第23話 今は1人になりたい

 ベッドで蓮兄さんの上で覆い被さるように四つん這い且つ、蓮兄さんとの顔の距離は10㎝位しかないこの状況、言い訳のしようがない。


 傍から見たら確実に襲っているように映るし、でもあながち間違いではないのでこの場に私と蓮兄さん以外居なくてよかった。


 いや蓮兄さんにバレる事自体アウトなんだけど。


 幸い蓮兄さんの目は半開きでまだ完全には起きていないと思う。となれば少しでも変に思われない言い訳を…


「真凛ちゃん、顔近くない…?」

「あ、えっと。そ、そう!熱計ろうと思いまして、お、おでこ当てようと…」


「え?そうなんだ。じゃあお願いしようかな…」


 そう言うと蓮兄さんはすぐにすぅすぅと寝息を立てて目を瞑って眠ってしまった。


 え、なんでそんなにあっさり信じてくれるの?私になら何されてもいいと思ってくれているのだろうか。


 いや、違う。多分これは信頼だろう。


 蓮兄さんは私に看病を任せてくれたのだ、変な事はしないと信じてくれている。それなのに私は…


 私は蓮兄さんが起きないようにゆっくりとベッドから降りて数分前と同じように座った。


「はぁ…」


 天井を見上げて1つ溜息を吐く。先ほどまでのドキドキはすでに収まり雨の打ち付ける音だけがこの場を占拠していた。


「はぁ……」


 暫くしてまた1つため息をつく。今一度自分のやろうとしていた事を考えると、馬鹿な行為だとしか思わざるを得ない。


 自己欲の為だけに熱が出て弱ってる所を襲おうとするなんて酷過ぎる。改めて自分の行動が軽率な物だったと自覚し始める。


 慎重に行くと決めたのに、1つ間違えば危うい橋だった。今回はなぜか誤魔化せたけど、もししてしまった後だったらと考えると怖くて仕方がない。


 蓮兄さんの気持ちがまだ完全に私にない状態での行為は逆効果で、信頼を失いかねないのだ。軽い女だと思われてしまえば、お姉ちゃんと同じ目で見られてしまう。そうなれば、恋人なんてなれるわけがない。


「はぁ、今は1人になりたい」


 自分の部屋に行きたいけど、蓮兄さんとの約束は守りたい。反省する時間は欲しいところ。


 でも、刻一刻と時間は過ぎてもう少しでお昼時になろうとしていた。


「食欲あるのかな…」


 ベッドでぐっすりと眠る蓮兄さんの顔を見て少しの罪悪感を抱えそう呟く。



*****



 俺が目を覚ましたのは夕方の4時頃だった。その頃には熱も大分下がったのか頭痛も体のだるさも今朝に比べるとマシになっている。


 久しぶりにこんなに寝たから多少睡眠不足も解消されていればありがたいのだけど、1日寝たくらいですぐに治っていれば元々悩んだりしていない。


 体の倦怠感も徐々に抜けて来て何か飲み物が欲しいなと体を起こすと、寝る前に宿題をすると言っていた真凛ちゃんが机に突っ伏すようにして眠っていた。


「朝から世話になってるから、疲れたんだろうな」


 俺はベッドから降り、まだ冷えるから冬用の毛布をクローゼットの隅から取り出して真凛ちゃんの肩に掛ける。


「ありがとう」


 眠っている今じゃ聞こえていないと思うけど、感謝は伝えておきたい。また起きた時にも感謝を忘れないようにしないとな。


 真凛ちゃんを起こさないようにキッチンに向かい冷蔵庫を開ける。真凛ちゃんには申し訳ないけどさっきまで眠っていたからか身体が暑く、常温のスポーツドリンクよりもキンキンに冷えた炭酸水の方が飲みたい。


 サイダーではなく無糖の炭酸水がいいのだ。甘いのが苦手というわけではないが、甘みではなく喉に来る刺激を楽しめるのが炭酸水のいいところ。


 普段、真凛ちゃんはカルピスの原液を割って飲んでいる。今は葡萄味を好んでいるみたいで俺も味見してみようかな。


 以前買い物に行った時に2本ほど買っていたからよく購入しているのかもしれない。1度飲んでみては?と言われていたので少し貰ってもいいだろうと朝使っていたカップを軽く洗い、原液を少し入れて炭酸水を容器の8割くらいまで入れる。


 するとシュワシュワと音を立てる薄ピンク色の飲み物が完成した。香りは仄かにグレープの匂いがする。いつも真凛ちゃんの飲んでいるものと同じ匂いがして、少し好奇心に揺ぶられ一口含む。


「悪くないな…いや普通にうまい」


 今回は少し原液を多く入れてしまったのか甘味が強いが、炭酸の刺激を邪魔せずに鼻を抜ける葡萄の香りがファンタグレープとは違い控えめで俺好みかもしれない。


 今度買い物行く時に別の味も買ってみようかな、期間限定のもあったし試してみたいかも。


 あまり甘い過ぎるものはと怪訝していたが、自分の調整次第で甘みの調整ができるのはありがたく、真凛ちゃんもそれを知ってかおすすめしてくれていたのだろう。


 真凛ちゃんとは色んな物の好みがあっている気がするから、今度のコラボカフェも楽しめるといいな。


 喉も潤い寝過ぎて眠くないので、飲み物を片手に自分の部屋に入る。


 未だスヤスヤと眠っている真凛ちゃんの前に座り、テーブルにカップを置く。机の上には教科書とノートが開かれており、問題を解いていたらしい。


「懐かしいな」


 中学の時の教科書で、1年前まで使っていたものだ。俺の今通っている学校は偏差値が少し高いから入る為に一杯勉強したのを覚えている。


 付箋を貼ったりして、マーカーでなかなか覚えられない物を何度も線を引いた。元々頭がいい方では無かったから、こうやって間違えている所を見ると昔の俺を思い出すようだ…ん?それにしてもピンが多いような…。


 真凛ちゃんに敷かれているノートからチラッと見えたが、7問中丸が1つ。


「気の、せいだよな…」


 俺は熱で幻でも見てしまったのではないかと1度窓の外を見る。天気は依然として雨で明日は止んでくれるのだろうかと疑ってしまう。


 今1度願う、あの献身的にお世話をしてくれて年下なのに妙に包容力のある真凛ちゃんがおバカな訳がないと。そう信じて再びノートに視線を向ける。


「ひでぇなこれは」


 俺が見た物は幻ではなく、確実に1つしか丸の付いていないノートだった。

 だが、まだおバカと確定したわけではない。


 ゆっくりと真凛ちゃんの下敷きになっているノートをそっと引っ張り出す。するとそこには、正解の数が3分1にも満たないがびっしりと式と回答が書かれていた。


 ページを捲ると同じように正解数は少ないものの端から端まで問題をといた形跡がある。


 教科書にもいくつかポイントを書かれていて、サボって勉強が出来ないのではない事が窺えた。


 俺は好きな事以外に興味が無くてそもそも手を付けない人間なので、こう努力をしている人は尊敬する。今は眠っているが、寝るまで一生懸命問題を解いていたのが分かるから、この正答数を少しでも増やせるように何か力になりたいな。


「紙、紙ー」


 俺は立ち上がり、設計図用に使うA4コピー用紙を棚の中から取り出す。

 紙を手に持ち、再び座って真凛ちゃんのノートをじっくりと眺め、どこをよく間違えるのかどの公式を覚えていないのかを探し書き留めていく。


 暫くして真凛ちゃんの苦手な部分と覚える公式をA4用紙半分くらいで書く事が出来た。


「あとは問題も書いておくか」


 もう2度と間違えないように量を多めに書き、A4用紙が埋まった。ざっと2枚の紙に表裏の問題と例題を書いたら、次は解いて貰うだけとなったのだけど。


 真凛ちゃんはぐっすりと眠り涎まで垂らしているから、起こしてしまうのも申し訳なくなってくる。


 時刻はもう少しで18時。


 もう少し寝かしておいてもいいだろうか。


 真凛ちゃんの寝顔を見るのはこれが初めてなのだから。


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ここまで読んでいただきありがとうございます! 


次回:第24話 お野菜沢山入れたので一杯食べてくださいね


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『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』こちらも現在連載中なので気になればどうぞ!


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