!?」


「あはは、冗談冗談」


 そう言ってお腹を空かせた徹と店内へと入り、俺はポテトのSとドリンクを頼む。


 あまりお腹は減っていないし、この程度でいいだろう。


 そう思っていると隣で注文する徹は笑顔でこう頼むのだった。


「ハッピーセットで」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここまで読んでいただきありがとうございます! 


次回:第40話 まるで別人みたい…!


応援、☆☆☆レビューよろしくお願いします!励みになります。


『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』こちらも現在連載中なので気になればどうぞ!


https://kakuyomu.jp/works/16817330660041626971

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