第38話 やっぱりずるい…

 蓮兄さんに教えて貰い無事ハーバリウムを完成させる事が出来た。私のは蓮兄さんのに比べて、形が崩れていたり色の配置が微妙だったりと少し恥ずかしい物になっている。


 初めて作ったのだから、当たり前だけどもう少し上手な物を作りたかったのが正直な気持ち。


 そんな事を思いながら完成したハーバリウムを蓮兄さんのと見比べていた。


「うーん、やっぱりもう少しナチュラルフラワーをまばらに配置した方が良かったですかね」 

「どうだろ、初めてにしては上手に出来てると思うから次作ったら変わるかもね」


「次、ですか」


 私はその言葉を聞いて、少し安心してしまう。頻繁には作れなくても、またこうやって蓮兄さんに教えて貰える機会があるかもしれないという事に。


「ちょっと気になったんだけど、このハーバリウム2つとも真凛ちゃんの部屋に飾るの?」

「うーん、そうなりますかね。置く場所は沢山ありますし」


「そっか…」


 そう言った蓮兄さんは何か続きを言い淀んでいる気がしてしまう。どうしてそう思ったのかは分からないが、多分感だ。


 気のせいならそれでいい、そう思い私は蓮兄さんに聞いてみる事にした。


「蓮兄さん何か、あるんですか?」

「えっと…う、うん。変に思わないでね?」


 蓮兄さんは私から少し顔を逸らし、頬を掻きながらそんな事を言って来る。私に変に思われるような事なんだろうか。


 どんな内容なのか気になって少しドキドキして来た。


 私は自分の作ったハーバリウムを手に持ち隣に座る蓮兄さんの方を見ると、意を決したようにこちらに振り向く姿が目に映る。


「そ、その…真凛ちゃんの作ったハーバリウム、良ければ貰いたいなって」

「これを、ですか?」


「うん。だめかな?」

「……え?」


 そういう蓮兄さんは緊張しているのか下唇を軽く噛みような仕草をする。一緒に住むようになってから、蓮兄さんの癖やちょっとした仕草が分かるようになってきた。


 蓮兄さんは緊張したり、言いずらいお願いをする時に今の様に下唇を軽く嚙む癖がある。


 前までは気づく事すらなかったけど、毎日近くで居るからこそ分かる事だと思う。


 それよりも蓮兄さんが、私の作ったハーバリウムを欲しいって言うと思っていなかったから少し驚いてしまった。


 今回2人で作るようになったのは私が蓮兄さんの作った物を欲しい的な事を言ったからであって、貰う事しか考えていなかったのだ。その分家事や色んなお手伝いをしてお返しをすると約束をしていた。


 なのに、私の作った物をあげるのはお返しに入っているのだろうかと、そんな風に思ってしまう。


 一緒に作ったのは楽しかったし、またしたいとも思うけど蓮兄さんはどういう意味で欲しいと言って来たのか、今の私はその事が気になってしまっている。


「良いですよ」

「ほんと?嬉しいよ」


 そう言って急に明るくなる蓮兄さんを見ていると、相当緊張していた事が窺える。そんな蓮兄さんに私はでも、と続けた。


「でも、こんな上手に出来ていない物でいいんですか?」


 蓮兄さんの事だから、多分何処か見える場所に飾る気がする。頑張って作ったんだからとか言って。


「ううん、十分上手だよ。頑張って作ったんだからうまい下手なんて関係ないと思うし」

「そ、そうですか」


 予想通りの返答が返ってきたが、面と向かって言われると照れてしまい少し俯いてしまう。


 ずるい…、推測できたとしても嬉しい言葉には変わりないから。


 少し狼狽えてしまっている私に蓮兄さんはまだあるらしく、それにと続ける。


「それに、そのハーバリウムを見たら今日の事をいつでも思い出せると思うから」

「今日の事ですか?」


 私は思いもよらない発言に下を向いていた顔を上げると、蓮兄さんと目が合う。


「うん、真凛ちゃんと過ごしてきて今日が一番楽しい気がするんだ。自分の趣味を誰かと一緒にするなんて初めての経験だからさ、思い出として残したくて。真凛ちゃんと出来た事を忘れたくないから」


 そう言った蓮兄さんは、私の持っている瓶に手を添えるように持ってきてこう言って来た。


「貰っていいかな?」

「……はい」


 断れる訳がない。思い出として忘れたくないからなんて言われると思っていなくて、私の手から離れたハーバリウムを大事そうに持ち眺めている蓮兄さんを見て思ってしまう。


 やっぱりずるい…と。



*****



 真凛ちゃんのハーバリウムが無事完成し、貰う事も出来た。今は夜で、自室で仕事をしているが作業台の一角に置かれた桜をイメージしたハーバリウムを見てはにやけてしまう。


 一生懸命頑張って作っている真凛ちゃんの姿を見るのは凄く楽しかった。


 DIYには興味がある人は何人かいたが、一緒に作るという事はした事が無かったから真凛ちゃんと経験できたのは実に嬉しい。


 こうやって真凛ちゃんとの思い出が増えるのは、何かが満たされていく感覚があり緩む顔を止められそうにない。


 今どんな顔をしているんだろうか。多分、人に見せられない顔をしている気がする。


 でも、抑えられない程に高鳴っているのは事実だ。仕事はあまり進んでいないが、今はこの余韻に浸りたい気分だから良いだろう。


「真凛ちゃん、今何してるんだろ」


 ハーバリウムを見て、ふと思った事を零してしまう。


 明日はあいつの買い物に付き合う事になっているから、真凛ちゃんとは今日程話せない。


 たった1日、そう思うと短く感じるがそれでも寂しさが湧き上がってきそうだ。


「多分、好きなんだろうな」



 ∩ ∩

(・×・)



 私は蓮兄さんに作って貰った机の上に綺麗なハーバリウムを置き寝る前にじっくりと眺めていた。


 椅子は明日から2日間は予定が入っている事から、日曜日に届くようにして貰っている。


 ほんの数日前まで殺風景だった部屋は徐々に私好みの落ち着いた色味の部屋へと変わり、机の上にちょこんと置いてあるピンク色のハーバリウムがこの部屋の色とは逆で非常に明るく鮮やか。


「綺麗…」


 蓮兄さんの家に初めて来た時も思ったが、こんなにも綺麗な物を作れるなんて凄過ぎる。


 まだまだ蓮兄さんの知らない所があると思うと、少し口許が緩んでしまう。


「蓮兄さんは今何してるんだろう」


 お仕事かな、それとも私の事を考えてくれていたりして…なんちゃって。もし、そうなら嬉しいけど、蓮兄さんの事だからそれはないよね。


 そんな事を思いながら、机に置いてあるハーバリウムを手に取る。


「思い出…」


 蓮兄さんはそう言っていた。私もこれを見たら今日の事を思い出すんだろうな。


 椅子を買って、頭を撫でて貰って、一緒にハーバリウムを作った。


 当たり前とも思える日常がとても輝いているように感じる。何かあった時には今日の事を思い出して、楽しい気持ちを味わおうと思う。


 私は寝る前にとハーバリウムを顔を近づけてチュッと音を立てる。


「好きです」


 そう呟き、お布団の中へとゆっくりと入るのだった。


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ここまで読んでいただきありがとうございます! 


次回:第39話 切りたくない、かな


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『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』こちらも現在連載中なので気になればどうぞ!


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