第32話 美味しくなかったですか!?
真凛ちゃんに教えて貰いながら料理をすると言う事が始まり、12時に差し掛かろうとしたところで本格的に調理を開始するようだ。
最近は真凛ちゃんが居る事もあり、キッチンに立つ機会も減って来ていて多少なりとも緊張する。いや、真凛ちゃんが来る前からあまり立ち寄っていなかったけど。
そんな事は置いといて上手く作れるだろうか。
真凛ちゃんはIHを中火にして温まるのを待っているのか、油を引いたフライパンを眺めて動かない。
立ち位置としてはフライパンの前に俺が立っていて、隣に真凛ちゃんが見ている。
見られながらというのは緊張するが、やり切らないと俺のご飯がないからな。
そう思い俺は焼豚をフライパンに入れようとした所で思いとどまり、注意はされなかったが気になった事を真凛ちゃんに聞こうと口を開く。
「ねぇ真凛ちゃん、油ってこの量で大丈夫?」
「油ですか。そうですね、普通チャーハンをするなら少ないですが、お肉を入れるのでこの量で大丈夫だと思います」
「そっか、良かった」
油の量すら分からない俺は1から学ばないと、いつか失敗してしまいそうだからな。今すぐは難しくても1人で作って真凛ちゃんに美味しいって言って貰えるように頑張りたいから。
真凛ちゃんから大丈夫が貰えたことで安心し焼豚をフライパンに投入。少しパチパチという音と共にお肉の香りがして、お昼時なのもありゴクッと喉がなってしまう。
だめだ、今作っているのはチャーハンだ。俺はそのまま食べたい衝動を抑え、次の工程に入る。
「えっとこの後ってこのままご飯入れていいの?」
「あー、お肉の油が出てると思うのでフライパン全体に馴染ませるように動かして貰えますか?」
「こ、こうかな」
「上手です」
俺は真凛ちゃんの指示に従い、フライパンを傾け油を全体に馴染ませる。じゃあそろそろ本命のお飯を入れよう、そう思っていると隣で見ていた真凛ちゃんは何かを手に持つと話しかけてきた。
「蓮兄さんこれ入れてください」
「溶き卵?それ次に真凛ちゃんが作る時のやつじゃなかったの?」
真凛ちゃんはレンジでご飯を温めている間に冷蔵庫から卵を取り出して、溶き卵を作っていた。てっきり真凛ちゃん用のものかと思っていたけど、どうやら違うみたいだ。
「卵は2つ使うと美味しくなるんですよ。まぁ好みにも寄りますが、コロコロ入っているの私好きなので。蓮兄さん嫌いですか?」
「全然嫌じゃないよ、むしろ俺も欲しいかな」
口に当たる卵はチャーハンに入っていると美味しいから俺も好きだ。こういう些細なところも好みがあっているんだと知ると、少し嬉しくなる。
「良かったです、なら入れましょうか」
そういう真凛ちゃんから解いた卵を受け取り、焼豚の上からかける。
するとジューと卵の表面が焼ける音がしてきた。ぷくぷくと泡のようなものが浮き出てきて来る、もうご飯は入れていいのだろうか。
分からない俺は卵かけご飯を手に持ち隣を見ると、うんうんと頷いてくれた。それを見るにあっているのだと分かり、すかさずご飯を投入する。
さっきまでの俺ならヘラを使いご飯を割いたり出来るのだが、片付けられてしまっている以上お箸でするしかない。
俺は新しく出した菜箸を使い、卵かけご飯を広げていく。固まっているままでは火の通りが悪くなると思うしさっき水分の話をしていたのだから、飛ばす為にも薄く平らにしていった方がいいと思う。
そう思い卵、焼豚、ご飯を均等になるように混ぜる。
「いいですね、蓮兄さん。もっとこう割くように混ぜるといい感じになりますよ」
「こうかな」
「上手です!」
真凛ちゃんの教え方は分かりやく料理初心者の自分でも理解ができる。
こうやって真凛ちゃんと何かをするというのはベッド作り以外では初めてで、これからも一緒にする事が増えるのだろうか。
そうなったらどれだけ楽しいと感じるのか、今の俺には分からない。でも、今この瞬間はこれまであまり感じた事のなかった新鮮な気持ちだ。
「もうそろそろですね。ネギとシャンタン入れましょうか」
「う、うん」
十分パラパラになったチャーハンにネギとシャンタンスープの素を入れて軽く炒めると隣から完成を知らせる声が聞こえてくる。
「完成ですかね、味見してみましょう」
「そうだね」
俺は菜箸で小皿にチャーハンを掬い味見をしてみる。卵かけご飯の時は薄いと感じていた味が創味シャンタンによって、香りも含めてよくマッチしていた。
だが…
「ゴホッゴホッ」
「ど、どうしたんですか!美味しくなかったですか!?」
「い、いや美味しいよ。熱くてさ、急いで飲み込んだらむせちゃって」
「何してるんですか…お水用意しますね」
そう言った真凛ちゃんはコップに水を汲んでくれて手渡してくれる。
それを受け取った俺はゴクッと飲み干して、火傷していないか舌を口の中で動かすと少しヒリヒリするが火傷はしていなさそうで安心だ。
「ありがとね、真凛ちゃん」
「いえ、急に咳き込んだので失敗したのかと思っちゃいましたよ」
「あはは、ごめんね」
調味料の配分は真凛ちゃんがしてくれたから心配しているのだろう。
それにしても、自分の好きな味付けになっているだから本当にびっくりだ。
薄過ぎず濃すぎず、しかし香りはしっかりと感じ取れて今が味見でなければガッツいてしまっていただろう。まぁ、はしたないのでそんな事は真凛ちゃんの前では出来ないが。でも、それくらいには美味だな。
「それじゃあ、お昼にしちゃいましょうか」
「え、真凛ちゃんは作らないの?」
「はい!蓮兄さんの作った物早く食べてみたいですし」
そう言って笑みを浮かべる真凛ちゃんはご飯を食べる準備に取り掛かる。その後ろ姿を目で追いながら少し思ってしまう。
今の言葉は誰にでも言うのだろうかと。
∩ ∩
(・×・)
私は蓮兄さんの作ったチャーハンを大きなお皿に移し替え、器によそうスプーンと食べる用のスプーンを用意する。飲み物も蓮兄さんは炭酸水で私はお茶だ。
「蓮兄さん何してるんですか?」
「え、あ、ごめん。ぼーっとしてた」
「慣れない事したらから疲れたんですかね」
「あはは、かもね」
私はキッチンの方でこちらを見ていた蓮兄さんに声をかけると、いつもと違う笑いをした。なんて例えたらいいか分からないけど、何か難しい考え事でもしていたのかな。
笑みを浮かべた蓮兄さんは食べる準備を始める。
「それじゃあ頂きましょうか」
「う、うん」
席に着いて蓮兄さんにそういうと緊張したように私の事を見ている。
私は自分の器にチャーハンをよそい食べるためにスプーンで掬って持ち上げると熱々だから湯気が見えた。蓮兄さんの作った料理を食べるの初めてですごく楽しみだ。
今回は私が隣で教えながら作って貰ったけどいつか蓮兄さん1人で作ったものを食べる機会もあるかもしれないから、それもすごく楽しみ。
そんなことを考えながら、チャーハンを冷ますようにふぅふぅと息を吹きかける。ちょっと猫舌な私は十分冷ましてから口の中に入れて咀嚼すると、程よくパラパラになったご飯と私好みの味付け。
蓮兄さんも美味しいとは言ってたけど、実際のところは分からない。もし、美味しいと思ってくれていたのなら嬉しいな。
「どうかな?」
そんな事を考えていると蓮兄さんは感想を求めてくる。蓮兄さんは一人暮らしを始めてから料理を始めたと思うから、もしかしたらお姉ちゃん以外に食べた人は居ないのかも。
でも、正直な事を言うと蓮兄さんの初めては私がいいな。
「美味しいです」
「良かったぁ」
蓮兄さんは安心したのか安堵の息を吐く。私もここで初めて蓮兄さんの為に作ったご飯を食べて貰った時、美味しいって言ってくれたのはすごく嬉しかった。
好きな人に美味しいって言って貰えるのはこれまで感じた事のない程の達成感と幸福感を味わえる。今の蓮兄さんはどうなのかな、同じだったりするのかな。
「蓮兄さんセンスあると思いますよ」
「そうかな?真凛ちゃんの教え方分かりやすいからうまく出来ただけかもしれないけど、楽しかったのはあるかな」
そう言って笑う蓮兄さんを見て、少しドキッとしてしまう。蓮兄さんの表情は一緒に撮った写真の時と同じ無邪気な笑みで、あの頃の事を思い出したくなる。
あの頃の私は蓮兄さんの事が苦手だったなぁ。でも、今ははっきりと言える。
好きだって。
いつかこの気持ちを伝えたいな。蓮兄さんに彼女ができる前に…
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回:第33話 最高です!
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『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』こちらも現在連載中なので気になればどうぞ!
https://kakuyomu.jp/works/16817330660041626971
昨日、『いもへや』と『
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