第14話 れ、蓮兄さんは私の顔、見たいんですか?
真凛ちゃんのソファベッドの形が出来たので2人でお昼を食べる為に2駅離れたゆめタウンへと来ていた。
ゆめタウンとは広島市に本社のある大型ショッピングオールの名称で、中国地方を中心として数店舗点在している。俺と真凛ちゃんの住む徳島県には1店舗のみで、大きな複合施設と言われたらここかイオンくらいしか思いつかない程何も無い県だ。
映画館は付いていないが、服やご飯、ゲーム系の娯楽などはあるので近くの学生などはこぞって寄るんじゃないだろうか。俺は大体引き籠っているので来る事なんて滅多に無いがな。
「蓮兄さんは何食べるんですか?」
「何にしようかな」
俺と真凛ちゃんは2階にあるフードコードで何を食べるか悩んでいた。真凛ちゃんは来る前から決まっていたので待たせてしまっている状況だ。
この後は少し買い物をして作業に戻る予定なので出来るだけお腹に溜まる物を食べたいが、何にしようか。真凛ちゃんと同じでハンバーガーもいいが、麺類もいい。
「蓮兄さんまだ決まりそうに無いですか?」
「そうだなぁ…あ、真凛ちゃんの食べたい物で何かある?せっかく一緒に来てるんだしお互いに味見出来たらなって」
「味見…そ、それって…」
プライベートでは仕事を優先しているので友達と何かを食べに行く経験が浅い為こう言う機会はあまり慣れていない。そう思い味見と表して真凛ちゃんに聞いてみたのだけど、少し俯くと頬に手を当てて何かを言っていた。
暫くすると真凛ちゃんはそ、そうですねといつも通り話しかけてくる。
「蓮兄さんは何類が食べたいんですか?やっぱりご飯系ですか?」
「うーん、別に拘りはないかな。夜に米が食べたくなるってだけで普通に麺類も好きだしね」
「そうなんですね、じゃあラーメンとかどうです?」
「いいね。じゃあ何ラーメンがいいかな。やっぱりこう言う所だと…」
「「塩ラーメンかな(ですかね)」」
俺はラーメンで1番好きな味を口にすると真凛ちゃんと重なる。俺は少し驚き隣を見ると真凛ちゃんも驚いているのかこっちを見上げていた。
「ふっ」
そこでなんだか可笑しくなりどちらからともなく少し笑ってしまう。
「へへ、私達って案外好み合うんですかね」
「そうかも。じゃあ、塩ラーメンにするよ」
「わかりました!では席とって置きますね」
そう言った真凛ちゃんは先に注文していたハンバーガーを取りに行き、席をとってくれるみたいだ。俺も塩ラーメンを注文し、待ち時間の間この後の事を考えていた。
午後は色を塗るとして量はそこまで多くないから2時間程あれば終わる。今から少し買い物をしても時間は全然あるわけで、ここまで来ているのだから一度真凛ちゃんの欲しい物とかあれば聞いておこうかな。
そんな事を考えていると、注文していた物ができ真凛ちゃんの席に移動する。
「お待たせ」
「お帰りなさい蓮兄さん。ハンバーガー美味しいです」
ハンバーガーを美味しそうに食べる真凛ちゃんは頬をリスみたいに膨らませ咀嚼している。別に誰かが取ったりするわけでも無いのに、そう思いながらいただきますを言って自分も食べ始めると前方から視線を感じた。
前を見る為に顔を上げると、真凛ちゃんの食べる手が止まっている。しかも、口一杯に入っていた物を食べたのか頬の膨らみも無くなっていた。
「真凛ちゃん食べたい?」
「…は、はい」
真凛ちゃんは少し恥ずかしそうにしながらも俺から塩ラーメンの器を受け取り、レンゲを使いスープを一口。
「はぁぁ、美味しいです」
と実に満足そうに感想を述べると次は麺に手をつける。右手に箸、左手にレンゲを持つとスープを少し掬い、麺、ねぎ、焼豚と順番に入れフゥフゥと可愛く息を吹きかけて口の中へ。
ジュルッと音を立ててレンゲの中が無くなると、ゆっくり咀嚼してごくんと喉を鳴らす。
「美味しいですぅ」
食べ終わると頬に片手を添え口を歪ませ感想を述べる。真凛ちゃんの食べる一連の所作がとても綺麗で少し見惚れてしまっていた。
「これで目が隠れていなければな…」
「え…れ、蓮兄さんは私の顔、見たいんですか?」
俺はふと思った事を漏らしていたらしく、真凛ちゃんに質問されてしまう。前にもこんな事が合ったような…今度から気をつけよ。
でも聞こえてしまったのなら仕方がない、俺はそう思い話を進める。
「うん、前も思ったけど真凛ちゃんの顔は可愛いから見れないのは少し残念かな」
「か、かわ…。そ、そうですか。じゃあこの後時間があれば行きますか?」
「いいの?時間はあるから真凛ちゃんがいいなら」
「是非!私も髪は気になっていたので」
そういう真凛ちゃんは前髪を摘み持ち上げる。その時に見えた菖蒲色の瞳はやはり綺麗でこれからたくさん拝めるのかと思うとワクワクしてくるな。
この後の事に期待を膨らませ、昼食を無事取り終えると移動し始めるのだった。
∩ ∩
(・×・)
昼食をとった私たちは100円ショップにより、大きめのマスキングテープや両面テープを買って1階のアクセサリーショップへ来ていた。綺麗な指輪や高そうなネックレスなどが並ぶ中、私に似合うへアピンを見ている。
見るのはいいが、蓮兄さんはどうやら値段を見ている為買うつもりなのだろうか。そこで私は疑問に思ったことを聞いてみる事に。
「蓮兄さん、もしかして買うんですか?」
「うん、そのつもりだけど?」
「そうなんですか、私てっきり蓮兄さんが作ってくれるのかと思ってました」
「あー、上手く作れればそうしたかったんだけど。前に挑戦した時どうにも手作り感が抜けなくてさ、俺の中では買った方が良いなって思ってるんだよね」
蓮兄さんはそれに、と続ける。
「それに、作るよりも大切な物があると思うし」
「大切な物ですか?」
私は作ってくれる方が思いが強くなる思っていたけど、蓮兄さんは違うのだろうか。
「うん。俺、小学校低学年の頃六花以外の子に初恋した事があったんだよね」
「え、初恋…」
蓮兄さんの初恋ってお姉ちゃんじゃなかったんだ。初めて聞いたことに驚き、続きが気になるような、でも反対に聞きたく無い気持ちも湧き上がってくる。
「その子の事は何も覚えてないんだけど、父さんと一緒に作ってプレゼントした物があったんだ。その時に渡せて、気づいたって感じかな」
なんとなく蓮兄さんの次に言いたい言葉がわかった気がした。
「気持ち…ですか?」
「そう正解。俺もその時まで手作り自体に真心が込められていいと思っていたけど、作る事よりも受け取ってくれる人にどう思って欲しいのかって考えたら作るよりも相手に似合うものを見つける事の方が大切に感じて」
その考え、お母さんと同じだ。『相手への気持ちが1番大切なのよ』料理を教えてくれる時毎度のように言っていたあの言葉と重なりすごく共感できる。
でも少し気になる所があったから聞いてみることに。
「因みに、プレゼントって何渡したんですか?」
「なんだったかな」
「覚えてないんですか?」
「うーん、なんだったっけ」
思い出せないのか目を瞑り、うんうん唸っている。これは何かを言えば思い出すパターンではと思い私も考える…昔そういえば。
「蓮兄さん、もしかして指輪だったりします?」
私がそういうと蓮兄さんはハッと目を開き私を見ながら答えてくれる。
「あっ!うん、指輪だわ。真凛ちゃんすごいね。それで裏に何か打ち込んだ気がするんだよね」
「そ、そうなんですね…」
これはもしかするかも…
「れ、蓮兄さん、今はヘアピン探しませんか?」
「あーそうだったね、どれにしようか」
私は男性が嫌いになる前、よく話していた少年に指輪を貰ったことがあった。その指輪は自分の部屋の鍵のかかった引き出しの中に眠っている。
確かめたい…裏の文字を。これは一人で帰る日を作った方が良いかも。
そう思いながら、蓮兄さんとヘアピン選びを続けるのだった。
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回:第15話 彼氏でいいじゃないですか
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『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』こちらも現在連載中なので気になればどうぞ!
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