第6話 蓮兄さんは大丈夫です

「蓮兄さん先にお買い物ですか?」

「そうだけど、どうかした?」


「荷物多くなると思うので、先に布団選びません?」

「あー、手で持って帰ろうと思ってたけどそう言う事なら、配達して貰おうか」


「すみません急に言ってしまって」

「真凛ちゃんが謝る事じゃないよ、俺も買い物の量考えてなかったからさ」


 急な行き先の変更があったものの、向かう方向としては変わらないので問題ない。


 まぁもし、目的地が逆でも付き合うけど。


 そんなことを考えながら自宅マンションから2駅ほど離れた場所へとやってきていた。


 寝泊まりをするとなれば、寝具には拘った方がいいに決まっている。


 いつまで居るか分からないが、慣れない環境で生活するとなるとやはり疲れは生じると思うし。


 だから、少しでも良い気持ちで寝てもらう為にも、多少高くても買ってあげたいと言うのが俺の見解ではあるのだけど、


「そんな高い物買えませんよ!」

「いやいや、遠慮しないで良いからね?真凛ちゃんが一番心地よく眠れる物を選ぶんだから、値段なんて気にしないで良いよ」


「それでも、気になりますよ。流石に7万円のは買ってもらえないですって」

「そうかな?俺のはそれくらいするけど。睡眠は大切だし、少しでも質の良い物を選んだ方が体も休まると思うんだけど」


「そうかもですけど…高すぎですよ、私バイトまだ出来ないんですよ?返しきれないですから」

「お金の事なんて考えなくていいよ、多分真凛ちゃんにはこれから返しきれくらいの恩が出来るかもしれないし…」


「?どういう事ですか?」


 今はまだ大丈夫だけど、いつかまた幼馴染とその彼氏に遭遇した時に俺の気持ちがどうなるか分からない。


 その時に真凛ちゃんがそばに居てくれたら今みたいにまだ平静を保てると思うから。


「ううん、何でもないよ。朝、これから家事してもらう約束してくれたからその前払いだと思って貰えればって事かな」

「あー、そう言う事ですか。でも家事なんかで良いんですか?他にも何か言って貰えれば何でもしますよ?」


 他に何か…今すぐパッとは出て来ないけどそうだな。


「真凛ちゃんが嫌じゃなかったら、今度どこか遊びに行かない?」

「え…」


「あー変な意味じゃないからね?友達と話してて、遊んだりしたら気が休まるかなと思って…」


 流石に無理だよな、俺と遊ぶなんて真凛ちゃんにメリットないし、そもそも男と一緒になんて真凛ちゃんの気持ちを一切考えてなかった。


 今、思い返すと馬鹿な事を言ってしまったな。


 そう思っていたのだけど、


「良いんですか!?」

「え?」


「だから、蓮兄さんと遊ぶのですよ!」


 そう言う真凛ちゃんは予想外の反応を見せ、前のめり気味に距離を詰めてくる。


 詰めてきた反動で髪が揺れ綺麗な瞳が見えた。その目はどこか期待に満ち溢れているような気がする。


「えっと、嫌じゃないの?」

「?なんで嫌だと思うんですか?」


「だって、真凛ちゃん男の人ダメでしょ?だから無理かなって」

「なんだ、そんな事ですか…」


 そう言った真凛ちゃんは俺の右手を両手で握って胸の前に持って行く。


 真凛ちゃんが男の人に触れている所を見た事ない。


 視線だけでも嫌な真凛ちゃんが触れるだなんて、大丈夫なのだろうか。


「ま、真凛ちゃん…触れて、大丈夫なの?」

「蓮兄さんは大丈夫です」


 そう言う真凛ちゃんの目は見えないけど、俺の事をまっすぐに見ている気がした。


 嘘は言っていないことが伝わってくる。それは真凛ちゃんにとって俺は安心できる存在になれていると言う事なのだろうか。


 俺は何もしていないけど、もしそう思ってくれているのであれば嬉しいな。


「そうなんだ、良かった。もし行きたい所があれば言ってね俺で良ければ付いていくから」

「ありがとうございます!私、蓮兄さんとどこか遊びに行くの初めてなので楽しみです」


「はは、喜んで貰えて嬉しいよ。でもその前に布団決めないとね」

「あ、そうでした」


 寝具専門店で沢山の布団を前に選ばずに他の話をしているのはどうかと思い、話を戻した。


 このまま時間を使っていると買い物に行く予定が無くなりそうなので、早めに決めたい所だけどどうしたものか。


「真凛ちゃん、見るだけじゃなくて実際に寝てみて良い物があったら買うってのはどうかな?」

「いいですねそれ、文字で色々書いてて魅力が分かっても自分の肌に合うか分からないですもんね」


「そうそう、だから値段とか気にせず良い物があったら複数種類でも言ってね。その中から真凛ちゃんの気に入った物を買えばいいから」

「は、はい!」


 その後は色々な寝具を体験してみる事に。


 まず真凛ちゃんは敷布団がいいのかマットレスがいいのかというところで迷っているようだ。


「うーん」

「真凛ちゃん悩んでるね」


「はい、私いつもベッドで寝ているので床で寝るのに向いてるのかわからなくて…」

「いつもベッドならそっちでいいんじゃない?無理に変えなくてもいいし。マットレスを買うならベッドは真凛ちゃんの好きな形に俺が作るけど」


「え、ベッドも作れるんですか!?」

「うん、収納付きとかにも出来るし、組み立て式になると思うからベッドの位置を変えるのも楽でいいと思うよ」


「蓮兄さん何でも作れるんですね!」

「なんでもは作れないかな…でも真凛ちゃんが欲しい物があるなら、リクエストして貰えれば似た物は作れると思う」


「わかりました、気になった物があれば相談してみます」


 そう言った真凛ちゃんは寝具選びを再開し出した。ベッドは俺に作って貰う想定なのかマットレスを真剣に選んでいる。


 たまに横になって動かなくなる事があり、どうしたんだろうと近寄るとすぅすぅと可愛らしい寝息が聞こえたりと色々あったが、無事寝具全てを選ぶ事が出来た。


「7万9千円…」

「寝具一式ってなるとそれくらいだと思うよ」


 真凛ちゃんは購入した寝具たちのレシートを凝視しながらそう呟くのだが、お金を稼ぐ経験をした事のない子にしては高いと感じるのかもしれない。


 まぁ俺だって安いとは思っていないけど、相場を知っているから妥当だと思うし自分の寝具だってそれくらいしたから真凛ちゃん程動揺していないと思う。


 それよりも、財布が軽くなってこれからの買い物が無事出来るかの方が気になっている。


 寝具一式の郵送は本日して貰えるらしく時間指定で夜の9時頃に届くようにして貰った。本来なら発送は午前中までなのだが、以前に購入した時の定員さんに担当して貰えてその時に色々話した事を覚えて貰えていたらしくサービスとの事。


「気前のいい店員さんで良かった」

「ほんとですね、普通なら送料2倍増しでも可笑しくないですよ」


 そんな会話をしながら、近くのスーパーへ向かう。


 ここは先程の店から少し離れた所にある大きなスーパー。俺の住むマンションの近くにあるスーパーよりも大きく、商品の品揃えも良い。


 今は財布が軽い事もあり沢山は買えないので、寝具一式を買う前に来ていたら目移りして買い過ぎていたかもしれないから真凛ちゃんの選択は正しかったようだ。


「真凛ちゃん今日の献立はもう決まってるの?」

「はい!親子丼です。ご飯系が好きなら丼ものが良いかなって。どうですか?」


「大好きだよ!」

「っ……お、おや、親子丼の話ですよね。す、好きだと思いました。よ、予想的中ですね!」


 そう言う真凛ちゃんはなぜか声が上擦っていた。しかも俺から顔を背けているように見えるの気のせいだろうか。


 そんな事もありつつ、俺たちは無事買い物を済ませ自宅マンションへと帰るのだった。


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ここまで読んでいただきありがとうございます!


次回:第7話 少しだけこうさせて下さい


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『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』こちらも現在連載中なので気になればどうぞ!


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