第18話 私、蓮兄さんの妹じゃないです

「れ、蓮兄さん。晩御飯何が良いですか?」


 ベッドに倒れるように横になって数分が経った所で、真凛ちゃんが洗面所から戻って来たのか今晩のメニューの希望を聞いてくる。


 普通買い物に行けるお昼とかに考えるだろうけど、今日は何も買わずに帰って来てしまったから困っているのだろう。


 俺は身体を起こし、問いに答えようと口を開く。


「そうだな。食材は何がある?」

「えっと、朝見た時にはもう何も無かったですね。軽い物なら作れそうですけど」


「そっか…あ、そう言えば真凛ちゃんに買い物するところ教えてなかったよね」

「え?最寄りのスーパーじゃないんですか?」


「それでも良いんだけど、歩きで片道20分は掛かっちゃうからおすすめしないかな」

「そんなに掛かるんですね。じゃあどこに行くんです?」


 ベッドから立ち上がり、作業台の上にあるスマホで時間を確認する。時刻は18時、まだこの時間なら開いてるかな。


「まだ時間大丈夫そうだし、歩きながら話すよ」

「分かりました…?」


 分かってないのか顔を傾けている。顔が見えるようになったせいで可愛さが倍増し直視できない。


 その後真凛ちゃんには申し訳ないけど、一度着替えて貰って外出する事になった。



 ∩ ∩

(・×・)



 教えてくれない蓮兄さんの隣を歩いて、10分程経つと少し大きな商店街に辿り着いた。


「こんな所に商店街あったんですね」

「うん、駅とは反対方向だし普通に生活していれば分からないから、知らなくても無理はないよね」


「そうですね、教えてくれなかったら絶対来なかったですね。それよりも今日は案内だけですか?」


 私は買い物でもするのかと思っていたが、商店街といえば休日の午前中のイメージがある。もう日も落ちて来ているしこの時間帯からは流石に開いてないと思うけど…


「んー、いや。買い物と、ついでに晩ご飯食べて帰ろうかなって」

「食べて帰るんですか?」


 私は商店街で食べて帰るなんて発想はなかった為、つい聞き返してしまう。アニメで、お餅屋さんの女の子が幼馴染と恋をするのは見た事あるけど、そもそも商店街に来た事無いから知らないだけかもしれない。あれ映画もしてたよね。


「うん、家で軽く食べるなら、ここで買い物しながら食べて帰った方が明日の晩ご飯悩まなくて済むかなって」

「そう言う事だったんですね、了解です。蓮兄さんは明日何が食べたいですか?」


「そうだなぁ」


 私は商店街を歩きつつ、明日の献立を聞いてみると真剣に考えているのかうんうん唸っている。毎日ご飯を作るのは大変だけど、こうやって意見を聞けると作りやすくて助かるよね。


 お姉ちゃんと2人の時なんて特に話す事ないし、何がいいかって聞いてもちゃんとした答えが返って来なくていつもイライラしていた。


「真凛ちゃんは、何が食べたいとかある?俺は昔真凛ちゃんが作ってたジューシーなハンバーグとかいいなと思うんだけど、作るの難しいなら別のでもいいし」

「ハンバーグですね、全然大変じゃないですよ」


 蓮兄さんは私の負担を1番に考えてくれて、私にもきちんと何が良いか聞いてくれる。それに作った事のある物から提示してくるから特に調べなくても大丈夫そう。


 将来蓮兄さんと家庭を築けたら、家事を半分してくれて私が風邪とか体調崩したら1番に心配してくれるんだろうな。暖かそうな日々を送れる気がする、今だって十分楽しいし頼もしい。


「ハンバーグならミンチ買わないとですね。卵はあるんですけど、玉ねぎとかはないので野菜も」

「だね、多分まだ開いてたと思うから食べながら見て行こうか」


「はい!私商店街来るの初めてなので分からないんですけど、何が食べられるんですか?」

「場所によると思うけど、ここで食べ歩き出来るのはコロッケとたこ焼き、焼きそばでスイーツだとたい焼き、アイスクリームとかあるかな。他にもあるけどざっと挙げるならここらかな」


「蓮兄さん詳しいんですね」

「真凛ちゃんが来てくれる前は頻繁に通ってたからね。安いし美味しいからさ」


 そんな献立やら何を食べようかと話していると蓮兄さんは精肉店の前で足を止めた。ゲージの中に入ったお肉とは別に、パンの粉の付いた物にも名称と値段が付いている。


「蓮兄さんこれなんですか?」

「ん?あーそれはね、購入するとすぐ揚げてくれるんだよ。揚げたてが食べられるから食べ歩きするならまずここかなって食べたい物があれば言ってね」


 そう言うと蓮兄さんは店主らしきふくよかな女性と仲良く話し始めた。


「こんばんは美和みわさん」

「あら、蓮君じゃない最近来ないから心配してたのよ?」


「あはは、ちょっと色々あって来れてなかったですね。ひき肉300gお願いします」

「はいよ。それでお隣の子は…妹さんかしら?」


「あー、まぁそんな感じですね」

「へぇ蓮君に妹さんが居たとはねぇ。年は小、中…大学生かしら」


「美和さん今どこ見て言いました?」

「あはは冗談よ、可愛い小学生の妹さんね。名前はなんて言うの?」


 多分私は今物凄く頬を膨らませていると思う。というのも自然に膨らんでしまう、だって…だって


「私、蓮兄さんの妹じゃないです」

「え?あ、うん。そこなんだね」


 蓮兄さんに妹と認識されて居るかもしれないと思ったから。知らない人に容姿のせいで幼く見られるのは良い。でも、蓮兄さんには1人の女の子として見て欲しい。


「あら、妹さんじゃなかったのねごめんなさい」

「い、いえ。大丈夫です。あ、ご挨拶遅れました、初めまして真凛って言います。中学3年生です」


「うふふ、真凛ちゃんって言うのね。それで2人はどういう関係——」


 そう美和さんが言おうとした所で私は蓮兄さんに近づき手を繋いだ。すると蓮兄さんはチラッとこちらを見たと思ったら顔を逸らす。少しだけ耳が赤くなったかな?  


 美和さんは蓮兄さんの顔を見るやニヤッと笑みを浮かべ「サービスしとくわね」と言ってくれた。


「ま、真凛ちゃん食べたい物決まった?」

「あ、はい。コロッケとメンチカツで」


「わ、分かった。美和さんコロッケとメンチカツ2つずつ、お願いします…」


 蓮兄さんが注文するとふふっと笑みをこぼししたのち揚げ作業に入った。


 油からパチパチと揚げ物が出来る音がしてくる。繋いだ右手は暖かくて、このまま時間が止まれば良いなと思ってしまう。



*****



 真凛ちゃんと食べ歩き兼買い物をする為、精肉店の美和さんと話していると唐突に手を繋いできた。急な事に驚いてしまったが、少し前まで手を繋いでいたのだから気にする事も無いよな。


 それよりも少し夜風が冷たいせいか真凛ちゃんの手がやけに暖かく感じる。出来ればこのままで居たいな、そう思ってしまうのは今は温もりを感じたいからだろうか。


「真凛ちゃん次は何見に行こうか」

「そうですね、何があるんですか?」


「うーん、野菜、魚はあるかな。あと服とかお菓子とかもあるね」

「色々あるんですね。でも、とりあえず明日のハンバーグ用に野菜見たいです」


「分かった、ちょっと離れてるけどこのまま行こうか」

「このまま?あ、はい…」


 真凛ちゃんは小さく返事をすると少し俯き、さっき買ったメンチカツに齧り付いていた。少し手を握る力が強くなったのを感じたけど離れたくないと思ったのは俺だけじゃないんだろうか、そんな勘違いをしてしまう程に今日はおかしいんだろう。


 なんだか顔が熱いな…これは、熱々のコロッケのせいかな。


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ここまで読んでいただきありがとうございます! 


次回:第19話 めちゃくちゃお世話して私無しじゃ居られなくするんだ!


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『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』こちらも現在連載中なので気になればどうぞ!


https://kakuyomu.jp/works/16817330660041626971

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