第20話 私怒っちゃいますよ、ぷんぷんです

 私(小林 六花りっか)はイライラしている。


 幼馴染に告白されて乗り気では無かったが、付き合った。見た目も普通で何処に魅力があるのか分からない人。趣味は女の子みたいな物ばかりでアクセサリー作りだっけ?そんな事しないで普通にアルバイトしてデートで服とか買ってくれたらいいのにと思っていた。


 だから今の彼氏に乗り換えたのだけど。今の彼氏(早瀬はやせ 大河たいが)君は蓮君と付き合い始めてから出会った人。


 あれは、蓮君が1人暮らしを始めたらしく初めて部屋を訪れて喧嘩した日。アクセサリーが何とかって言ったら切れて追い出された。


 意味が分からない、誘ったのそっちでしょ。


 普段顔に出さない私もその時ばかりは腸が煮えくり返りそうな勢いだった。もう別れちゃおうかな、面倒くさいし。


 そう思って自分の家の帰り道であるイケメンを見かけた。ずっとこの辺りに住んでいたけど見た事なくて、素直にかっこいいと思い声を掛けてみると、なんと一緒の高校の同学年だとか。


 そして、サッカーをしているから運動も出来て、どうやらお金持ち。勉強もそれなりに出来ると言う3点セット。この時にはもう蓮君の事なんてどうでもよくなっていた。


 蓮君との遊びを断って、サッカー部のマネージャーになったり、隠れてデートした りして大河君に猛アピール。やっと付き合えそうになった頃には1年が過ぎていて、一応キープとして置いておいた蓮君を捨てようと決断した。


 別れるのは簡単で、好きな人が出来たと言ってスペックの高い大河君を隣に置く。すると蓮君なぜかこの世の終わりみたいな顔しちゃってちょっと面白かった。


 それからは大河君と学校でも家でもイチャイチャし放題になったのだけど、家に大河君を呼んでから妹の真凛が帰ってこなくなったのは計算外。


 家事なんてほとんどした事の無かった私は頑張って料理に掃除、洗濯…と面倒な事の詰め合わせをして、我慢の限界だった。


 そして昨日、私の堪忍袋の緒が切れるようにある出来事が2つも起きたのだ。


 1つ目はデート中に大河君が妹を見かけたかもと発言した事。デート中に私以外の女の話をするなよと思った。あんなの胸が少し大きいだけのチビじゃない。


 そして2つ目、何処で遊んでいるんだと思った私は真凛に優しく連絡を送ったのに『もう帰らないから』と一言連絡があってから未読無視。ちっ、ふざけてる。


「もういいや、あんな妹。使えないなら要らないし。大河君と一杯遊ぼっと」


 お母さん達が帰ってきたら、怒って貰えればいいか今日は天気悪いし次のデートに向けて準備を始めるのだった。



*****



『私、蓮兄さんの事が大好きですよ』


 朝早くに起きた俺は夢の中で真凛ちゃんに告白された事を思い出していた。姿はぼんやりしているのにそうハッキリ言われた気がする。


 ベッドの上でスマホの画面を付けると、朝の4時。まだ外は暗く、静かな部屋に近くを通る郵便バイクの音とパラパラという音が響く。


「やばいな…俺、真凛ちゃんに夢でそんな事を言わせるって」


 普通に気持ちが悪い。


 寝る前に真凛ちゃんの事を考えていたからか、痛い妄想をしてしまった。いつか裸の……これ以上はいかん。理性を保てなくなるわ。考えるのを辞める為に頭を左右に振る。


 それよりも変な時間に起きてしまったせいか、若干体が重たい。しかも、変に頭を振った影響か少しボーッとする。いや、クラッとするの方が正しいか。


 昨夜、薄着で外出したからだろうか…寒気もしてきた。


 ふと自分の服に視線を送ると、外出した時と同じ服を着ている。昨日風呂に入ってないんだっけ、シャワーでも浴びてこようかな。


 そう思い、身体を起こす。が、凄い倦怠感のような物が身体を襲う。暗いからスマホのライト機能をオンにして、重い身体をどうにか動かそうと立ち上がる。


「案外、大丈…夫、そう…」



 ∩ ∩

(・×・)



バタンッ


「え…?」


 何か物凄い音が聞こえて来た気がするけどなんだろう?


 私は眠たい目を擦り、枕元に置いていたスマホの画面をつける。時間はまだ朝早くで蓮兄さんも起きてないだろうし、お外の音かな。


 変な時間に目が覚めちゃったなぁ。うっ、それにしても寒い…


 お外を見ようと身体を起こしカーテンを開けると、雨が降っていた。特に強くはないけど、すぐには止みそうにない。今日は作業中止かな。


 寒いしお布団に入ろ。


「その前にお水、お水ー」


 寝ると水分を沢山消費してしまうからか、目が覚めると水が欲しくなる。


 私は蓮兄さんを起こさない様に静かに扉を開けて壁に手を当てつつゆっくりと暗い廊下を歩く。リビングの戸を開け、目の前のキッチンまで進む。


 よく見えないが乾かす為にタオルの上で逆さにしているコップを手に取り、ジャーッと水道から水を汲み一気に飲み干す。


「ぷはぁ」


 朝一のお水が一番美味しい気がする。


「もう一杯飲もうっと…あれ蓮兄さんの部屋、電気付いてる…?」


 私はコップに注いだ水を飲み、まだ眠たげな目でいつも見ているダイニングテーブルに目を向けると、チラッと蓮兄さんの部屋から光が漏れているのが視界に入った。

 

 おかしい昨日確かに部屋を出る前に消したはず。もしや、蓮兄さんもさっきの音で起きて仕事しているな?


「もう、頑張り屋さんなのは良いけど頑張り過ぎて体調でも崩したらどうするの…。私怒っちゃいますよ、ぷんぷんです」


 そう頬を膨らませるように文句言い、部屋の前に行き昨日同様ノックをする。


 が、昨日と同じで返事が無い。聞こえてないかもともう一回ノックをするも、反応が返ってる事は無かった。


 これは仕事中に寝落ちでもしているのだろうか、とゆっくりと戸を開く。


「蓮兄さん…?」


 小さく名前を呼びながら中を覗くが、光はどうやら作業台の手元ライトではなく床に落ちているスマホのライトみたいだ。


 戸の近くに落ちていて、作業台の足にもたれ掛かる様に立て掛けてある。そのせいでリビングまで光が漏れていたのか。


 でも、どうしてこんな所にスマホがあるのかと手に取り部屋を照らす。


「蓮兄さん!?」


 部屋を照らすと床に倒れている蓮兄さんの姿があり、つい叫んでしまった。すぐに部屋の電気を付けて傍に近づき腰を下ろす。


「ど、ど、どどうしよう…」


 蓮兄さんはうつ伏せで辛そうに呼吸をしている。顔も赤く、手に触れると昨日の体温よりも遥かに高い。


 もしかして、昨日顔が赤く見えたのって…


 いやそんな事よりも、今はやる事をしないと。


 私はまずうつ伏せだと呼吸がしずらいと思い身体を上に向ける。重い…

 出来ればベッドまで運べれば良いけど、私の力じゃ無理だから床で申し訳ないけどこのままで。


 ベッドから枕と毛布を持って来て掛けてあげる。次に薬と水分を用意して…


「ふぅ、疲れたぁ」


 まだ物の配置に完全に慣れてないから薬を探すのに時間掛かっちゃったけど何とか見つかってお盆にペットボトルのスポーツドリンクと一緒に置いている。


 一応必要になるかと思い、タオルと体温計も乗せた。


「後は蓮兄さんが起きたら体温測って…ふぁぁ。朝からバタバタしてたから眠たくなっちゃった…」


 蓮兄さんは先程よりも顔色がマシになってきているみたいで、安心したら無性に眠たくなってきた。時間を見ると5時になりそうにだったが、もうひと眠りしても良いよね。


 私は眠っている蓮兄さんの手を握り、小さく呟く。


「おやすみなさい蓮兄さん。早く良くなるように看病しますから」


 私は起きた時に読んで貰おうと手紙を書いて静かに立ち上がり、電気を消して自分の部屋に戻るのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここまで読んでいただきありがとうございます! 


次回:第21話 蓮兄さんはほんと馬鹿ですね


応援、☆☆☆レビューよろしくお願いします!励みになります。


『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』こちらも現在連載中なので気になればどうぞ!


https://kakuyomu.jp/works/16817330660041626971

 

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