第9話 前まではそうだったかもしれないですね

 俺はキッチンから聞こえる音により目を覚ました。


 ベッドわきに置いてある、木製のスマホスタンドの上からスマホを取り時間を確認すると、


「6時で金曜日か…今日を乗り切れば…。それにしても真凛ちゃん起きるの早いな」


 俺は大体遅刻ギリギリの登校をしているので、起きるのはいつも7時少し後でいつも慌てて準備をしている。だから、真凛ちゃんが来てから朝の支度が非常に楽になった。朝起きるとご飯が用意されている生活なんて実家以来で、なんだか懐かしい。


 俺は身体を起こし、音のする部屋へと繋がる引き戸をゆっくりと開ける。


 カウンターキッチンの奥には白い制服に紺色のエプロンを来た真凛ちゃんが朝ご飯を作ってくれているようだ。


「おはよう真凛ちゃん」

「あ、蓮兄さんおはようございます!今日はお早いですね」


「うん、目が覚めちゃってね」


 真凛ちゃんの料理してる音で目が覚めたとは言わなくて良いだろう。


「真凛ちゃんこそ早いね」

「そりゃ蓮兄さんの朝ご飯作ってますからね」


「ありがと、助かってるよ」

「いえいえ、それよりも顔洗ってきたらどうですか?寝癖ついてますよ」


「まじか、じゃあそうさせて貰おうかな。手伝える事があれば言ってね」

「はい!」


 そう元気な声で返事をしてくれる真凛ちゃんは右手に菜箸を持ち胸の前でぐっと握りしめている。俺の為に早く起きてくれた事は少し申し訳なく思うが楽しそうに料理をする彼女は見ていて良い物だなと素直に思ってしまう。


 俺は言われた通り洗面所に向かい顔を洗い、少し跳ねた寝癖を直し脱衣所で制服に着替え真凛ちゃんの居る部屋に戻る。


 すると真凛ちゃんは、朝ご飯とは明らかに違うものを作っているのが見えた。

 

「今は何作ってるの?」

「今は蓮兄さんのお昼のお弁当を作ってます」


「え、弁当?」

「はい、蓮兄さんいつも菓子パンかコンビニ弁当ですよね?」


「う、うんでも良く分かったね」

「私と蓮兄さん駅まで一緒じゃないですか、乗る場所は違いますけど蓮兄さんが駅に併設されているコンビニに入るの見てますからね?昨日も一昨日も」


「あはは、見られていたのか。駅のホームが違うから大丈夫かと思ってたんだけど」

「甘いです!そしてそんな食生活してるといつか体壊しますよ?」


「た、たまに自分でも作るから…」

「弁当箱があったのでそうだとは思いますけど、作るなら毎日の方が良いですよ?節約にもなりますし」


「そうかもしれないけど、朝起きれない時の方が多いから。早く起きる時なんて仕事を進めたい時か何かあった時ぐらいだし。毎日は作れないよ」

「ふふん、前まではそうだったかもしれないですね。でも今は違いますよ」


「もしかして、弁当作ってくれるの?今日だけじゃなくて?」

「当り前です!この家の家事担当は私なんですから」


「あれ本当だったんだ…」


 前に一度、真凛ちゃんが家事をすべて担当したいと言いだし、それは流石に申し訳ないと思い断ったのだが。


『私の寝具を買ってくれたのは、家事のお礼なんですよね?蓮兄さんに頼っていたら、一生返せる気がしません。これからベッドとかも作って貰うんですから…』


 以前なかなか受け取って貰えなかったから、自分から家事をして貰うお礼の先払いとしてと言ったが、あの言葉を真に受けているとは思わなかった。


 だが今から、訂正しようとしても真凛ちゃんは断る気がする。


 変に拗れるより、真凛ちゃんが納得しているなら今のままでもいいのかもしれない。体調が崩れる前には休んでもらうとして。


「まぁそう言う事ならお願いしようかな。でも無理はしないようにな」

「はい!それはもちろんです。体調崩したら蓮兄さんに迷惑掛かっちゃいますし。本当に無理をする気はないので安心してください」


「ちゃんとわかってるならいいんだ。して貰えるのは凄く助かるから。ありがとね」

「えへへ、私も蓮兄さんのお役に立てて嬉しいです」


 そう言って笑った後、作った物を弁当箱に入れていく。


 大抵は昨日の残り物や、冷凍食品を入れると思うのだけど真凛ちゃんは一から全て作ってくれているみたいだ。


 手間を掛けさせている気がするが、それは真凛ちゃんの気持ちの表れなのだろう。


 簡単に済ませる事の出来るものだけで作るより、食べる人に喜んでもらいたいという気持ちがその弁当から伝わってくる。


 これは俺もいい仕事をしないとな。


「ベッド良い物作らないとな」

「ふふ、楽しみにしてますね!」



*****



 お昼休み。


 食べるメンツはお馴染みの3人。


 前に要、右隣には徹。そして徹の前に座る女の子。


 彼女は俺の中学からの後輩で、部活でよく一緒に居た神崎かんざき 詩織しおり


 少し明るめに染めた赤茶色の髪、ふわっと軽そうなショートヘアはアウトドアが好きな彼女にぴったりだ。


 神崎とは中学のDIY部で知り合い。俺がアクセサリーなどを作れると知ると良く話しかけて来るようになった子だ。


 人懐っこくどんな人とでも仲良くなれる彼女は、部活のムードメーカーの位置に鎮座してしたのを今でも思い出す。


 同じ高校になってもこうやって話しかけてくれるのは、普通に嬉しい物だな。


「あ、そうそう先輩。彼女さんと別れたって聞いたんですけど大丈夫なんです?」

「うん、今のところはね。支えてくれる人が居るから」


「もしかして、その弁当作ってくれた人だったりするのかな?ボク気になるよ!」

「蓮お前次の女を捕まえるの早くないか?」


「いや、付き合ってないし。同居してるだけだよ」

「同居…同い年の子なんですか?この学校だったり?」


「まだ中学生、訳あって一緒に住んでるんだ」

「中学生って…先輩ロリコンだったんですね。引くんですけど…」


 そう言う神崎は目に見えて引いている表情をし、残りの二人も「それはちょっとな…」「ボクもそれは…」と芳しくない反応をされる。


 なんでそんな顔をされないといけないんだ。


 いやまぁ、六花とはもう付き合っていないのだから真凛ちゃんは他人ではあるし。


 そう考えると、高2の男子が家族でもない中学生を一人暮らしの家に住まわせている状況って普通にまずくないか?


 冷静に考えだすと冷汗が止まらなくなってくる。


 いや、でも真凛ちゃんは自衛のために寝泊まりしているに過ぎないわけだし…手を出す気なんて一切ない。


「あのなぁ、俺はロリコンじゃない。事情があるんだよ、内容に関しては言えないけど下心とか微塵もないからな?」 

「それは先輩嘘です。いつか襲いたくなるものですよ。それも中学生なんて絶賛成長期じゃないですか、そんな女の子と一つ屋根の下で一緒のベッドでなんて…卑猥ですよ!」


「お前の妄想力はいつも良くない方向にしか進まないよな。あと一緒のベッドでは寝てないからな?」

「でもいつか蓮くんが襲いそうってのはボクも同感かな。要くんもボクと一緒の部屋に居るとオオカミさんになっちゃうし」


「それは徹ちゃんが可愛いから仕方ないんだよ」

「えへ、嬉しいなぁもう!」


「俺たちを挟んでいちゃつくのやめてくれないかな」


 そんな話をしながら、真凛ちゃんの作ってくれた弁当に手を付ける。


 中身は、豚キムチ丼と多めのサラダ。ご飯が好きと言ったらこう俺の好みに合わせて作ってくれるのは有難いな。


 箸で掴み、一口。


 美味しい。


 キムチのちょっとした辛みと、ご飯に混ぜてあるこのゆかりの酸味が丁度良く合って何杯でもいけそうだ。


 たまに自分でお弁当を作ることがあるが、ここまで上手くは作れない。冷めているのにお肉も柔らかく脂っこくないし、真凛ちゃんはお弁当を作るのも色々考えているんだろうな。


 明日からのゴールデンウィーク、真凛ちゃんの為に希望通りのベッド作りにより一層気合が入る気がする。


 今日の放課後は材料調達かもなと思い、俺は真凛ちゃんに効果後に迎いに行く事を連絡するのだった。


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ここまで読んでいただきありがとうございます!


次回:第10話 来るの初めてです


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『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』こちらも現在連載中なので気になればどうぞ!


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