第二章 続けばいいのに
第17話 蓮兄さんが付けてくれませんか?
真凛ちゃんを連れお店を出た俺は寄り道をせず家に帰って来た。家の前まで手を繋いでいたからか、まだ右手に温もりを感じる。
手洗いうがいをしたのち各々自分の部屋に行き、俺は仕事をしているのだけど…
「集中できねぇ…」
これまで仕事で行き詰り作業が滞る事はあったが、今日のこれは違う。
原因は真凛ちゃんだ。いや、別に真凛ちゃんが悪いと言いたいわけじゃない、でも2つの違和感が中々頭から離れない。
1つ目は真凛ちゃんの怯え方が異常だった事。最初は六花を見つけて焦ってるんだと思ったが、それでも手の震えがおかしかった。どうも血の繋がった姉妹を
俺が真凛ちゃんを拾った日の前まで一緒に住んでいたのだから、六花を毛嫌いしてるならもっと早くに家出をしているはず。
となれば候補に挙がるのは、
「六花の彼氏か」
あの優しそうなイケメン。名前は知らない、サッカー部のエースという情報と六花に振られた時に見たネクタイの色で俺と同じ2年生という事くらいしか分からない。
特に興味もなかったし、六花の今カレなんて寧ろ関わりたくない程だ。考えるだけで頭が痛くなるが、ふとあの日の真凛ちゃんの言葉を思い出した。
『うちに帰るとお姉ちゃんと知らない男の人が居て、鳥肌凄かったので逃げてきました』
『家に居たあの人の視線は気持ち悪かったですね…同級生にも私の胸を見る人はいますが、あの人は段違いでした』
もし、真凛ちゃんの今日の震えと家出の原因が一致するなら警戒をしておいた方が良いだろう。
2年前にもこんな事があったような。震える真凛ちゃんを見たのは、今日が初めてじゃない。
夜で辺りが暗く、家に帰る途中角で偶然出会った真凛ちゃんは震えていて、後ろに居た人影を思い出す。暗くてあまり見えず、咄嗟に真凛ちゃんを家に送るなんて選択が出来たが、どこか怯え方が一緒だった気がする。
「まぁ、気のせいだよな」
それよりも2つ目の違和感だ。こっちの方はそこまで重要ではないと思いたいが、作業が滞ってる時点で十分判断材料になる。
最近真凛ちゃんとの距離が近づいて思ったのだが、俺はどうにも真凛ちゃんを特別視してしまっているのだ。そりゃあ、真凛ちゃんは可愛いし、お世話好きなのか見た目に反して頼ってしまう所があるのは否定しない。
現に、家事の大半は真凛ちゃんにやって貰ってる状況だ。
情けないの一言に尽きる。
住まわせて貰っているお礼にと言っていたし、滅茶苦茶生活しやすくなっているから凄く有難い。
でも、やっぱり俺が真凛ちゃんの事をどう思っているかが問題なのだ。今日のデート?で何か分かったような気がするけど、うまく言語化できない。
これは感覚的な物で手を繋げたあの時、少し不安が軽減されたというか重荷が若干軽くなったと言うか…うーん、分からないな。
「あー、俺どうしちゃったんだろ」
「どうって、何かあったんですか?」
独り言を呟いていると、横からもう慣れ始めている声が聞こえて来る。声の方に振り向くとお風呂に入ったのか可愛い薄ピンク色のもこもこパジャマを着た真凛ちゃんが立っていた。
真凛ちゃんは勝手に扉を開けたりしない人なので、もしかしたら戸を閉め忘れていたのかもしれない。
「あ、えっと。ま、真凛ちゃん何か用?」
正直に真凛ちゃんの事を考えていたなんて言えないので、誤魔化すように何の用事なのか質問する。
すると真凛ちゃんは不思議そうに顔を傾けるが、来た要件を思い出したのか「そうでした」と話し始める。
「蓮兄さん、ヘアピンはいつ付けるんですか?」
「あー、そう言えば渡してなかったね。ごめん」
買った時に家でと考えていたが、色々あったから完全に忘れていた。
「大丈夫ですよ。折角ですし蓮兄さんが付けてくれませんか?」
え?なんで、なんて言いそうになったが、俺が真凛ちゃんの顔を見たいと言ったのが切っ掛けだしプレゼントという名目で買ったのだから付けるのも当たり前なのか?
でも、それってカップルがしたりする事のような…いや、考えるは辞めよう真凛ちゃんがして欲しいならそれでいいじゃないか。
「いいよ。じゃあどこか座ってて、今用意するから」
「わ、分かりました」
真凛ちゃんは緊張しているのか少し上擦った声で返事をすると、俺のベッドにちょこんと座る。
それを見守り、買い物時に持っていたショルダーバッグから綺麗に梱包されたヘアピンを取り出す。お店で見た時と同じくキラキラと光るニリンソウの髪留めを2つ手に取りベッドに移動し真凛ちゃんの隣に座る。
「それじゃあ付けるよ」
「はい、お願いします」
そう言うと真凛ちゃんは此方に身体を捻らせるようにして顔も向ける。緊張するが、落ち着いて付ければ問題ないはず。
俺は真凛ちゃんの髪を持ち上げ、今日買って来たヘアピンを付ける。
パチッという音を立てて留まったのを確認し、顔を離して全体を見ると白に近いプラチナブロンドと綺麗な菖蒲色の瞳、ニリンソウの少し入った花芯の黄色がアクセントとなってとても似合っていた。
2つ着けようとも思ったが、今は1つでいいだろう。
「凄く可愛いよ」
「あ、ありがとうございます」
そう言う真凛ちゃんは頬を朱色に染め顔を逸らす。そんな恥ずかしそうにする表情も綺麗に整った顔もこれから見慣れる事になるんだろうな。
でも、まだ慣れそうになく数時間前みたいに固まってしまう事は避けれたが直視できそうにない。
「ま、真凛ちゃん自分でも見てきたら?」
「え、あ、はい…そうしますね」
俺はこのままだとまた黙ってしまいそうで先手を打つ。すると真凛ちゃんも察したのか、返事をし部屋を出て洗面所の方へと歩いて行った。
真凛ちゃんが居なくなったところで俺は後ろに倒れ込むようにしてベッドに横になる。
なぜかうるさく鳴る心臓を落ち着かせる為に静かに深呼吸を繰り返す。1人で部屋に居た時は大丈夫だったのに。
「本当にどうしちゃったんだろ…」
当然、返事の無い見慣れた天井を見つめて1人呟く。
∩ ∩
(・×・)
まだ顔が熱い…
蓮兄さんに言われるがまま、逃げるように洗面所へ来ていた。鏡に映る自分の顔は赤く染まり、お風呂上がりにひんやりする風が当たるように開けた窓が意味をなしていないように感じる。
一度胸の辺りに手を当て目を瞑り、深く呼吸をしてゆっくりと目を開く。
「まだ赤い…」
当たり前だ、そんなすぐに高まった気持ちを落ち着かせられたら、ここまで蓮兄さんの前で恥ずかしい思いはしていない。
はぁ、恋愛って難しいな。
友達はみんな彼氏持ちで、羨ましいと思うけど好きな人以外と付き合う気はないから妥協も出来ない。
「また相談してみようかな」
私は以前にも相談した事のある友達に連絡してみる事に。
ゴールデンウィークに入る前、校門で迎えに来て貰った蓮兄さんと一緒に帰る所を目撃されてしまい、翌日にみんなに質問攻めにされた。
その時片思いなんて言ってしまったせいで、今や恋愛相談部屋という名のグループが出来上がってしまっている。
入ってるのはクラス半分くらいの彼氏持ち女子ばかり。私だけ彼氏居ないのが少しだけ悔しい。
「ちょっとだけ相談したい事がある…っと、おお全員既読着いた。って返信早!?」
軽くグループチャットに送ると5秒もしないうちに16人全員の既読マークが付き、各々好きな事が言って来る。
『なに、キスした?』
『もうやる事しちゃった感じ?』
『いやいや、まだ付き合ってないんでしょ?告白の相談じゃない?』
『えー、付き合って無くても一緒に住んでればするくない?』
と読み切れない程に送られてくるメッセージにあたふたしつつも、相談内容を送る。
『初めて手を繋いじゃいました。この後どうすれば…』
『何それ可愛い』
『あたしもそんな時期あったなぁ』
『小林さん可愛すぎでしょ』
『取り敢えず襲っちゃえ!』
『ほんそれ、今日の夜にでも一緒に寝れば』
どうしよう、何も参考にならない。一緒に寝るなんて初日に拒否されてるし、無理に決まってる。そもそも顔すらまともに見えないのに、襲うなんて…
ちょっと想像してしまって少し収まっていた顔にまた熱が集まってくる。
『も、もう少し参考になる事言ってよ…』
私はちょっといけない妄想をしちゃった事を誤魔化すように皆に怒ったスタンプと一緒に送る。
『ごめんって』
『はしゃぎ過ぎちゃったね、反省反省』
『無難にデートとかじゃない?』
『そうだね、普段行かない所とか良い雰囲気になれる所とか良いよね』
『そして帰り際に抱き着いて告白…私なら小林さんの胸でノックアウトだね』
『うちもあれには敵わないわ』
『確実に武器だよね』
その後みんな胸を押し付けろとか、お風呂に上がりに…と過激な提案しかしてこないのでここで画面を切った。
「やっぱり、デートかぁ」
まだまだ蓮兄さんの知らない所はあるし、私の事も多分知らないと思う。ならお互いをもっと知れば自然とって感じなのかな。
でも、今日勢いに任せて言いそうになったけど、最終的に言えなかった。
今思うと関係が変わるのって怖いな、失敗するかもしれないんだし。もう少し慎重に行かなくちゃ。
私は取り敢えずご飯をどうするか聞く為に洗面所を出て、蓮兄さんのお部屋に向かうのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回:第18話 私、蓮兄さんの妹じゃないです
応援、☆☆☆レビューよろしくお願いします!励みになります。
『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』こちらも現在連載中なので気になればどうぞ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます