第36話 嘘、だよね…

 木曜日の午前中、朝ごはんを食べた俺はスランプを抜け出すがてら真凛ちゃんの為に、春をイメージしたハーバリウムを作っていた。


 仕事じゃないからクオリティはそこまで上げなくても何も言われる事はないんだろうけど。


「少しでもいい物にしたいな」


 趣味じゃなくて誰かにあげるとなると、話は変わってくる。


 それに部屋が完成しかけてテンションの上がっている真凛ちゃんの為ならより良いものを作りたいと思ってしまう。俺と真凛ちゃん2人で作った部屋だから、可能なら小物も一緒に作りたいな。


 そう思い今回のイメージに合いそうな材料を探す為、作業台から離れ瓶や工具を置いてあるキューブボックスの前に立つ。


「瓶は初心者でも簡単にできるようにシンプルな形にして、春をイメージって言ったから桜かな。でも、そんな物家には無いしな…そうなると買い物か」


 丁度真凛ちゃんの椅子を買わないと、と昨日話していた所だしタイミングとしてはいいはず。


 真凛ちゃんはご飯を食べると暇なので漫画かアニメ見てますと言っていたから多分今日の予定はないと思う。


 ならと俺は同じ形の瓶を持ち、少し前まで何もなかった部屋へと出向く。コンコンッと音を立てて扉を叩くと、数秒後にゆっくりと開き出した。


「蓮兄さんどうかしましたか?」


 そういう真凛ちゃんに俺は持っていた瓶を見せてこう言う。


「ハーバリウム一緒に作らない?」


 その言葉に目をキラキラさせ始め俺は少し口許が緩んでしまうのだった。



*****



 俺は真凛ちゃんの使う椅子を選ぶ為に大手家具量販店を訪れていた。ハーバリウムの材料選びはそこまで時間が掛からないと思うからこちらが先なのだ。


 そんな事を思いながら、オフィスチェアが沢山置かれている空間に辿り着いた。


 真凛ちゃんは普段あまりこういう場所に来ないのか周りをきょろきょろ見ている。俺も今使っている椅子を買うのに1度着たきりなので慣れてはいない。


 椅子なんてネットで買えば来なくても良いんじゃないか、なんて思っていた1年前の自分を思い出してしまう。


 あの頃は実家で仕事をしていたから、椅子なんて気にしていなくて何でもいいと思っていた。でも、母さんに相談したら『椅子は大金はたいても自分に合うものを買いなさい』って連れてこられたんだよな。


 その選択は正しくて、家で作業していた時の腰の痛みは軽減され、自分の座り方に適した椅子を選んだからか疲れも感じる事が減った。流石に1日ぶっ通しで作業すると疲れるけど。


 そんな事を考えていると真凛ちゃんは椅子に付いているタグを見て固まっている。


「嘘、だよね…」


 どうやら、椅子の値段を見て驚きを隠せない様子。この光景を見るのも慣れてきている気がする。なのでいつも通りあのセリフを言う事になるのだろう。


「値段は気にしなくていいからね」

「……は、はい」


 若干顔を引きつらせてそう言う真凛ちゃんの下に近づき、俺も覗き込むようにして見ると、同じように苦い顔をしてしまう。


「6万円か…高いね」

「はい、蓮兄さん因みにどれくらい持って来てるんですか?私こんなにすると思って無くて2万円くらいしかないんですが」


「俺は4万円ちょっとかな。…買っちゃう?」

「馬鹿な事言わない下さい!」


「ご、ごめん」


 流石に冗談が過ぎただろうか、2人の持ち金を合わせればギリ足りるので買っても良いんじゃないかと思い言ってみたが、怒られてしまった。


 そんなやり取りをしつつ椅子選びが始まる。真凛ちゃんは値段を気にしているのかタグを確認しては首を振るを繰り返していた。


 この調子だと、午後のハーバリウム作りに間に合わないんじゃないだろうか。


 そう思った俺は、お手頃な価格の椅子のタグを見て「これどうですか?」と目で訴え掛けて来ている真凛ちゃんの肩に手を置き話しかける。


「一旦値段の事は置いとこうか」

「そ、そうですよね」


 真凛ちゃんは怒られて反省している子供の様にしゅんとなる。その姿を見て、なぜか頭を撫でたくなってポンっと肩に置いていた手を頭に乗せる。


「蓮兄さん?」


 不思議そうに俺の事を呼び、こちらを見上げる真凛ちゃんを見てあの時と同じように零してしまう。


「可愛い」

「なっ…///」


 驚いて出た声なのか、真凛ちゃんはそう言うとそっぽを向いてしゃがみ込んでしまう。なぜか頭に両手を置いて。


 あまり状況の飲み込めていない俺は真凛ちゃんに話しかけようとした所で、後ろから係の人か20代くらいの女性が話しかけてきた。


「お客様、店内でそういう事をされるのは…」

「えっ……あ、はい。すみません!」


 係の人にそう言われ咄嗟に謝ってしまう。どうしてかというと周りにはこちらを見る他のお客の姿が見えたからだ。


 公共の場で何しているんだろう、そう思い恥ずかと出来るだけ早くこの場から離れたくて真凛ちゃんの椅子選びをその人に頼むのだった。



*****



「蓮兄さんのばか」

「ほんとごめんって」


「ばかばかばか」

「ごめんなさい」


 真凛ちゃんの気に入る椅子を購入する事ができ、ハーバリウムの材料も購入して家に帰ってきた。手洗いうがいをし、軽くご飯を食べた後はハーバリウム作成をするためにダイニングテーブルに新聞紙を敷く。


 そして真凛ちゃんに大方の作り方を伝えて、雑談している最中なのだが椅子を購入する前の話になり怒られている。


 俺も、なぜ真凛ちゃんの頭を撫でたくなったのかは分からない。


「お外であんな事しないでください」

「それって家でならいいって事?」


「っ……したいんですか?」

 

 隣に座る真凛ちゃんは手を止めて少しこちらに顔を向けてそう聞いてくる。若干顔が赤く見えるから恥ずかしいのだろう。


 正直に言うと俺も恥ずかしいが、もし許可が貰えるなら言っておきたい。


「し、したいかな」

「そ、そうですか…」


 そういう真凛ちゃんは俺から顔を背ける。これはダメか…そう思っていると、真凛ちゃんの手がテーブルの上から椅子におり、体がこちらに向き始めた。


「ど、どうぞ…頭、いいですよ」


 顔を俯かせ、俺に頭を差し出してくる。こ、これは良いって事なのか…?


「あ、ありがと。じゃあ触るね」

「…はい」


 俺はゆっくりと真凛ちゃんの頭へと手を伸ばし、そのサラサラな髪に触れる。最近触りたくなるこの髪は、綺麗で透き通ったようなホワイトに近いプラチナブロンド。


 確かお父さんが外国の人なんだっけか。小さい頃に数回しか会ったことはないが、日本語が上手だったのを思い出す。


 あの頃から綺麗な髪に惹かれていた、懐かしい。


「昔からこの髪が好きだったんだよな…」


 そう、ふと自分が言った言葉に手を止めてしまう。


 こうやって頭を撫でる経験をしたのがなんだか懐かしく感じるが、俺が誰かの頭を撫でたのはあの子くらいしかいない。


 もしかして…


 いや、そんな事あるわけないよな。


 俺はそう思い、真凛ちゃんの頭を撫でるのを再開するのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここまで読んでいただきありがとうございます! 


次回:第37話 完成です!


応援、☆☆☆レビューよろしくお願いします!励みになります。


『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』こちらも現在連載中なので気になればどうぞ!


https://kakuyomu.jp/works/16817330660041626971


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る