第12話 もし、もしもの話なんですけど…

 ゴールデンウィーク初日。今年のゴールデンウィークは珍しく9連休で最高なのだけど、休み明けにはテストという最悪なスケジュール。


 昨夜、真凛ちゃんは部屋全体のDIYに興味あるらしく俺の仕事終わりのタイミングで相談してきた。丁寧に描いてくれた理想の部屋は凄く分かりやすく、普段の絵も見せて貰ったがとても上手で普通に食べていけそうな位には実力があると思う。


 でも、真凛ちゃんは自信がないらしい。話を聞いてみるとお母さんが有名な絵描きさんで昔色々教えて貰ったのだとか。


 そして目指している絵描きさんが居て、それと比べて自分の絵は劣っている箇所が多すぎて仕事なんて出来る気がしないと言っていた。


 話を聞いていると自分のダメな所を理解し、それを直す努力もしている事が伝わって来て、真凛ちゃんは絵が好きなんだと分かる。真凛ちゃんなら出来ると心の中で応援する事しか出来ないけど、もし何か俺に出来る事があるなら全力で協力したいな。


 クリエイターとして、そして同居人としても。


 まぁ今は真凛ちゃんの将来も大切だけど、目の前のベッド作りなどが最優先だな。


 昨日見せて貰った部屋の雰囲気からして、ナチュラルウッドをメインカラーにしサブカラーとして白か薄いグレー。壁の1面だけウッドパネルなどで木材だけの場所が欲しいらしく、机に関してはその壁に付ける形が理想なのだそうだ。ベッドは俺の設計図を無駄にしたく無いのか配色以外は変更が無かった。


 全体的に落ち着いた色を使いお洒落なお部屋にしたいらしい。


 俺はてっきり全体を白かピンクのザ・女の子の部屋みたいなのを想像していたから意外だ。真凛ちゃんは以前綺麗な物が好きと言っていたので、感性は案外大人なのかもしれない。


 そんな事を考えながら昨日も来たホームセンターを朝から訪れていた。まず最初に取り掛かるのはベッド…ではなく。


「蓮兄さん何選んでるんですか?」

「今はフロアシート選んでるんだよ」


「フロアシート?床ですよね、ベッドじゃないんですか?」

「まぁ当然の質問だよね。部屋全体をするなら家具よりも先にしておいた方が雰囲気掴めやすいからね。壁からでもいいけど、大きく雰囲気を変えたいなら面の広い所を初めに変えるのが良いから」


「ほへぇ…」


 真凛ちゃんは感心しているのか、理解できていないのか分からないが俺を見上げてそんな声を漏らす。


 ちょっと難しかったかな?でも、今からは真凛ちゃんの感性に聞いてみる事にしよう。


 俺はまずクッションフロアとフロアタイルのどちらにするかを真凛ちゃんに聞くことにした。


「これって何が違うんですか?」

「えっと、クッションフロアは名前の通りクッション製のシートで出来ていて、柔らかいのか特徴かな。触ってみて?」


「あ、ほんとだ。ノートみたいに曲げれますね」

「ノ、ノート?ま、まぁ言ってる事は分からなくないかな。それともう1つの特徴は、断熱性が高い所かな。使ってみて分かったんだけど、結構暖かいんだよね」


「へぇ、触ってるだけじゃ分からないですけど、暖かいのは良いですね。私、裸足で生活することが多いので冷たいのはちょっと…今とかまだ寒い時期は困りますからね」

「了解、そう言う事ならクッションフロア確定かな。フロアタイルの方は硬くて冷たいから。まぁその代わり、高級感があるのが特徴なんだよね、値段もそれなりに高いけど。ついでに触ってみたら?」


「は、はい。…おー、ほんとに硬い。それに少しひんやりしてるのが分かりますね。今、触ってる大理石とかは雰囲気的にキッチンか洗面所にあれば見た目は良さそうですよね」

「それはありかもね。真凛ちゃんの部屋が終わったら、キッチンとかもするのもありかも…」


 俺は、いつになるか分からないが真凛ちゃんの部屋の模様替えが終わったらキッチンなども良いかもと思い、口にすると真凛ちゃんは少し気になったことがあるようで俺の服の袖を掴み話しかけてきた。


「そう言えば蓮兄さんの部屋以外は壁とか床普通でしたよね」

「うん、同棲を考えてたからね。自分の部屋は好きにデザインできるけど、一緒に生活するスペースを勝手に弄るとなると後で何か言われそうでさ」


「それはそうですね…」


 そう言う真凛ちゃんは、何かを考えているのか口に人差し指を当て一点を見つめている。


「真凛ちゃん何考えてるの?」

「え、いや。もし、もしもの話なんですけど…」


 そう言う真凛ちゃんは若干俯き両指を合わせるともじもじし始め、続きを言う為に口を開く。


「こ、このまま私が蓮兄さんとずっと一緒に住む事になったら…私の部屋以外も二人で考えたり、出来るのかなって…」

「ずっと一緒か…」


 恥じらい混じりに聞いてくる真凛ちゃんのずっと一緒という言葉が今の俺にはすごく不安な音のように聞こえてしまった。


 ずっと一緒、そう思っていた六花はもう俺の傍には居ない。いつかからは分からないが、もう気持ちは離れてしまっているのだろう。そう、人の気持ちなんてすぐに変わってしまうのだ。


 俺が次の恋愛にあまり乗り気じゃないのは、また誰かに裏切られるんじゃ無いのか、そしてその裏切り行為にすら気づかないで1人で盛り上がってまた捨てられる。


 10年以上の付き合いがあっても、相手の気持ちが今どこにあるのかなんて把握できない。多分俺はあの一件以来、少しだけ人間不信になっているのかもしれないな。


「蓮兄さん、どうかしましたか?」

「え、ううん。何でもないよ、ちょっとボーっしてただけ。それで何だっけ?」


「ちゃんと話聞いてくださいね?…その、私の部屋が終わったら他の部屋も一緒に模様替えできないかなって」

「あー、そうだったね。いいと思う、真凛ちゃんの部屋が終わったら考えようか」


 俺が1人考え事をしていると話の途中だったのか、真凛ちゃんが心配そうに顔を覗き込んできた。


 自分の事を考えるは後だ、今は真凛ちゃんの理想のお部屋を作り上げることに集中しよう、気持ちなんて時間が何とかしてるよな…


 そう思い、俺は真凛ちゃんと引き続き床に敷くクッションフロアを見ていく事に。クッションフロアはいろんな種類があり、フローリング調の物や石目・タイル調の物まで。


 今回真凛ちゃんの理想としているお部屋は、一部の壁を木の板で埋めたいと言っていたのでデザインを考えるならフローリングを避けた方がいいだろうか。


「真凛ちゃんはこの中からだとどれが良いとかある?」

「そうですね。このグレーに近いモルタルもいいですけど、あえて大理石ってのも…」


 そう言って真凛ちゃんは悩み、最終的に2つまで絞ることができた。


「グレーに近いモルタルとネイビーの荒い生地みたいな奴か。両方とも暗い色を選んだみたいだけど、何か理由があるの?」


 真凛ちゃんの描いてくれた絵には暗いイメージの床に白いに近い壁紙が書かれていた。俺の部屋は全体的にネイビー色をメインカラーに暗い色の木を使っているから部屋の雰囲気は真逆だ。


「はい、壁で白と明るい木の色を使う事で軽い印象を与えたいと考えているんですが、私の液タブとか今後買いたいモニターって黒を使ってるんですよ。なので一部分に暗い物を置くよりも、敢えて床を暗くすることで親和性を出したいなと」


 そういう真凛ちゃんに少し感心してしまった。俺も模様替えをする時に違和感のない内装づくりみたいなのを調べたことがあり、一部の色を強くしてしまうと違和感が出てしまうのだとか。


 だが、そう言う所を事前に想定しているのは凄いと思う。もしかしたら、絵描きのお母さんに教えて貰ったか元々の感性か、色に関してはイラストに通ずる物がある気がするし。


「あと、もう一つあるんですけど…」


 そう言う真凛ちゃんはネイビーのクッションフロアに触れながら続ける。


「こっちの色、蓮兄さんの部屋にある壁の色と同じじゃないですか。お互いの部屋に入ると全く違う空間というよりも、共通してる物があるとなんか…一緒に住んでるって感じが出て良いなって。えっと、その、同棲してる…みたいな」

「ど、同棲って…」


 そう言う真凛ちゃんは少し恥ずかしそうにこちらを見ている気がする。なんか、勘違いしそうな発言に俺はオウム返ししてしまう。


 真凛ちゃんは意味を分かって言っているのだろうか。もし分かっているのだとしたら、真凛ちゃんは…。いや、これは俺の思い上がりだな。だが、どう返せば良いのだろうか。


 俺が、どう返せばいいか悩んでいると真凛ちゃんは慌てた様に口を開く。


「な、なんちゃって〜!じょ、冗談です!!」

「あ、あぁそうだよね。びっくりしたよ」


 そう言う真凛ちゃんは俺から顔を逸らし、こちらに片手をぶんっと伸ばすと大きく振り自分の発言を冗談だと言う。


 うん、冗談に決まってるじゃないか。嫌われてないのは普段の言動からわかるが、真凛ちゃんが俺なんかの事をなんて…。でも、もしそうだとしたら…嬉しいな。


「はぁ、私のばか…」


 真凛ちゃんは商品に向かって小さく呟いているが何と言っているのかは俺には聞き取れ無いのだった。


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ここまで読んでいただきありがとうございます!


次回:第13話 ち、違いますかね!?


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『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』こちらも現在連載中なので気になればどうぞ!


https://kakuyomu.jp/works/16817330660041626971

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