第31話 パラパラは簡単ですよ
真凛ちゃんと買い物を済ませて家に帰ってきた。時間はもうすぐでお昼に差し掛かろうとしている。
家に帰ってきたら、まず買った物を冷蔵庫に入れ手を洗いに洗面所へ。
手に石鹸をつけて入念に洗っていると真凛ちゃんが今日のお昼に関して聞いておきたいことがあるのか聞いてきた。
「蓮兄さんはチャーハン作ったことあるんですよね」
「うん、一人暮らし始めた頃くらいに自炊しなきゃって一度作って失敗したかな。実家の方はガスだけど、ここはIHだから火加減が分からなくてさ」
「火加減ですか、IHはガスに慣れていると難しいですよね。私はその逆で学校の調理実習ではいつも少し焦がしてましたし」
「へぇ、てことは真凛ちゃんの家はIHなの?」
「そうですね、ここに来た時家事はしようと思っていたのでガスじゃなくて安心しましたよ」
「あはは、慣れてないと上手く出来ないもんね」
真凛ちゃんの場合何度か使っていればすぐに慣れそうだけど。俺はこの家に引っ越してきてから1年経つけどまだ慣れていないから軽口は叩けない。
慣れる前に逃げてお惣菜とかコンビニのすでに出来上がっている物に手が伸びてしまうのは楽を好む人間としての本質なのだから仕方ないと思うんだ。
そう言い訳みたいな事を並べて自分を正当化していく。
そんな事を思いながら手を洗い終え、料理をするために普段立たないキッチンへと足を運んだ。
「真凛ちゃんまず何したら良いかな」
「そうですね、初めは蓮兄さんが何をしているかを見ます。NG行動があればぶっぶーしますので」
そう言う真凛ちゃんは胸の前でバッテンを作る、正直可愛い。
もし俺が間違えた行動をすればぶっぶーが飛んでくるのか、何がダメなのか分からないけど間違えても悔しくないかもしれない…寧ろして欲しいとも思ってしまう。
まぁそんな事は口が裂けても言えないので、調理を始める。
まず、ご飯は炊いていないから冷蔵庫のタッパーに入っているご飯と、買ってきた焼豚、すでに切られているネギに卵を取り出す。
創味シャンタンは台所に置いてあるのでいいとして、油を出せば用意するものは終わった。
次に調理に入っていく。
まず、チャーシューを半分に切り、あとで真凛ちゃんも作って貰う分に残しておく。失敗する事はないと思うが、万が一を考えている。本当は真凛ちゃんの作ったチャーハンが食べたいだけなんだけど。
そう思うも調理に慣れていない人間がよそ見をして出来るほど甘くないので真剣に焼豚を切っていく。
お店とかでは細かく刻んでいるし俺も真似る。
まだ真凛ちゃんのぶっぶーが飛んでこないので間違えてはいないのだろう。いや、間違える要素がないか。
「蓮兄さんきちんと猫の手ができてえらいですね」
なんと褒められてしまった、嬉しい。料理初心者だからこそ危ないことはちゃんと守る、怖いからな。
子供の頃に手を軽く切った覚えがあり、ここだけはいつも守っている。
調理に戻るが、小さい器に卵を落とし入れ溶き卵を作りフライパンに油を引いていく。量が分からないが、まぁ少なくていいだろう。
少量油を入れ、中火で火をかける。忘れず換気扇を回し焼豚を投入…しようと思ったところで隣から待ったが掛かった。
「ぶっぶーです蓮兄さん」
真凛ちゃんは料理を始める前に言っていた通り胸の前でバツを作り、作業の中止を求めてくる。
「蓮兄さんとりあえず火を止めてください」
「わ、分かりました」
俺は言われた通りIHの電源切り、真凛ちゃんに何がダメだったのかを聞く事にする。正直何が悪かったのか分からない。
「何処かダメなところあったの?」
「現時点ではないのですが、質問があります」
そう言う真凛ちゃんはご飯の入ったタッパーを手に持つと気になったことがあるようで聞いてきた。
「蓮兄さんもしかして、このままご飯入れようとしてないですよね?」
「え、うん。ダメだったの…?」
「ダメではないんですが、一度温るとご飯がほぐれやすくなるんですよ」
「へぇ、そうなんだ」
確かに冷やご飯をそのまま入れると固くて、なかなか全体に火が通らないか。でも、以前作った時は炊き立てだったのにベチャついたんだよな。
「ねぇ、真凛ちゃん前温かいご飯で作ったけどパラパラにならなかったよ?」
「あー、それはですね」
そう言った真凛ちゃんは電子レンジにタッパーの蓋をとったご飯を入れ、温め出した。
「それはですね、ご飯に付いている水分を少なくする工程をしていないからですね。こうやってタッパーの蓋を取ってレンジで温めれば多少は飛ぶと思いますよ」
「そう言う事だったんだ」
ご飯に付着した水分か、炊き立てのご飯はそのまま食べるのはふっくらして美味しいけどチャーハンにするとなるとあまり適してないのか、勉強になるな。
そして、電子レンジでご飯を温める間に次に行う作業について聞いてくる。
「蓮兄さんこの後ってどうやって作ろうとしてました?」
「えっと、焼豚を中火で温めて強火で卵とご飯入れて最後にネギだったかな」
「そうですか…作り方間違えてないですね」
じゃあどうして?と眉を寄せて頭を傾けている。俺だって分からないよ。
料理知識の半端な俺じゃどれだけ考えても分からない。
そんなことを考えていると、真凛ちゃんは「決めました!」と声を張り指示を出してくれるようだ。
「蓮兄さん、もっと簡単に作りましょう」
「簡単?」
「はい、強火使わないでいきましょうか」
「強火を使わないの?」
「そうです、それに…」
真凛ちゃんは冷蔵庫からもう1つ卵を取り出してくる。足りなかったのだろうか。まだチンと鳴らないのをチラ見して、少し大きめなお皿を食器棚から持ってきた。
テキパキと動く真凛ちゃんを見ていると、いつの間には時間が経過していてチンッという音と共に温かいご飯が出来上がる。
真凛ちゃんは他のことをしているので俺が電子レンジからご飯を取り出す。真凛ちゃんの前にご飯を置くと調理が始まるのか、腕まくりし始める。
「それでは始めましょうか!」
「は、はい。お願いします」
なんだか料理をする真凛ちゃんはいつもと違いおどおどしておらず生き生きしいてるように感じ取れる、家事が趣味と言っていたが間違いではないのだろう。
「まず、温まったご飯と卵を合わせて卵かけご飯を作ります」
「はい」
俺は真凛ちゃんの指示に従い、卵かけご飯を作る。
「次に、少し醤油を掛けて食べてみてください」
「食べるの!?」
「食べます、卵は産みたてを買って来たので大丈夫だと思いますよ」
「そ、そうなのだ」
俺はよく分からないが言われた通りに醤油を垂らし、少量食べる。もう少し醤油が欲しいかな。
「これって、醤油は薄い方がいいの?」
「そうですね、一口貰っていいですか?」
「う、うん」
真凛ちゃんはそう言うと小さい口を開いて目を瞑る。俺は今食べた箸を使って、真凛ちゃんの口にご飯を入れるとパクッと箸ごと閉じてしまう。これって間接キスなのでは。
俺がそんなことを思っていると真凛ちゃんは気にしていないのか「これくらいですかね」と言って、IHに火をかけ始める。
俺だけが気にしているのだろうか、それとも真凛ちゃん料理に集中してて気づいていていないのだろうか。
それにしても間接キスか、六花とはよくしていたのにここまで気になったりドキドキしたりは無かったな。慣れていたからなのか、元々そう言う対象じゃ無かったのか…
いくら考えても仕方ないので、今は料理に集中する。
「それじゃあ、作っていきましょうか」
「うん、でもその前に聞いてもいいかな」
「なんですか?」
「ヘラ片付けちゃったのはなんでなのかなって」
俺が気になったのは刻んだ焼豚をフライパンに入れようとしていた時に持っていたヘラがいつの間にか片付けられていた事だ。
炒める時にも使うだろうにどうしてだろう。
「使わないからですね」
「え、そうなの?ご飯を押し付けたり全体を炒めるために使いそうだけど…」
「ふふ、甘いですよ蓮兄さん」
そう言う真凛ちゃんは顔の前に手を持ってきて人差し指を左右に揺らす。
「ヘラを使うのは強火で速さが必要な時だけです。今回はもっと簡単にする為に中火でじっくりやっていきます」
「へぇ、ヘラ使わないんだね。でも時間を掛けて、パラパラになるの?」
「パラパラは簡単ですよ、ご飯がくっ付かなければいいので。その為の卵かけご飯です!っと話していたら、12時過ぎちゃいそうですね。そろそろ本格的に始めてきましょうか」
真凛ちゃんの言う通り、カウンターに置いてある白いアナログの置き時計を見るともうすぐで12時になりそうだった。
「分かりました、お願いします真凛先生!」
その言葉に少し嬉しそうに口元を緩める真凛ちゃんの顔を俺は見逃さなかった。どんな表情でも素敵に感じてしまうのはやはり六花とは違う好きなのだと実感し始める。
さて、お腹も空いてくる頃合いなので始めるとしよう。俺は無事上手く作る事ができるのだろうか。
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回:第32話 美味しくなかったですか!?
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『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』こちらも現在連載中なので気になればどうぞ!
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