第7話 少しだけこうさせて下さい
寝具と買い物を済ませ家に帰った後、お互いにシャワーを浴び真凛ちゃんの作ってくれた親子丼を食べた。真凛ちゃんのご飯は美味しく、本当に毎日食べたい程だ。
寝具が届くまでの間、真凛ちゃんはベッドの上で漫画を読んで、俺は昨日の仕事を進めている。
「もうすぐ届くんですかね」
「んー、そうだな。今が8時45分だからもう少しだろうな」
俺は作業机に置いてあるスマホで時間を確認しそう返す。
「楽しみです♪」
そう言う真凛ちゃんを見ると俺のベッドの上で足をぶらぶらさせている。
もうすぐ届く寝具が待ちきれないのだろう。
「そういや、真凛ちゃんはベッドにしたいんだったよね」
「はい、蓮兄さんが作ってくれるんですよね?」
「うん、それは構わないけど。どんなのにしたいとかリクエストあったりする?」
「そうですね。あの部屋クローゼットなかったので服入れる用の収納スペースは欲しいですかね」
「収納スペースね。他には?デザインとか」
「デザインですか…ソファベッドみたいな物がいいですね。あとそこの棚みたいなのが近くにあると嬉しいです。ラノベとか漫画入れたいので」
そう言う真凛ちゃんは、工具などを置いてあるキューブボックスを指差す。
「了解、要望はそれくらいかな?」
「そうですね、ベッド以外なら他にも欲しい物はありますけどそこまでして頂くのは申し訳ないので」
「そんなの気にしなくていいけどね。試しに言ってみてよ」
「んー、机は欲しいですね。勉強する為に」
「あー机か。机なら今使ってるこの作業台とかダイニングテーブルとか作ったことあるし、問題ないかな」
「ほんとに蓮兄さんって何でも作れるんですね。作れない物とかないんですか?」
「どうだろう、初めて作る物とかはきちんと設計図描かないとできないし。家具とかちょっとしたインテリアくらいしか作ってないから、パッとは出てこないかな」
「インテリア…綺麗な物って頼めば作ってくれるんですか?」
「うん、簡単な物ならすぐ作れると思う」
そう言うと真凛ちゃんはじゃあじゃあ!と胸の前で両手を握りしめ、小刻みに動かしている。
子供のようにはしゃぐ彼女を見ていると何でも作ってあげたくなるな。
そうはしゃいだ後、真凛ちゃんは自分のスマホを取り出し俺に作ってもらいたい物を検索し始める。俺もどんな物が真凛ちゃんの好みなのか気になり隣に座ろうとした所でピンポーンとインターホンが鳴った。
「来たみたいだね」
「おお!」
自分で選んだ寝具が届いたことに興奮しているのか、勢いよくベッドから降りる。真凛ちゃんと共に玄関へと向かうと、予定通り真凛ちゃんの寝具が届いた。
「「ありがとうございました」」
二人で配達の人にお礼を言い、運ばれた寝具一式を真凛ちゃんと眺めている。
今回購入した物は、伸縮性抜群で厚さ17㎝のマットレスにこれから夏に入ると言う事でひんやりするボックスシーツを買った。
他の物は特に拘りが無かったらしく結構安めのを購入して、いや枕は結構いい奴買ったな。
カバー類も洗い替え用に買い、これで寝るには問題ないだろう。
「蓮兄さん最高です!」
「真凛ちゃんに喜んでもらえて嬉しいよ」
届いた寝具にカバーを掛け、寝る準備ができたところで早速ダイブする真凛ちゃん。
足をバタバタと動かすその姿を見ていると、まだまだ子供だなと年が2つしか違わないのに思ってしまう。
もし俺にも妹が居たらこんなに可愛いのだろうな。そう思ってしまうが、満足したのか真凛ちゃんはバタバタを辞め俺の方へ駆け寄って来る。
「改めて蓮兄さん、ありがとうございます!」
俺の目の前でピタッと止まると興奮気味に感謝を述べてきた。
駆け寄ってきた反動でその立派に実った二つの双丘が上下に揺れて、俺は顔を逸らしてしまう。俺のジャージを着ていて、男物で少し大き目のはずなのに胸の辺りはきつそうに張っている。
「蓮兄さん?」
俺が顔を逸らした事を不思議と思ったのか名前を呼んでくるが、今は顔を合わせられる気がしない。
俺だって男なのだ、真凛ちゃんは中3でも体的には十分大人並の物を携えている。小柄で130センチ程の身長の彼女の事を、最初は妹みたいだから大丈夫だと思っていたが、最近少し距離が近い気がして胸の辺りがざわめく。
この気持ちが何のかはっきりしていないが、真凛ちゃんに向けて良い物では無いことだけはわかる。真凛ちゃんは一時凌ぎで此処に居るに過ぎない。寝具を買ってあげたのだって、家事のお礼だ。
だから、真凛ちゃんに変な気持ちを抱くだけでもだめだと思う。それに六花と別れたばかりだというのに、節操がなさすぎる気がするし。
この感情は多分、今はまだ弱っている心を優しい真凛ちゃんが支えてくれているから勘違いしているんだ。多分そうなんだろう。
俺はそう思い込むことにして、一度心を落ち着かせる為に息を吸い真凛ちゃんに顔を向き直す。
「なんでもないよ。それより、服の問題だよね。ベッドもすぐには作れないし、取りに行くとしても早い方が真凛ちゃんもいいでしょ?ずっと俺のジャージで生活するわけにもいかないだろうし」
「…そうですね、じゃあ明日にでも帰りに行きませんか?」
「あぁ、六花の帰りがどうなるか分からないけど。明日くらいがいいだろうね」
「ですね、一応お姉ちゃんにはお友達の家に暫くお泊りするって連絡しているのでもし鉢合わせになると何を言われるか。あの人に会うのも嫌ですし」
真凛ちゃんは六花の現在の彼氏を酷く嫌っているのか、俯いて少し強めの口調で拒絶の言葉を口にする。
「その時は、俺がどうにかするよ。真凛ちゃんが家出する原因を作ったのは俺にもあるしさ」
「すみません、その時はお願いします」
そう言って俯いている真凛ちゃんの手を両手で握ると、不安なのか震えているのが分かった。口では強く言っていても、やはり怖い物は怖いのだろう。
「真凛ちゃん、安心して俺が居るから」
「はい、頼りにさせて貰います」
俺の言葉で少しだけ落ち着きを取り戻したのか、顔を上げると少しだけ口許が緩んだ気がした。俺も安心して、自分のスマホで時間を確認すると22時と表示されている。
「そろそろ寝る時間だね。真凛ちゃんはこのまま寝る?」
「はい…普段あまり外に出ないので今日は疲れました」
「そっか、じゃあ俺は仕事に戻るね。おやすみ」
「あ、蓮兄さん」
「ま、真凛ちゃん…?」
自分の部屋に戻ろうと顔を扉に向けた所、真凛ちゃんに名前を呼ばれると同時に強く胸に衝撃が走る。突然の事に少しよろめいてしまうが、何とか耐える事が出来た。
「真凛ちゃん、何してるの…?」
「少しだけこうさせて下さい」
そう言う真凛ちゃんは俺の胸に顔を埋めるようにして抱き着いてきた。
さっき真凛ちゃんの事を変に意識してしまったせいか、真凛ちゃんの柔らかい物が胸の下辺りに当たる度、ドキドキと鼓動が早くなっているのを感じる。
だが、冷静になれ俺。自分の欲望の事だけを考えて真凛ちゃんを見るのは良くない。よく考えるんだ真凛ちゃんが今どうしてこんな行動を取っているのかを…昨日一緒に寝たいと言っていた事を加味すると一人になるのが心細いのだろうか。
それならと俺はそっと真凛ちゃんの頭に手を置き優しく撫でる。
さらさらとした綺麗な髪からは俺と同じシャンプーを使っているはずなのに甘い匂いがしてきて、また変な気持ちが湧き上がってきそうだ。
少し撫でていると、真凛ちゃんはゆっくりと顔を上げるのだけど、髪が俺の服に引っかかってしまったのか片目だけその綺麗な目と顔が露になる。
これまで一瞬しか見えなかった彼女の顔をこんなまじかで見て、俺はふと思ったことをつい口に出してしまった。
「可愛い」
「えっ…」
真凛ちゃんは目を見開いて、少し顔を赤らめるとまた俺の胸に頭を埋める。六花にもあまり言わなかった事なのになぜか自然と言葉が出ていた。どうしてそんな言葉が自分の口から出たのか分からない。そんな事より早く謝らないと、気持ち悪いなんて思われたくないから。
「ご、ごめん。嫌だったよね」
「い、いえ、急だったので驚いただけです」
そう言った真凛ちゃんは下を向きながらすぅっと離れて行く。
「お、おやすみなさい。蓮兄さん…」
「う、うん、おやすみ」
そう小さな声で言う真凛ちゃんに対して、挨拶をするとなんだか居た堪れない気持ちになりそそくさと部屋を後にした。
突然真凛ちゃんが抱き付いてきて、甘い匂いもして変に意識してしまっているのか自室に戻ってきたと言うのに、まだ胸の激しい音が鳴り止みそうに無い。
「絶対に真凛ちゃんに聞かれたよな…。はぁ俺、真凛ちゃんの事妹として見れてない気がする…」
こんな気持ちのままで一緒に住むなんて果たして出来るんだろうか。そんな悶々とした気持ちのまま作業に戻るが、当然手に付かず諦めてベッドに横になる。
∩ ∩
(・×・)
「どうしよう、どうしよう。蓮兄さんに可愛いって言って貰っちゃった!!」
すごく嬉しい!!
私は蓮兄さんが部屋を出ると、明かりも消さずに布団に勢いよくダイブし、枕を強く抱きしめながら一人叫ぶ。声が蓮兄さんに聞こえないように、枕に顔を強く押し付けて自分の気持ちを素直に吐露してしまう。
心臓の音がいつもよりうるさくて、さっきまで蓮兄さんを抱きしめて頭を撫でられていたと思うと顔の緩みが止まらない。
「いつか頭を撫でるんじゃなくて、抱きしめ返してくれたり…えへへ」
そんな妄想をしていたせいかなかなか寝付けず、最後に時間を見たのは深夜の2時だった…
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回:第8話 帰りたくなったら、帰るかもしれません
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『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』こちらも現在連載中なので気になればどうぞ!
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