第37話 完成です!

 俺は真凛ちゃんの頭を撫で、堪能している。サラサラな髪からふわっと香る甘い匂いが少し俺の理性を逆なでしているように感じたが、何とか耐える事は出来ていると思う。


「れ、蓮兄さん」

「どうかした?」


 暫く真凛ちゃんの頭を撫でていると、急に名前を呼ばれてしまう。俺はどうしたのか分からず、手を離すを真凛ちゃんは少し顔を上げて上目遣い気味に言って来る。


「そ、その…いつまで撫でるんですか?」


 そう言った真凛ちゃんの顔は撫でる前に比べて赤く染まっている気がした。そんな顔を見て俺は少しドキッとしてしまう。


 真凛ちゃんに許可を貰っているとはいえ、やり過ぎた気もする。そろそろやめた方が良いというのは分かる、でも…


「もうちょっと、良いかな」

「は、はい……」


 俺がそう言うと真凛ちゃんは小さく返事をして、さっきよりも角度を浅めに顔を伏せる。そんな彼女に少し申しわけ無さを感じつつも、再び頭に手を置く。


 そしてゆっくりと動かすと、真凛ちゃんの表情が緩んで行くのが見えた。


「もしかして真凛ちゃん、頭撫でられるの好き?」

「え、そ、そうですね。こうしてると少し落ち着きます」


「そっか、俺も好きかな」


 そう言っている最中も真凛ちゃんは目を閉じ、気持ちよさそうにしている。そんな姿を見るに嘘を言っていそうではなさそうだ。


 その事に少し安心し、この時間を楽しむ。サラサラな髪はどれだけ触っていても飽きがこなさそうだ。出来ればこのままずっと触っていたいけど、まだハーバリウムを作れていないし、やめないとな。


 そう思い、俺はまだ撫でたい気持ちを抑え手を離し真凛ちゃんに話しかける。


「真凛ちゃんありがとう、ハーバリウムの続きしようか」

「あ……はい…」


 少し歯切れは悪く返事をする真凛ちゃんはなんだか寂しそうに思える表情をして新聞紙の敷いてあるテーブルの方へと向く。


 俺も名残惜しさを感じて、真凛ちゃんと同じような表情をしてしまいそうだ。


「ねぇ真凛ちゃん」

「はい?」


「たまにでいいからさ、また頭撫でても良いかな」

「ふふ、蓮兄さんがしたいなら…良いですよ?」


 そういう真凛ちゃんの表情は先程とは打って変わって明るい物になっていて自然と口許が緩んでしまう。やはり俺はこの表情を見るのが好きなんだろうな。


「ありがと」


 軽く感謝をして真凛ちゃんとハーバリウム作成を再開するのだった。



 ∩ ∩

(・×・)



 蓮兄さんに頭を撫でて貰ってから、30分ほど経った今私は瓶を見詰めて唸っていた。


 以前蓮兄さんがハーバリウムを作っているのを見たから、簡単に作れるのかと思っていたが全然うまく作れない。


 手先は器用な方だと思っていたけど、自分の置きたい場所に綺麗に花びらを配置できないし、このパールファイバーって言うもじゃもじゃの制御も難しすぎる。


 蓮兄さんに軽く説明を貰ったこのもじゃもじゃしたパールファイバーは、ハーバリウムを作るうえでよく多用するものらしい。あとで調べたが、釣りの疑似餌に使われているとかいないとか。


 釣りはした事ないから分かんないけど。


 私はキラキラとした細い糸が綿の様に絡まった様なこれを小さく持ち掌でコロコロ丸め、長いピンセットを使い瓶の中へと入れていく。


 この時に花びらなど自分のイメージした物をこのパールファイバーにくっ付ける。


 後でオイルを入れると綺麗に透けて、固定された花びら達が浮き上がるのだとか。


 私は初めてするハーバリウム体験に悪戦苦闘していると、隣で作業をしていた蓮兄さんが手を止めて、進捗を聞いてきた。


「真凛ちゃん、どんな感じ?」

「あー、難しいです」


「まぁ、初めてだしね。うまく作れないのも無理はないかな」

「そうですね…」


 私は蓮兄さんの作っているハーバリウムをちらっと見てみると、とても綺麗でまるで瓶の中で花びらが舞っているかのような、そんな幻想的な雰囲気を感じ取れる。


 それに比べて私のは、乱雑に配置しただけの桜の花びらと底に敷き詰めたビーズのようなクラフトパーツ。


 そりゃ蓮兄さんはこれでお金を稼いでいるんだからうまくて当たり前、でももう少しだけ上手に作りたかった。


 そう思い、もっといい物を作りたくて蓮兄さんに聞いてみる。


「蓮兄さん、もっと自然に見せるコツってないんですか?私のはなんだか、規則的というか機械的というか」

「自然に、か…」


 そう言った蓮兄さんは私の作ったハーバリウムをじっくりと見始める。


「そうだなぁ、底のクラフトパーツを敷き詰め過ぎかな。色がピンク色だからイメージとしては落ちている花びらで、一枚一枚の薄さを表現する為に少なめに入れると綺麗に見えるかも」

「落ちている花びらですか」


 その発想は無かった。とりあえず蓮兄さんの真似と思って入れてみたけど、きちんと意味があったんだ。


「それに、桜だけに拘らなくてもこれとか使って色を鮮やかにしてみるとかもいいかもね」


 蓮兄さんは買って来たナチュラルフラワーを手に取り見せてくれた。これは百円ショップで買った物で、乾燥処理のしてある花やリーフで色も沢山あって使えば鮮やかになりそうな予感がある。


「一度やり直してみますね」

「そんなに気負わなくていいと思うけど…まぁ真凛ちゃんが納得するまで付き合うよ。分からない所があればいつでも言ってね」


「ありがとうございます!」


 蓮兄さんはそう言うと作業に戻った。私は教えてもらった事を活用し慎重に作り直していく。


 1度全てを取り出し、教え通りそこに敷くクラフトパーツを少なめに…ナチュラルフラワーを使って全体の色味をバランスよく調整する。


 そして10分程悪戦苦闘し、再び私は唸っていた。蓮兄さんは終わったのか作るのを見守ってくれている。


「真凛ちゃん何に悩んでるの?」

「えっと、やっぱり蓮兄さんみたいに自然に配置するのが難しくてですね」


「自然に見えるように配置するのは難しいよね。でも、そうだな…」


 蓮兄さんは私の瓶を持って気になるところを教えてくれる。


「こことか、同じ高さに場所は違くても3つ入ってるでしょ?これを少し上下にずらすだけでも変わると思うよ」

「そうなんですね。分かりました、やってみます」


 私は蓮兄さんの指示通りにピンセットを使い、位置をずらすと若干自然に見えるようになった。


「凄いです蓮兄さん!」


 私はうまく行った喜びで気持ちを抑えきれずいると、蓮兄さんは微笑ましい物でも見るようにこちらに視線を向けている。


 ちょっと子供っぽかったかな?そんな事を気にしている間も蓮兄さんの視線は私から離れようとはしない。


 自然と私も目を合わせて見つめ合う。


 最近よく目が合うようになった、こうして髪を分けているからか前に比べてはっきりと瞳を見ているのが分かる。


 見詰められるのはまだ慣れないけど、蓮兄さんの顔を見たいという衝動には抗えそうにない。


 出来ればもっと近くで、例えば…唇が触れる距離で。


「真凛ちゃん、…しちゃおうか」

「え…?」


 蓮兄さんのその言葉に変な声を上げて驚いてしまう。しちゃおうかって、もしかして…


「は、はい。したいです」


 少しずつ上昇していた心拍数が急激に上がったのを感じる。ドキドキと高鳴る胸の音と同時で顔に熱が集まっていく。


「それじゃあ…するね」


 私はゆっくりと目を瞑り、蓮兄さんの唇を待つ。初めてを蓮兄さんと出来るなんて…もう、私の人生に悔いは無いかも。


 そんな事を思い、しばらく待ってピトッと触れる感触が……


 来ない。


 想定したことが起こらず、蓮兄さんは何をしてるんだろうと目を開けると、瓶に何か透明な物を入れていた。


「な、何してるんですか?」

「え?オイル入れてるんだけど」


「え、え?なんで入れてるんですか?」

「なんでって真凛ちゃん。俺が完成にって聞いたら、したいって言ったからもう完成なのかと思ったけど…違った?」


「え、あっ…えっと、完成です!」


 私は自分の勘違いに気づき咄嗟にそう言ってしまう。本当はもう少し手を入れたかったが、仕方ない…キスするのかと思ってましたなんて言えるわけが無いのだから。


 そんな納得のいかない歯がゆさと決して蓮兄さんに言えない秘密が出来て人生初めてのハーバリウムが完成するのだった。


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ここまで読んでいただきありがとうございます! 


次回:第38話 やっぱりずるい…


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『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』こちらも現在連載中なので気になればどうぞ!


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