第15話 彼氏でいいじゃないですか

 今は真凛ちゃんに似合うヘアピンを探している最中。途中何か考え事をしていた様にも見えたが、すぐにいつもの真凛ちゃんに戻ったので特に問題はないのだろう。


 普段自分でアクセサリーを作っているが、ヘアピンは専門外なのでパッと見で似合いそうな物を選べばいいかな。そう思い、いくつかのヘアピンを手に持って話しかける。


「真凛ちゃんこっち向いて」

「こ、こうですか?」


「うん、ありがとう。じゃあ少し髪に触れるね」

「わかりました」


 俺の指示で真凛ちゃんは此方を見上げるようにして固まる。真凛ちゃんの了承を得たので何個かヘアピンを髪の上からかざしどれが似合うか吟味していく。


 暫くして5つあったヘアピンは2つまで絞る事が出来た。完全に見た目で選んだがここからは考えて選んだ方が良さそうだ。残ったのはキラキラと光る加工がなされているゼラニウムと、ニリンソウのヘアピン。


 両方とも2つセットで値段もそこまで高くない。そしてどちらも真凛ちゃんにとても似合う。


 俺はどちらにしようかと考えるが中々決まらず、正直本人に聞いて見た方が早いのではと、思い切って聞いてみる。


「真凛ちゃんはどっちが好き?」

「おー、どっちも花なんですね」


「そう言われてみればそうだね…花か」


 どちらが似合うかとしか考えていなかったせいで抜け落ちてしまっていたが、普通プレゼントをするなら意味が必要になってくる。それに花というチョイス、これは少し調べて選んだ方が良いかも。


「真凛ちゃんちょっと待ってね」

「え?は、はい」


 真凛ちゃんに断りを入れると何の待ったなのか分かっていないらしく頭を傾けている。そんな姿も可愛く思えてしまう。


 それよりも調べないと…俺は2つの花言葉について調べ、最終的に選んだのは、


「ニリンソウですか」

「うん、花言葉は協力だって。お互いを助け合ってる俺たちにピッタリかなって、どうかな?」


「いいですね」


 そういう真凛ちゃんは俺の選んだピンを着け始める。


「蓮兄さん似合ってますか?」


 近くにあった鏡で自分の姿を見た後、此方に振り向く。少し恥じらっているのか、頬がほんのり赤く染まり目が合うと逸らし、また目をこちらに向け再びそらすの繰り返し。真凛ちゃんの顔をはっきり見るのはこれで2回目。1度目は一瞬で、見たと言っても今程じっくり拝見することはできなかった。


 だから、目の前に映る綺麗な顔立ちをした少女に息を詰まらせる。驚きよりも先に何か胸を掴まれる感覚があり、はっきり言って見惚れてしまっていた。その吸い込まれるような菖蒲色の瞳に何か心残りがあるかのように。


「蓮兄さん?」

「え、あー。ごめん、ぼーっとしてた」


「もぉ、質問してる時くらいちゃんと聞いてくださいね」


 真凛ちゃんに見惚れ固まってしまっていたようで頬を膨らませ怒られてしまう。おかしい、最近特にボーっする事が増えてきている。それは決まって君の前だけなのが不思議でしかない。


 これ以上怒られるのは嫌なので改めて真凛ちゃんを見る。これまで垂れていた長めの前髪を片方だけ留め真凛ちゃんの左目が露わになった。幼さの残る顔と綺麗なニリンソウの髪留めがとても似合ってる。


「真凛ちゃんすごく可愛いよ」

「そ、そう…ですか」


 俺がそういうと、顔を紅潮させ恥ずかしそうに顔を背け出す。これまでは表情が見れなかったから気に留めてなかったが、そんな顔をされたらこっちまで恥ずかしくなって来る。


 お互いに顔も見ず、喋らない。傍から見れば喧嘩している様にも見えるのか、お店の中にいる他のお客さんからの視線をやけに感じた。


「ま、真凛ちゃんそれ買って来るね」

「あ、はい。ありがとうございます」


 まだ真凛ちゃんは顔を背けているが、話しかければ対応はしてくれるようでお礼を言いながら着けているピンを外し手渡して来る。


 俺はピンを受け取りすかさずレジへ向かい会計を済ませた。


 正直真凛ちゃんの破壊力は凄いものでこれから作業に戻るのに、また見惚れるような事があれば作業に支障が出るかもしれない。


「家に帰ってから付けてもらおう」


 俺はそう呟き、真凛ちゃんの元へ戻ってアクセサリーショップを後にするのだった。



 ∩ ∩

(・×・)



 蓮兄さんに可愛いヘアピンを買って貰ったはいいものの渡してはくれなかったので家で付ける事になるのだろうか。まぁ、顔を見られる事に慣れてないし、良いっちゃ良いけど見て欲しい気持ちもある訳で。

 そんなことを考えながらアクセサリーショップを出た蓮兄さんの隣を歩く。


「蓮兄さん次はどこに行くんですか?」

「うーん、作業に戻るのも良いけど真凛ちゃんは行きたいところある?」


「そうですね、特には無いんですけど…」


 特にはないけど、このまま作業に戻るより蓮兄さんとお出かけの時間を楽しみたいと思ってしまう、時間がまだあるのなら。


「ふ…服見たいです」

「わかった、それじゃあ見に行こうか」


 蓮兄さんは軽く時間を確認すると振り返り笑顔で返事をしてくれ、再び歩き出す。女子の買い物に付き合うのは男性にとって面倒と聞いたことがあるけど、嫌そうな顔1つしない所を見ると、蓮兄さんはモテるんだろうなと思ってしまう。でも、もう誰かに奪われたくない。


 だから、もう少しくらい蓮兄さんに女として見て貰う為に…



*****



 真凛ちゃんは服が見たいらしく時間もまだあるので一緒に歩いている。


 この前服を取りに行ったが、あれだけでは足りないと言う事なのだろうか、いや女の子はお洒落に力を入れるから買う時期とかタイミング、周期などが男とは違う。俺は服に関してそこまで詳しくないので純粋にどんなものを選ぶのか興味があるというだけなのだけど。


 2分程歩いていると、アクセサリーやバッグ、腕時計など高価そうなものが並ぶお店を過ぎ、目当てのお店の前で真凛ちゃんが足を止めた。


「れ、蓮兄さんここ見たいです」

「ま、真凜ちゃん…、ここ下着売り場だよね」


「はい。その…また大きくなってしまったので」

「大きくなったって…」


 確実に身長の話をしている訳では無い事くらいは理解している。言っていいのか分からないが、胸の話だろうな。


 そう真凛ちゃんに連れられて来たのはランジェリー専門店。店の前からでもマネキンに着せられた女性物の下着が目立っている。男の俺が入っていい場所ではないのは明白。そして兄弟でもない女子中学生と来る場所では無いのも分かる。

 つまり今すぐにでも逃亡を試みたい所。


「真凛ちゃん、俺は外で待ってるよ。お、お金は…あるよね?」

「はい、お金はあります。前服を取りに行ったときに通帳持って来てたので」


「じゃ、じゃあ問題ないね!お店の近くにある椅子で――ま、真凛ちゃん?なんで袖掴んでるのかな」

「その、行かないで下さい」


 お金に関して問題が無いと事を知り早急にこの場から離れようとしたが、袖を両手で掴まれて阻まれてしまう。


「行かないでって言われても…俺真凛ちゃんの彼氏でもないし、店の中にまで入るのは」

「い、今だけは彼氏でいいじゃないですか」


「へ?」


 俺は逃げる為に適当な理由を付けて回避しようとしたが、返って来た真凛ちゃんの言葉に驚きを隠せないでいる。俺が真凛ちゃんの彼氏…だと。


 いや冷静になれ、今だけと言っているんだ。何か理由があるに決まってるじゃないか、うん。


「えっと、真凛ちゃん?」

「いやー、その…外で一人は危ないなぁと思いまして。私たまに視線を感じるんですよね。なので護衛というか、蓮兄さんが居てくれる方が安心するなと…」


 なぜか早口で言っているのは気になるが、真凛ちゃん曰くそう言う事らしい。

 

 だが、視線を感じるというのは分かる。この店に来るまでやけに見られている感覚がしていたがどうやら気のせいではなかったのか。


 真凛ちゃんは中学生にすら見えない小柄で、顔もあまり見えないが胸に関しては大人サイズ、目を引くには十分だ。


 それなら真凛ちゃんの護衛という発言にも納得がいく。


「わかった、いいよ」

「え!?いいんですか!!」


「うん、一人じゃ危ないからね」

「ありがとうございます!!」


 真凛ちゃんは護衛をして貰えるのが嬉しいのかその場でぴょんぴょん跳ね「行きましょ!」と興奮気味に手を繋いできた。手に触れる事はあったけど繋いだのは初めてで、護衛彼氏役としてその小さな手を優しく握り返すのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここまで読んでいただきありがとうございます!


次回:第16話 また明日も


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『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』こちらも現在連載中なので気になればどうぞ!


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