第22話 ハッ!何をやっているの私は

 真凛ちゃんの不安を払拭させ出かける予定も明確な物になりつつあり作ってくれたココアをダイニングテーブルを挟んで飲んでいる。


 はじめはベッドまで飲み物を持って行くと言っていたが、俺が朝食は一緒に取りたいと言うと渋々だが少し嬉しそうに承諾してくれた。


 別にベッドでも良かったが、1人になるのが少しだけ寂しかったのもあるし出かけるなら場所を決めておいた方が、あとでまた時間を設ける手間も省けると思ったからだ。


 正直1人になるのが嫌だったという方が強い気もするが、恥ずかしいので言わないでおく。


 そんな事よりも真凛ちゃんと行きたい所か、何処が良いんだろう。


 一応休日という事だし、羽を伸ばせて楽しめるのが良いよな。となれば行き慣れた場所…引きこもりだから分かんねぇや。


 じゃあ女の子が行って楽しい場所とかかな。いや、どっちみち分からない。デート経験なんて手で数えられるくらいしかないし、六花はいつも買い物買い物でお金が無くなる危険しかなかったから控えていたというのもあるが。


 そんなあまり非リアと変わらない女性経験のせいで行き先がパッと出てこないのだよ。


 そもそも真凛ちゃんはどこに行くのが楽しいと感じるのだろうか。俺は基本見て楽しむ系が好みだ。綺麗なものとかなら仕事のアイデアに役に立ちそうと言うのもあるし。


 だからと言って体験型も嫌いではない、遊園地とかバンジージャンプとかは高いところが苦手なので遠慮したい。


 まぁ、真凛ちゃんはそんな危険な物を好みそうなイメージはないので大丈夫だと思うけど。


 そんなこんなで自分だけで考えていてもいい案が出てこなさそうなので前でジャムを塗った食パンに齧りついている本人に聞いた方が良い気がして来た。


「真凛ちゃんは、お出かけするならどこ行きたいとかある?」


 俺そう質問すると、急に聞いたからか苦しそうに胸を叩き始めた。


「ごめん、これ飲んで」

「あ、ありがとうございます。ふぅ、えっとどこに行きたいでしたっけ…」


 真凛ちゃんは飲み物の用意を忘れていたようなので俺の飲んでいたココアを手渡すと勢いよく飲み干した。まだ熱かっただろうにと思うが、それどころではなかったのだろう。


 お礼を言った真凛ちゃんは目を瞑って少し悩んだ後であっ!と少し大きな声を挙げると子供のようにキラキラさせた目で行きたい候補を話してくれた。


「コラボカフェ行ってみたいです!」

「え、何それ」


 コラボカフェってあれだよな、アニメとか漫画がカフェとコラボしてって奴。そう言う知識に関して疎い部分があるが名前くらいは知っていた。


 だが、あまり漫画やアニメを積極的に見ていないなので楽しめるかが不安要素である。


「蓮兄さん知らないんですか?最近アニメ化もした今日のご飯は…のアニメとのコラボなんです!この前私も漫画読みましたよ蓮兄さんの部屋で」

「あー、あれアニメ化されてたんだ」


 真凛ちゃんが言っているのは少し前から読んでいた高校生男女のグルメと恋愛が合わさった物で、俺も結構ハマっている作品だ。


 ひょんな事から隣に住む女の子が美味しそうなご飯を毎日届けてくれるようになって始まる恋愛物…普段そっち系はあまり読まないが唯一ハマった作品。作中に出て来る物のレシピも添えられている事から実際に作っている人も居るとか。


 俺の部屋に置いてあったのを何冊か読みたいと言って自分の部屋に持って行っていたからその中にあったのだろう。


「それでですね、ゴールデンウィーク初日の昨日から始まってて期間も1週間のみで友達と行こうかとも思ったんですけど、みんな予定があるみたいで…蓮兄さんさえよければ一緒に行きませんか?」

「うん、いいね。俺の知ってる作品とのコラボなら興味あるし、真凛ちゃんが行きたいなら猶更」


「いいんですか!ありがとうございます。早く行きたいですよ、凄く楽しみです!」


 そう言って小刻みに体を揺らしてウキウキの真凜ちゃんを見ているとお出かけを提案して本当に良かったと感じる。毎週、楽しみな時間が出来るというのも悪くないのかもしれない。


 俺自身も楽しみにしているからなのか、目の前で笑っている君を見ているからなのかはわからないが、胸が少し高鳴っているのは事実だ。


 俺は少しだけ上がっていしまっている口角を隠すようにカップを口に当てる。が、どれだけ傾けても口の中にはカカオの甘い香りしか入ってこない。


 当たり前だ、真凛ちゃんが全部飲んでしまったのだから。


「真凛ちゃんまたココア淹れて来て貰ってもいいかな」

「え、あっ。ご、ごめんなさい!全部飲んじゃってましたよね。今淹れてきます」


 真凛ちゃんは勢いよく立ち上がりカップを手に取るとキッチンの方へと慌ただしく入っていった。


 一心不乱に駆けていく彼女は、その口元に付いているジャムの事も気づいていないのだろう。


 ふっと笑いそうになるが、多分これは面白くて笑ったのではない事は確かだ。



 ∩ ∩

(・×・)



 朝食をとって1時間ほど経過した頃、私はベッドで眠っている蓮兄さんの上で覆い被さるように四つん這いに。眠る蓮兄さんに顔を近づけて…残り10㎝位の所で、


「何してるの…?真凛ちゃん」

「こ、これは…」


 蓮兄さんは目を覚ましてしまった。どうしてこうなったのかというと…


 あれは5分ほど前の事。


 蓮兄さんに傍に居て欲しいと言われた私は蓮兄さんのお部屋で宿題をしていた。お布団を掛けてあげたり寝るまで手を握ってあげたりして、恥ずかしそうにしている蓮兄さんを堪能できたのは看病を申し出て本当に良かったと思う。


 別に下心があったから率先して看病させて欲しいと言った訳ではない…いやちょっとだけあるかもだけど、体調を気に掛けていたのは本当だからセーフ。


 そんなこんなで眠っている蓮兄さんを後ろに感じながら、ベッドを背もたれしてリビングから持ってきた背の低い机で少し多めの宿題と悪戦苦闘していた。


「んー」


 分からない。


「んー?んー」


 目を瞑り頭を傾けては唸る。


「分かんないよぉ」


 今取り掛かっているのは数学で、休み明けにはテストも控えているのできちんと予習しておかなくては…!と意気込んだはいい物のいつもテストでは赤点ギリギリ。勉強しないと一桁も余裕のダメダメな学力なので、どれだけ頭の中を探しても答えになるピースは見つからない。


「そもそも公式覚えてないんだよね」


 こんなのでテスト大丈夫なのだろうかと自分でも心配になるレベル。通知表が返って来る日はいつも憂鬱で、優秀なお姉ちゃんとの差を感じざるを得ない。


「私も勉強が出来れば、今頃蓮兄さんと…」


 開いたノートにお辞儀するように額を当てて呟くが、ただただ虚しいだけだった。お姉ちゃんは蓮兄さんと何処までしたんだろう…キスはしてるよね。いいなぁ、私もしてみたい。


 それかもう、大人の遊びを…いやいやまだ早いよ。でも、最近の男女は早いって言うよね。私もいつか蓮兄さんと…


「えへへ、ダメですよ蓮兄さんそこは……ハッ!何をやっているの私は」


 ついつい、宿題もせずに妄想してしまっていた。額に引っ付いたノートの紙をペリッと剥がし姿勢を戻すように、ベッドにもたれ掛かる。


 静かにしていると、聞こえて来るのは雨が強く屋根に叩き付けられる音と蓮兄さんの寝息だけ。眠ったのは30分くらい前で当分起きたりしないはず。


 そこで私はふとある事を考えてしまった。


「今ならキスしてもバレないんじゃ…」


 と我ながら最低な事を思いついてしまう。いつになるか分からないのなら寝ている蓮兄さんでもいいからファーストキスをしたい。


 清いお付き合いをしてからぎこちなくキスをするのが憧れだった。でも、蓮兄さんはもうキスを体験しているのなら私が下手なキスをするよりもいいはず。


「れ、練習だから!うん、蓮兄さんは気づかず私も好きな人と初めてを体験できる…最高だね」


 私にとっては。蓮兄さんも気づかなければそれはノーカンでしょ。


 思いついたら行動しないといられない私は、立ち上がる。理性よりも本能が勝ってしまった瞬間である。


 後ろを振り向くと蓮兄さんが心地よく眠っていて。顔を見ると自然とその唇に目を吸い寄せられ、私はいつの間にか蓮兄さんに覆いかぶさるように四つん這いになっていた。


 そして今に至ると…


「何してるの…?真凛ちゃん」

「こ、これは…」


 言い訳を言い訳をしなければ。


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ここまで読んでいただきありがとうございます! 


次回:第23話 今は1人になりたい


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『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』こちらも現在連載中なので気になればどうぞ!


https://kakuyomu.jp/works/16817330660041626971

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