第30話 ビシバシいきますよ!
真凛ちゃんとアニメを見た翌日の火曜日、体の倦怠感も抜け熱を測ると平熱に戻っていた。とても気分がいい。
それに今年は真凛ちゃんが側に居てくれたおかげで寂しいと感じることもなかった。彼女がいる時よりもいない時の方が良いってなんだかおかしいけど思ってしまったんだから仕方がない。
でも、これは真凛ちゃんがいてくれたからそうなっているだけだ。
そして忘れちゃいけないのは真凛ちゃんはまだ居候の身と言うこと。引き止める何かがないとどこかに行ってしまうかもしれない。
だからといって思いを伝えるのも戸惑ってしまう。その選択が正しいのか、今の俺には選べそうにない。
一方的な好きは辛いだけだし、真凛ちゃんの気持ち次第ではここに居ずらくなるだろう。
そんな事を起き掛けに布団の中で考えていると、ピコンッとスマホから通知音が鳴る。確認すると、今度買い物に付き合ってくれないかというものだった。
「あー、もうそろそろか。金曜日…」
真凛ちゃんと出かける前日ではあるが、あいつなら今のこの感情を相談するのも良さそうだな。
そう思い俺は、金曜日に行く事を伝えた。
*****
メッセージを送り終えた俺は、身体を起こしてリビングに向かうと真凛ちゃんが朝ご飯を作ってくれていた。
この光景にも大分慣れて、少しだけ俺の楽しみにもなっている。冷蔵庫から何かを取り出そうとしているのか、後ろを向いている真凛ちゃんに挨拶をしようと声を掛けた。
「おはよう」
「あ、おはようございます!熱は大丈夫ですか?」
「うん、おかげさまで下がったよ。ありがとね色々して貰って」
「いえいえ、蓮兄さんには元気で居て欲しいですから」
真凛ちゃんは笑顔でそう言ってくる。その笑顔を見ているだけで元気になりそうだ。
「もう少しで、出来ますので蓮兄さんは着替え済ませて来て下さい。今日出かけるんですから」
「え、今日出かけるの?」
「はい、お買い物です。これ見てください」
そう言う真凛ちゃんは冷蔵庫の中身を見せてくれた。中は一言で言うと寂しい感じ。
雨のせいで碌に外出出来ていなかったからだろう。これは今すぐにでも買いに行かないといけない。
「まぁ、冷蔵庫の中身が寂しいのもありますが、今日蓮兄さんにお昼を作って貰うためにも買っておかないといけないモノがあるので」
「買っておかないといけないモノ…?」
「はい、あれを使えばチャーハンを美味しく作れます」
真凛ちゃんの言うあれとは何か分からないが、俺でも美味しくチャーハンを作れるようにしてくれるのだろう、素直に楽しみだ。それに真凛ちゃんと買い物に行くのも。
「分かったじゃあ午前中は買い物行こうか」
「はい!」
元気よく返事をする真凛ちゃんを見て、少し口元が緩むのを感じながら洗面所に向かう。
*****
真凛ちゃんの作ってくれたご飯を食べた後は買い物をする為に最寄りのスーパーに来ていた。どうやら真凛ちゃんの欲しいモノは商店街では手に入らないモノなのだろう。
そう思いながら買い物を続ける。今日の晩御飯はどうするかとか炒飯以外ならどんなものに挑戦して見たいかとか、話しながら商品売り場をうろちょろ。
たまに真凛ちゃんがお菓子コーナーをチラ見しているのが見えたのでレジ前にでも寄って行こう。
「それで、来る前に言ってた買っておかないといけないモノって何?」
「あー、それならあそこにありますよ」
そう言って、てくてく先を歩く真凛ちゃんに着いていくとスープの素や調味料が置いてあるコーナーへと辿り着いた。
となるとやはり置いてあるチャーハンの素。俺は1つ手に取り真凛ちゃんに聞いてみる。
「真凛ちゃんどれ買おうか」
「?蓮兄さんなんでチャーハンの素持ってるんですか?」
「え、これ買いに来たんじゃないの?」
「違いますよ」
俺はてっきりチャーハンの素で作るのかと思っていたから、少し驚いている。まぁチャーハンの素で失敗したんだけどな俺は…
料理は難しいと言う事を学んだよあの時は。
それはそうとして、これを買わないとなれば何を買うと言うのだろうか。塩コショウ?味の素?料理のあまりしない俺から出てくる調味料といえばこれくらいだ。もっと勉強しておけば良かったかな。
「えっとどれ買うの?」
「それはですね…」
そう言った真凛ちゃんは辺りを見渡し「あった」と小さく言うと目当ての物目掛けて歩き出す。
そして真凛ちゃんが手に取ったのは…
「創味シャンタン?」
「はい、これがあればネギ豚チャーハンは簡単に美味しくなります」
「へぇ、スープの素使うんだ」
「そうですね、裏面に色々なアレンジが書かれているんですよ」
そう言う真凛ちゃんは裏面をこちらに見せてくれた。
袋の裏には真凛ちゃんの言っていた通りアレンジが書かれている。チャーハンや、野菜炒めワカメスープに唐揚げ…所謂、万能調味料だ。
「今日はこれ買いに来たの?」
「メインはそうですね。あとは朝のパンとチャーハンに入れる焼豚とネギ。それから…」
真凛ちゃんは買い物に慣れているのか購入するものをメモなしでスラスラと述べていく。
真凛ちゃんと一緒に買い物をすればまず買い忘れとかは無さそうだ。
そんな今日買うものを粗方カゴに入れレジに向かう…前にちょっと寄り道。目的地はもちろん。
「蓮兄さんお菓子買うんですか?」
「そうそう、真凛ちゃんも食べたい物があればカゴに入れてね」
「いいんですか?」
そう言う真凛ちゃんの目はキラキラと輝いていて年齢を知らなければ、小学生と見間違えてしまいそうだ。本人には絶対に言わないけどな。
「どれがいいかなぁ…」
楽しそうにお菓子を選らぶ真凛ちゃんを横目に俺もお菓子を選ぶ。普段甘すぎる物を食べないのでお菓子という物は学校の遠足や修学旅行、友達の家で遊ぶ時くらいしか口にしない。
そうなれば困るのは何が美味しいのかと言う事だ。
ぱっと見全部甘そうだけど、どれがいいんだろうか。
「真凛ちゃん決まった?」
「いえ、今悩んでます」
「悩んでるって事は食べたいものが何個かあるの?」
「そうですね、これとこれとこれと…」
多いな…。真凛ちゃんはグミやチョコ、スナック系を指差し食べたいものをピックアップしてくる。
正直食べたことの無いものばかり、かろうじてパイの実を食べた事があるくらいだろうか。
もし真凛ちゃんにどれが良いかと聞かれても答えられる気がしない。
「蓮兄さんはどれが良いと思いますか?」
なんて考えていると真凛ちゃんは聞いてくる。うん、困った。
「全部買おうか」
「え!?」
「家に置いておいたら何度も買いにこなくて済むだろうし、食べたい物があるなら遠慮しなくていいよ。食費は全部、俺負担だから」
「い、いえ!全部買うだなんてそんな事出来ませんよ。それにこんなに食べたら太っちゃうじゃないですか」
いや、別に一日で食べるわけでもないだろうに大袈裟な。そうも思ったが女の子は体重を気にすると聞くし、お菓子の食べ過ぎもあまりよくないのかもしれない。
「分かった、それなら買うのは1つずつにしよう。俺の分も決めて良いから好きなの選んで」
「蓮兄さんの分もですか…分かりました」
そう言う真凛ちゃんは真剣な顔をして品定めしていく。正直俺にはお菓子の良し悪しが分からないから真凛ちゃんに丸投げなのは申し訳ない。
「蓮兄さんはどんなのが良いとかありますか?」
「う、うーん。手にあまり付かなくて、甘すぎないやつかな」
俺が思い描くイメージはながらでお菓子を食べる姿だ。仕事をしながらやアニメ、動画を見ながら。
それなら極力手に付かないものが好ましい。
「それならポッキーでどうですか?」
「良いかも」
ポッキーくらいなら食べた事がある、中学の修学旅行で食べた…それっきりだが。
「じゃあ俺の分は決まったかな。真凛ちゃんはどうするの?」
「私は麦チョコですね」
「麦チョコ?」
「蓮兄さん食べた事ないんですか?」
「う、うん」
「それなら決まりですね。長時間持っていなければ手に付きにくいですし、甘すぎないので美味しいんですよ」
どうやら真凛ちゃんの選んだものも俺の好みになりそうなものだった。
買うお菓子も決まり、レジで会計を済ませる。
お店の外に出る頃には11時半を回っていて、これから真凛先生のお料理教室が始める予定。料理のあまり得意ではない俺でも無事作る事が出来るのだろうか。
「ビシバシいきますよ!」
俺と同じく買い物袋を両手に持った真凛ちゃんはこちらを見ながら強く言ってくる。どうか鬼教官でないことを祈ろう。
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回:第31話 パラパラは簡単ですよ
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『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』こちらも現在連載中なので気になればどうぞ!
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