第19話 めちゃくちゃお世話して私無しじゃ居られなくするんだ!

 真凛ちゃんとお肉を無事買え、コロッケとメンチカツを食べながら次は野菜を見るために八百屋へと来ていた。


 手に感じる温もりは健在で八百屋のりょうさんと話している時も決して離さない。なぜかこの温もりがとても安心するし、ずっと感じていたいとも思ってしまう。


 そんな事は置いといて、今は野菜の目利き勝負している。俺が「野菜は目利きできるかな」なんて言ったせいで始まってしまった。1年たまにだが来ていたので目利きには自信があると思いたい。


「蓮兄さん、どれが良いと思いますか?」

「そうだな、これなんてどうかな。形が綺麗だし」


「うーん」


 真凛ちゃんは俺が選んだ玉ねぎを受け取ると、何かを吟味するように唸っていた。少し待っていると玉ねぎを置き別のを手に取る。何度か繰り返し、良い物が見つかったのか手渡して来た。


「どうですか?」

「……ごめん何が違うか分からないわ」


「そ、そうですか。きちんと説明しますね」


 そう言うと呆れたような顔をした真凛ちゃんは手を放し、さっき俺が選んだ玉ねぎをもう片方の手に乗せてきた。


「あ、重みが全然違う。真凛ちゃんが選んだ方がずっしりしてる感じする」

「水分が多いからですね。こっちの方が水水しくて美味しいですよ」


 そう言う真凛ちゃんの言葉に八百屋の亮さんは深く頷いた。


「くっ。ま、負けだわ」

「ふふん、伊達に長年スーパーの野菜目利きしてないですよ」


 真凛ちゃんはドヤッと自慢げに鼻を鳴らす。俺も1年という期間でそれなりに知識を付けてきていたと思っていたが、どうやら真凛ちゃんの方が数枚上手らしい。


「因みに玉ねぎって重さ以外に何か見分けるコツある?」

「ありますよ、この上の先端部分を軽く押して凹んだりしないかで見分けますね」


「へぇ、知らなかったわ。勉強になるよ」

「えへへ、これしか取り柄が無いので」


「これしかって、そんな事ないと思うよ?だって真凛ちゃんと過ごしててこれまで知ら無かった事沢山あったし、それに凄く楽しいからね。俺はこれからも一緒に暮らして行きたいくらいには真凛ちゃんの事が…」


 あれ、なんでここで詰まらせる?別にその先を言っても何も問題ないはずなのに。友達…妹、として…。いや、今のは別の何かとして言いそうになった気がする。


 この先を言ってしまえば、どうなるのだろうか。


 真凛ちゃんは真剣な顔をして俺を見る。辞めてくれ、そんな顔で見ないでくれ。


 たった2文字で関係が変化したり、壊れてしまうなら言わない方が良い。このまま、傍に真凛ちゃんが居てくれる関係で…。


 でも、ずっと今のままで居られるのだろうか。


「ご、ごめん何でもない。それよりも人参見よ」

「あ、はい…」


 そう言う真凛ちゃんは何かを期待していたようにも感じたけど、多分気のせいだ。気のせいが良いに決まってる。


 俺達は少しぎこちなくなるも買い物を済ませて家に帰るのだった。手は繋がずに。



*****



 自分の部屋に着いた俺は真っ先にベッドに倒れこんだ。


 少し前から自分の気持ちの変化が怖いと思う事がある。真凛ちゃんと住み始めてもう少しで1週間が経とうとしている今日。


 六花と別れて時間が経ったからなのか、真凛ちゃんが一番近くに居るからなのか分からないけど、もう俺の気持ちも六花から離れ始めているのだと実感した。


 数時間前に六花とその彼氏がデートしているのを見て1番最初に思ったのは逃げたいじゃなかったんだ。数日前は視界に入るだけで、胸が痛かったのに今日は特に激しい痛みはない。


 そんな事よりも震える真凛ちゃんを守りたい、隠したいだった。もう、離れてほしくないから。これって独占欲って言うのかな。付き合っても居ないのにどうしてか分からないがバレたくなかった、おかしいよなこんな気持ち。


 真凛ちゃんは居候だ、そう思えば思う程今の距離感が正しいのか分からなくなる。


 もっと近づきたい触れたいと思ってしまう。でもそれが真凛ちゃんである必要があるのかははっきりしていない。


 六花を好きになったのは1番近くに居たから。これからも何も考えなくても傍に居てくれる、そう信じていた。だから告白して、言葉でも約束をしていたつもりになっていたんだと思う。


 真凛ちゃんの場合もそうかもしれない。今1番近くに居るから、勘違いしているのかも。客観的に見れないから感情というものは本当に厄介だ。


 何か、これが勘違いじゃないって分かればいいのに。


「真凛ちゃんの事が好き、なのかな」


 分からない。


 一度口にしてみても、自分の気持ちははっきりしない。


 でも、嫌いとは言えそうになれないんだ。そう思うだけで胸に痛みが走って全身でその言葉を拒絶しだす。


 今のままで良いとは思っていない。


 もし結論を出すとするならば、この気持ちが本物であると自分を信じれる物でないと。もう、裏切られたくない。自分の手の届かい所に離れていくのは辛いから。


 今日はなんだかとても疲れた、目を瞑って…朝、風呂に入ればいいか。


 1つだけ六花と比較するなら、真凛ちゃんと居ると安心するし何より楽しい事だ。


 それだけはハッキリしている。このゴールデンウィーク中に自分の気持ちが分かればいいな。そう思い、深い眠りへ入っていくのだった。



 ∩ ∩

(・×・)



 『真凛ちゃんの事が好き、なのかな』


 作業をしている音がしなかったから寝ているのかと、戸を少し開けた時に聞こえてきた言葉に嬉しい気持ちと少し不安になる気持ちが込み上がって来た。


 着実に蓮兄さんの気持ちが私に傾いて来ていると楽観的に考えれば嬉しいかもしれない。でも、蓮兄さんの声はあまり嬉しそうじゃなかった。


 苦しい、私じゃダメなのかもと思ってしまう。


 蓮兄さんはまだお姉ちゃんが好きなんだ、そこに無理やり私が割り込んだから悩んでいるに決まっている。蓮兄さんは優柔不断じゃない、だから私を選んでくれない選択だって取れてしまうはず。


 その事が自分の不安を煽る。


 過去のお姉ちゃんに負けたくないけど、凄く怖い。選ばれなかった私はその後の未来を笑って歩めるだろうか。居場所がなくなる不安よりも蓮兄さんに拒絶される方が辛い。


 優しく握ってくれる手が私以外の人になるかもなんて想像したくないけど、今のままじゃダメなのは分かる。


「でも、どうしたらいいの…」


 持ってきた服を入れた鞄、液タブの入った黒いケース、蓮兄さんから借りた本が床に置いてある殺風景な自分の部屋で枕に顔を埋めるようにして呟いた。


 顔を動かすと少し湿っている感覚があり、自分でも気づかないうちに出てしまっていたのだと気付き身体を起こす。


 私って弱いな…。まだ蓮兄さんに直接言われたわけじゃないのに悩んじゃって。昔からこんな弱い自分が嫌いだ。


 うじうじしていても何も始まらない。行動を起こさないと…泣いていても現状は好転しない、ならどんな事でもいいから蓮兄さんを引き留める物を探さないと。


 そう思っているとピコンッとスマホが鳴る。


 友達かなと手に取り、画面を見て息が止まりそうになった。


『真凛、いつ帰って来るの?もうすぐ1週間経つよ』


 お姉ちゃんからの連絡だ。いつか来ると思っていた。

 遅いくらいだけど、心配…はしてないか、今日楽しそうにデートしてたもんね。


 段々と苛立ってくる。


 どうせ、私は必要じゃない。家事が面倒になったとかだ。私の気持ちも知らないで。


 勉強が出来てスタイルも良くて顔も良い、そんなお姉ちゃんが憧れで後ろを付いて行くだけが私だった。


 でも、身体だけで私を判断して近寄ってくる人から逃げてお姉ちゃんの後ろに隠れる私はもういない。これからは自分で私自身でお姉ちゃんと戦う。蓮兄さんを傷つけたお姉ちゃんなんて大っ嫌い。


 私はお姉ちゃんへメッセージを送る。


『もう帰らないから』


 そしてお姉ちゃんのアカウントを削除した。


「決めた、いつか蓮兄さんに告白する。めちゃくちゃお世話して私無しじゃ居られなくするんだ!お姉ちゃんの事なんて考えられないくらいに」


 そう強く誓う。弱い自分はもう要らない。


 私は立ち上がり蓮兄さんの部屋に向かう為に自分の部屋の扉を開けようと手を伸ばす。


 ゆっくりと開けて、足音を立てない様にして戸の前に立つ。軽くノックをするが、電気は付いているのに返事はない。


 恐る恐る戸を開けて中を見てみると。


「寝てる…」


 お風呂にも入らずに寝るなんて、と言いたい所だけど。今日は助けて貰ったから何も言わない。電気を消して自分の部屋に戻ろうとして足を止める。


 寝る前に一度きちんと言いたいな。私はベッドの傍に行き寝息の聞こえる距離でこう囁くのだった。


「私、蓮兄さんの事大好きですよ」


 いつか起きてる時に伝えられる事を祈って。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここまで読んでいただきありがとうございます! 


次回:第20話 私怒っちゃいますよ、ぷんぷんです


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『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』こちらも現在連載中なので気になればどうぞ!


https://kakuyomu.jp/works/16817330660041626971

 

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