第11話 してみたいです。お部屋作り

 今日も蓮兄さんに言って湯船に浸かっている。

 

 温かいお湯が疲労した身体の癒してくれて、対照的にまだ春の夜風は冷たく少し開けている窓から頬に伝う。


「はぁ、やっぱりゆっくり入れるのは良いよね」


 蓮兄さんは仕事で遅くまで起きているらしいからゆっくり浸かっていいと言ってくれた。実家に居る時はお姉ちゃんがうるさかったから長風呂なんて中々できなかったけど、ここなら好きなだけ入っていられるから最高。


「もう、ほんとにここに住み続けちゃおうかな」


 始めは蓮兄さんのお邪魔になるんじゃないかなと少し思っていたけど、この3日間は私を拾ってくれたあの日みたいな悲し気な顔をしなくなり、たまに笑っていたりもする。


 あの表情を見ていると少しでも為になっているのだと実感するし、私も蓮兄さんには元気になって欲しい。私は家事をして蓮兄さんの負担をなるべく減らす事しか出来ないから、もし他に役に立てることがあればしていきたいと思う。傷ついた蓮兄さんを支えられるのは私だけだと思うから。


 そんなこれから私に何が出来るか考えるものいいけど、


「明日からゴールデンウイークかぁ…」


 そうゴールデンウイークが始まるのだ。これまで長く一緒に休日を過ごす事なんてなかったから凄く楽しみ。


「ゴールデンウィーク、ベッド作って…それで終わりになっちゃうのかな。他に何か…」


 そう小さく呟き、胸の上に置いてあるアヒルさんをどかし晩御飯の用意する為に浴室を後にするのだった。



*****



「蓮兄さんお先です!暖かいですよ」

「あーうん、すぐ行くよ」


 俺は明日から本格的に真凛ちゃんのベッド作りをしていくので、その前に残りの仕事を終わらせてしまおうと作業していた所だった。


 真凛ちゃんは俺が返事をすると、「ご飯作りますね」そう言ってキッチンへと歩いて行く。


 手慣れた手付きでエプロンを付け、台所に立つ真凛ちゃんを見ているとまだ4日しか経っていないというのにとても安心する気持ちがあるな。


 今日も帰りに六花を見かけて、少し胸が痛んだけれどこう真凛ちゃんの存在があるだけで支えになっている気がしている。


 昨日真凛ちゃんが帰りたくなったら帰るかもと言っていたから、もしかしたらと思ったけど真凛ちゃん自身が俺と一緒に住むことを望んでいるのであれば、もう心配することは無いのかもしれないな。


「風呂入ろ…」


 作業を一旦辞め、風呂場へと向かう。移動する時に真凛ちゃんを横目でちらっと見ると、楽しそうに料理をしている姿が見える。


 その姿を見て、自然と口許が緩んだことに俺は気づかないのだった。


 

 ∩ ∩

(・×・)



 蓮兄さんはご飯を食べると残りの仕事を終わらせたいからと言って自室に閉じこもってしまった。


 お仕事の邪魔はしたく無いので何をしようかなと頭を悩ませている。正直一人で遊ぶのもいいけど、蓮兄さんと何かしたい。


 これまではお姉ちゃんと蓮兄さんが遊んでいるばかりで、私と二人っきりでどこかに行った事なんてなかったからこの前の『真凛ちゃんが嫌じゃなかったら、今度どこか遊びに行かない?』というお誘いはとても魅力的に感じた。


「へへ、これってデートだよね…楽しみ」


 勉強はいつもご飯を食べてる机を使えばいいし、机を作って貰うのは後でも良いよね。ベッドが完成したら一緒にどこか行きたいな。蓮兄さんはどういう所が好きなんだろう?


 私は綺麗な物とか面白い物が好き。


 蓮兄さんは今みたいに仕事で色々作ったりしてて、たまに趣味でも作るって言ってた。じゃあ、やっぱりそう言うのが好きなのかな。


「DIYか…」


 私は蓮兄さんのしているお仕事が気になり、YuuTubeで適当に動画を探してみる事に。


 検索をしてみると色々な物が出てきた。


 蓮兄さんが作っているような小さなアクセサリーから、インテリアに家具。その中でも私が気になったのは。


「部屋のDIYって何?」


 調べてみた所、模様替えのもう少し大掛かりな物みたいな?私もたまに部屋の物の位置を変える程度はしたことがあったけど、これは壁紙から家具の形,色まで変更できてガラっとお部屋の雰囲気が変わっている。


 ちょっと楽しそう。


 今更気づいたけど蓮兄さんの部屋も落ち着いた色を使ってとてもお洒落だった。


 私は蓮兄さんのお仕事の邪魔はしたくは無いが、改めてお部屋の雰囲気が知りたくなり蓮兄さんのお部屋の前に足音を立てずに忍び寄る。


 蓮兄さんは仕事に集中している時は多少の音は気にならないのか、ここに来た初日は声を掛けるまで気付かなかった。


 だからちょっとだけ中を覗いてみてもバレないだろうと、引手に触れようと手を伸ばした途端。


 すぅっと引き戸が独りでに開きだした。


「あれ、真凛ちゃんどうかした?」

「あ、えっと…」


 引き戸を開け顔を表したのは蓮兄さんだった。


 別に悪いことをしているわけではないので、言い淀む必要はないけど予想だにしていない事に戸惑い、うまく言葉が出てこない。


「さっき仕事が終わったところなんだけど…もしかして明日のベッドの事で何か気になる?」

「そ、そうじゃないんですけど。さっきこういうのを見つけて」


 そう言いさっきまで見ていた動画を蓮兄さんに見せる。


「あーそっか、部屋全体ね。ベッドの事で頭一杯でそこまで考えられてなかったよ。ごめんね?」

「いえ、ベッドを作って頂くのにそこまでしてもらうのは申し訳ないですよ。今は蓮兄さんのお部屋を少し見に来ただけですので」


 ベッドを作って貰うのに部屋全体までして貰うのは流石に気が引けて、胸の前で両手を左右に振って断る。


 でも…


「真凛ちゃん。今の居場所はここなんでしょ?なら出来るだけ住みやすい場所にしたいと俺は思ってるよ」


 蓮兄さんは帰る気がない私の気持ちを尊重してくれているようだ。


 これ以上我儘を言うのはいけないかなと思ってたけど、蓮兄さんが良いなら自分の部屋を作ってみたい。


「蓮兄さんの迷惑にならないなら、してみたいです。お部屋作り」

「そう来なくっちゃ!全然迷惑じゃないからじゃんじゃん頼んでね!」


 そう言う蓮兄さんは笑顔で親指を立ててサムズアップ。楽しそうにする蓮兄さんを見ていると、本当に迷惑ではないんだなと感じる。


「蓮兄さんって何か作るの好きなんですね」

「うん、昔から両親の仕事を手伝ってたからね。自然とって感じかな」


「へぇ、ご両親って何の仕事されてるんです?」

「真凛ちゃん知らなかったんだ。えっと、父さんが家具職人で母さんがハンドメイド系かな。俺はその両者をやってるんだけどね」


 知らなかった、だから蓮兄さんはアクセサリー以外に家具も作れるのか。


 別に家具を作れるのは珍しくない、最近簡単にできる組み立て式の物を売っているから。でも、蓮兄さんの部屋にある物って素人が作った感じがしないんだよね。


 それはご両親の仕事を小さい時から見ていたからなんだ。


「凄いですね。私は、ちょっと絵を描くくらいしか出来ないですよ」

「え、真凛ちゃん絵描けるの!?凄いじゃん、俺描けないから羨ましいよ」


「い、いやそんなすごい物は描けないですよ」


 今お父さんの出張に付いて行っているお母さんが絵描きさんだから昔から暇つぶしに絵を描くことがあったけど、蓮兄さんみたいに売れる程の実力はないと思う。


 だから蓮兄さんに褒められて嬉しい気持ちもあるが、変に期待されると困る。


 失望されちゃうかもしれないし。


「それでも凄いよ、俺は設計図描くのですら苦手だから。あ、真凛ちゃんが住みたい部屋を絵で描いてくれると俺も作業しやすいかな」

「それくらいなら、でもほんと上手くないですからね?」


「大丈夫だよ。分からなかったら真凛ちゃんに聞くし、俺だって作るのが難しそうなら変更するか一緒に考えればいいからね」

「一緒に…」


 蓮兄さんと一緒にお部屋作り…なんかいいかも。ただどこかに行って遊ぶのは友達ともできるし、初めての事を蓮兄さんと一緒に出来るなんて夢みたい…


「そうですね、私も一緒に考えたいです」

「じゃあベッドの事も含めて今から話し合おうか。紙取って来るからリビングで待ってて」


「あ、蓮兄さんパソコンありますか?」

「え?うん、一応持ってるよ。あー、ちょっと待っててね」


 その後は蓮兄さんのノートパソコンを使い、服と一緒に持って帰って来ていた液タブで軽く住みたいお部屋を描いてみると、「うん、これなら作れそうかな」とOKサインが隣から聞こえる。


 時間も遅くなってきたと言う事で一度話し合いは終わりとなり、布団の中で枕を抱きしめながら明日が待ち遠しい気持ちの中、目を瞑るのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここまで読んでいただきありがとうございます!


次回:第12話 もし、もしもの話なんですけど…


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『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』こちらも現在連載中なので気になればどうぞ!


https://kakuyomu.jp/works/16817330660041626971

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