第33話 最高です!

 真凛ちゃんとご飯を作った午後、ベッド作りの続きをするために前にも来たホームセンターのDIYコーナーを訪れていた。


 雨や、熱のせいで来ることが出来ていなくてなんだか久しぶりにきた気分だ。


 本来なら病み上がりなので安静にしておく方がいいと思うが、早めに作っておきたいと言うのもあるし今日はニス塗りのみなのでそこまで体を動かさないだろうと真凛ちゃんを説得している。


「今日は塗るだけですからね?」

「わかってるって」


 真凛ちゃんは心配性なのか、ここに来るまで何度か同じことを言ってきた。

 俺、もしかして信用されてないのだろうか。


「それじゃあ、始めようか」

「はい!」


 注意はしてくるものの、ベッド作りにワクワクしていた真凛ちゃんは作業を始めると楽しそうにニスを塗っている。


 俺は真凛ちゃんが塗ってくれたニスが乾き次第、目の細かいやすりで表面を軽く削り、手で触ってザラつきがなくなれば完成。


「あ、真凛ちゃん色なんだけど。もう少し濃いのがいいなら重ね塗りするんだけどどうする?」

「そうですね、もう少し落ち着いた色の方が部屋に馴染みやすいと思うので塗りたいです」


「了解」


 今回使っているニスはウレタンの水性ニスで乾くのが早く、密着性に優れている為、艶があって高級感のある質感に仕上げることができる。


 真凛ちゃんの理想の部屋は、全体に落ち着いた大人が好みそうな配色。俺の部屋も結構暗い感じなので似ている部分がある気がする。


 そんなことを考えながら作業を続け、特に話す事もなくベッド用の木と壁用の木材にも塗っていく。壁用は量が多く、明るい方がいいと言っていたので一度塗り。


「ふぅ、終わりましたね」

「結構量あったから予想以上に疲れた」


 真凛ちゃんは軽く額に汗を掻いている。それを見た俺はポケットからハンカチを取り出し差し出す。


「今日まだ使ってないから良かったら」

「ありがとうございます、蓮兄さんも疲れているのに」


「ううん、慣れない作業だし真凛ちゃんの方が疲労は溜まってると思うし何か飲み物買ってくるよ」

「え、いいんですか?」


 真凛ちゃんは相当疲れているのか、床に座って立ち上がる素振りすら見えない。これは休憩が必要かもな。


「うん、入り口に自販機あったから買ってくるよ。何がいい?」

「じゃあ、何か甘い炭酸を…あれ、財布が」


「いいよ、俺が出すから」

「ごめんなさい、家に帰ったら返しますので」


「わかった、じゃあ買って来るね」


 別に返さなくてもいいのにな、そう思いながらDIYコーナーを出たすぐのところにある自販機まで歩いていく。



 ∩ ∩

(・×・)



 蓮兄さんは疲れて動けない私を見てハンカチを渡してくれて、飲み物まで買ってくれると言って入口の方へ歩いていった。


 私はその後ろ姿を眺める。最近見る事が増えたその背中は、頼もしくていつまでも見ていられる気がした。


「えっと、小林ちゃんだっけ?」

「え、あ、はい」


 蓮兄さんを見ていると、隣から少し低い声で呼ばれ返事をする。声のする方を見ると、前にここの受付をしていた人だった。


 中年の優しそうなお兄さんみたいな見た目で、蓮兄さんと親しく話していた気がする。


 ベッドを作る時に手伝ってくれた人だけど、蓮兄さんは私が男の人が苦手ってこと知っているからその時は対応してくれたんだよね。


「この前も来てたよね」

「は、はい」


「はは、そんなに緊張しなくていいよ。蓮くんの大切な人ならぞんざいに扱えないしね」

「大切な人ですか…」


「あれ、違ったかな?」


 私はすぐにでも違うと言って仕舞えばいいけど今は他の人から見てもそう言う風に見られている事に喜びを隠せず、口元が緩む。


「その感じなら、まだって事かな。蓮くんが女の子を連れて来たのは初めてだからおじさん嬉しくてね。蓮くんは小さい頃から見てるから子供が大人になるってこう言う事なんだなってしみじみしちゃうよ」

「蓮兄さんの子供の頃ですか」


「興味ある?」


 蓮兄さんの事は中学に入ってから気になって、よく見ていたけどその前の事は知らない。


 もし蓮兄さんが昔、よく話していた少年なら尚更。私が、男の人が嫌になって会うのも怖くて逃げちゃったから。だからその後の事は本当に知らない。


 でも、今はすごく知りたい。


「聞きたいです!」

「わかった」


 そう言って優しく微笑む顔を見ると蓮兄さんの事が好きなのだと伝わってきてちょっとだけ安心する。男の人は苦手だけど、蓮兄さんの事が知れるとわかるとワクワクが止まらない。


「じゃあ、まず何から話そうか。蓮くんがここに来た時の事でも」

「お願いします!」


 そこからは蓮兄さんが帰ってくるまで色々教えて貰った。


 初めて触る工具で何度も怪我をした事とか。

 1人で家具を作るって言ったのに、数時間で根をあげて一緒に作った事とか。


 初めて聞く蓮兄さんの昔話は楽しくて、私から質問した事もあった。


 途中「本当に蓮くんのことが好きなんだね」なんて言われてちょっとだけ恥ずかしいと感じたけど、聞く話全てが今の蓮兄さんとは違って面白い。


 もっと聞きたいな。


 そう思っていると蓮兄さんがこっちに帰ってくるのが見えてその人は最後にこう言ってくれた。


「蓮くんはね、好きな事だと失敗しても何度も何度も挑戦して自分の納得の行くものを作るんだ、強い子だよあの子は。だからもし、小林ちゃんが蓮くんの事が好きなら諦めずに頑張ってね。応援してるよ」

「は、はい!頑張ります」


 私も蓮兄さんみたいにめげずに頑張ろうと思う。いつか蓮兄さんの隣で笑って居られるようになりたいから。



*****



 俺が飲み物を買って戻ると修二しゅうじさんと真凛ちゃんが楽しそうに話していた。


「何話してるの?」


 そう聞くが変に濁されてしまう。怪しい…修二さんは俺が子供の頃からの知り合いなので色々知っている。


 真凛ちゃんに変なことを吹き込んでいないといいけど。

 

 そんなことを思いつつも、買ってきた飲み物を2人に渡す。真凛ちゃんは振って飲むサイダーで、修二さんにはコーヒーを。


「え、俺にもくれるのかい?」

「当たり前でしょ、なんだかんだ手伝ってくれてるし保管場所だって、雨が降ってた時に湿気ないように動かしてくれてたからね」


「あはは、長い付き合いになると気遣いもバレちゃうって事か。じゃあ遠慮なくいただくよ」


 そう言って修二さんは俺からコーヒーを受け取る。真凛ちゃんは飲み物を受け取ると缶を振り始めた。


 俺は飲んだ事はないが、前に子供が美味しそうに飲んでいるのを見て買ってみたのだが、真凛ちゃんの好みに合っていただろうか。


 そんな事を考えて真凛ちゃんを見ているとふと目が合う。と思ったら逸らされた。


 最近目を逸らされることが減ってきていると思っていたが気のせいだったのかもしれない。



*****



 そんな事もあり帰宅した俺と真凛ちゃんはご飯を食べている。


 あの量を手で持っては帰れないので修二さんの軽トラックに乗せて貰い、無事真凛ちゃんのソファベッドと壁、机の材料が家に運ばれた。


 今日は真凛ちゃんに塗りだけと言っていたので組み立てまではしない。案外早く作業が終わり、明日には組み立てをして部屋を作っていく。


「真凛ちゃん美味しい?」

「最高です!」


「良かった」


 お昼に続き夜も真凛ちゃんに教えて貰い、晩御飯にカレーを作り上手く作れているか不安だったが反応を見るに成功だろう。


「これからも色々教えてね」

「はい!私に出来ることがあればなんでも言ってくださいね」


「ありがとう、じゃあまた明日もよろしく」

「任せてください!」


 そう言った真凛ちゃんは嬉しそうに笑みを浮かべ、カレーを一口含む。


 あ、真凛ちゃんに金曜日の事言わなきゃ。


 でもまぁ今じゃなくても良いか、美味しそうに食べる真凛ちゃんを見ていると、当日でなければいつでも良いだろう。


 そう思い俺も中辛のカレーを口に含むのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここまで読んでいただきありがとうございます! 


次回:第34話 もう少し傍に行っても…良いですか?


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『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』こちらも現在連載中なので気になればどうぞ!


https://kakuyomu.jp/works/16817330660041626971

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