第3話 ご飯は私が作りますね
コンビニで真凛ちゃんの下着やお泊りに必要なものを粗方買い帰宅した。
服に関しては六花が居ないときにでも家に行って、回収するらしい。俺も荷物持ち程度にはなるかなと同行する旨を伝えると安心したような雰囲気を漂わせながら感謝を述べてきた。
本当に嫌いなのだろうな、六花が付き合っているあの男を此処までひどく避けているとなると、相当変な目を真凛ちゃんに向けたに違いない。
真凛ちゃんは目を隠してはいるが、人の視線には人一倍敏感らしく自分の大きく育った胸に向けて来る邪な視線が彼女をこのようにしてしまったのだろうか。
俺にとって真凛ちゃんは妹みたいなものだからそう言う視線を送ることはないと思う。
「あ、そう言えば真凛ちゃんがこれから住む部屋だけど、まだ案内してなかったよね」
「そう言えばそうでした。どこにあるんですか?」
「廊下突き当たり正面の扉を開けたら6畳の部屋があるんだよ。今は荷物置いてるからご飯食べたら片付けるね」
「ありがとうございます。では、ご飯は私が作りますね」
真凛ちゃんは小林家の家事全般を担当していた。ご飯も何度か食べたが凄く美味しかったのを覚えている。
「え、いいの?今日は疲れてたりしない?」
「それを言ったら、傷心中の蓮兄さんの方が疲れてると思いますよ?」
「それはそうかも…」
真凛ちゃんはもう自分の家に戻りたくないと思っていて、俺の部屋に一緒に住むことになったが俺も男だ。不安に感じる事が一切ないと言えば嘘になるだろうに、俺の事を気遣ってくれるのは真凛ちゃんの心が優しいからかな。
時刻は7時前、ご飯を作って食べるにはいい時間だ。真凛ちゃんは俺自作のダイニングテーブルを挟み対面に座っている。
机は少し大き目で玄関から入ると階段なのでどうやって入れたのかと聞かれたが、足の部分は取り外し可能だから縦幅を考えないで持ち運ぶことが出来るのだ。
自分の好きな見た目、大きさ、材質に出来るDIYの素晴らしさを真凛ちゃんに少しでも理解して貰えれば嬉しいな。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな。冷蔵庫に多少食材入ってるから好きに使って構わないよ」
「わかりました!どれどれ…中身は…おぉ」
元気よく声を挙げると冷蔵庫の方へと歩き中身を確認する。
俺の部屋の冷蔵庫は同棲を予定していたので大きく一人では十分すぎる程で余るスペースが気になっていた。
でもその心配は今日から大丈夫そうだろう、同棲ではないが同居という形で真凛ちゃんが家に住むことになるのだから。
「何か作れそうなものある?」
「うーん、野菜室も見ましたがそこまで量ないんですね」
「一人暮らしだしな最低限の食材にしてるんだよ。食べきれないと腐らせるかもしれないし」
「へぇ、1人暮らしって案外難しいんですね。まぁ今日から私と二人暮らしですけど」
「そうだな。腐らせる心配がなくなりそうで安心してるよ」
「それだけですか?」
「え?うん、そうだけど」
「そうですか…」
そう言った真凛ちゃんはなんだか不機嫌そうに唇を尖らせている。俺何か気に障るようなことを言っただろうか?
「そんな事よりさ、何が作れそう?食材足りないなら買いに行くけど」
「いえ、食材は有りそうです。そして、今日作るのはオムライスです!」
「おぉオムライスか、俺ご飯系が好きだから楽しみだよ」
「ご飯系ですか!これから参考にしますね」
これから俺の好みに合わせたご飯を作ってくれるそうだ。嬉しいな、自分で作るは大変だったから凄く助かる。
早くも真凛ちゃんが家に来たことによるメリットを感じ始めていた。
「それじゃあ、出来上がるまで作業の続きしてるよ。完成したら呼んでね自分の部屋に居るから」
「わかりました!」
俺はそう言って自分の部屋に入り戸を閉める。暫くすると、向かいの部屋から音がしてくるので料理を始めたのかな。
こっちはこっちで今日の分を作り終えないと収入の問題が発生する。今作っているのはたまに来るオーダーメイド商品だ。自分の好きなように完全には作れないが、人の感性に触れることが出来るいい機会なので嫌いではない。
むしろ、自分の作品に新しい独創性が生まれる貴重な機会だから、楽しみな所もある。
今回作るのは海を感じさせるハーバリウムとの事。納期としては夏で今が春だからまだ少し余裕があるが、ネット販売となるとお届け時にトラブルがあって予定日に届かないと言う事が発生するらしい。
俺はまだ経験したことがないが、天候の影響で予定通り届かないのは困るのでこうやって早めに着手しているわけだ。
イメージに合うガラス瓶を百円ショップなどで取り揃えている為棚には大量のガラス瓶が置いてある。今作っているのは瓶の形指定があったから、迷わなくて済んだが普段は瓶決めから結構な時間を使う。
イメージが海ということもあり、サンゴ砂を底に敷いて貝殻や熱帯魚のシールを用いて自然な海を創っていく。
ある程度形が決まったら、レジン液を入れ動かないようにする。簡単に言えばこの繰り返し、難しく言えばバランスを整えたり自然に見えるように物の配置を考えたり。
そうやって作業に没頭していると、
コンコンッ
ご飯が出来たのか真凛ちゃんがノックをしてきた。
「蓮兄さんできましたよ!」
「はーい、今行くよ」
俺が返事をすると戸がゆっくり開き、興味津々そうに近づいてくる。
「どんなの作ってるんですか?」
「あー、今回作ってるのは海をイメージしたハーバリウムだよ。こんな感じの」
「おお!綺麗ですね!」
「まだ完成していないけどね」
そう言った真凛ちゃんは未完成のハーバリウムをじっとみたり、自分の居る位置を変えてみたりと色んな角度から見て楽しんでいるようだ。
「真凛ちゃんこういうの好きだったり?」
「好きですね、綺麗な物とかSNSで見かけると積極的にいいねしてます」
「そうなんだ、じゃあ今度真凛ちゃんの為に何か作ろうか?趣味で作る事もあるしさ」
「いいんですか?あ、お金とかって…」
「お金はいいよ。これから家事とか手伝ってもらうかもだし、そのお礼としてね」
「そう言う事なら…ありがとうございます」
そう言って微笑む真凛ちゃんは一瞬顔を傾け、その綺麗な瞳が見えた。まだ見慣れない彼女の表情に少しだけ見惚れてしまった事は彼女には内緒だ。
その後は真凛ちゃんが作ってくれたオムライスを食べるために再びダイニングテーブルを囲んで座る。
真凛ちゃんの作ってくれたオムライスはふわふわ卵でチキンライスを包んだよくある物だった。上にはケチャップが掛けられているが少し色が黒い?
「いただきます。…ん!美味しい。このチキンライス少し甘みがあって優しい味がするし、このケチャップ?も酸味をあまり感じないけど、くどくない濃さだね」
「ふふ、美味しそうに食べますね。色々作り方を工夫してますから」
真凛ちゃんは俺が一口食べるをじっと見た後、感想を聞いて口許が少し緩んだのが見えた。
自分が作った物を嬉しそうにしてくれるのは見てて楽しいよな。俺もこの仕事を初めて3年目だけど、いつもいい反応を貰えると嬉しくなるから真凛ちゃんの気持ちも凄くわかる。
「凄く美味しいよ。ありがとね、自分で作るとここまで美味しいのは作れないから」
「いえいえ、というか蓮兄さんも料理するんですね。てっきり、コンビニ飯ばかりかと…」
「もしそうなら、冷蔵庫に食材入ってないよ」
「それもそうですね」
そう言った真凛ちゃんはししっといたずらっぽい笑い方をした。目は見えないけど彼女の口元を見ると笑っているのが分かるからこっちまで笑顔になってくる。
こんな生活が送りたかったんだろうな、もし別れなければ目の前に居たのは六花だったのかもしれない。
そう思ってしまうのは今の俺は別れたことを引きずっているんだろう。
終わったことなんだと、頭では理解しているけどやはり受け入れがたいものがあるのも事実で、いつか俺のこの気持ちをすっぽり埋めてくれる存在が現れる事を願う限りだ。
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回:第4話 添い寝ですかね…
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『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』こちらも現在連載中なので気になればどうぞ!
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