第2話 シャワー貸して貰えませんか?
「俺が君を拾うよ」
そう言うと真凛ちゃんは先程まで動こうとしていなかった段ボールの中で立ち上がると深く頭を下げて一礼をし、
「嬉しいです。これからよろしくお願いしますね」
そう言ってきた。勢いよく顔を上げた時に見えたたれ目に瞳の色は綺麗な
でも、この言葉は別に俺じゃなくても言っていたのだろう。そんな社交辞令的な挨拶を終えると真凛ちゃんは段ボールから出るやさっきまで入っていた段ボールを
「はいはい、ここから大体五分くらいで着くから」
「了解です!着いたらまずシャワー貸して貰えませんか?段ボール汚くて」
「いいけどなんで段ボールに入ってたの?ベンチに座ってればよかったのに」
「別にベンチでもよかったんですけど、捨て猫みたいに段ボールに入っていれば拾いたくなるかなって」
「馬鹿みたいに安直な考えじゃん。まぁ、拾った当人が言えた事じゃないけど」
「ほんとですよ、中学生を拾って何するんですか?お世話って下の方は専門外ですからね?」
「そこまで求めてないよ、てか俺が拾ったのはそういう目的じゃないからな?」
「え、そうなんですか?てっきり振られた腹いせに妹を犯して復讐的なのをしたいのかと…」
「どこの寝とられ復讐物だよ!?いや、あのまま放置して何か事件に巻き込まれでもしたら、元カノの妹だとしても目覚めが悪いしさ。だからただのお節介だよ」
「そうでしたか、でも助かりました。正直家に戻るのは絶対に嫌なんですけど、行く当てがなくて困ってたんですよね」
「友達でも頼ればいいけど、いつまで滞在するか分からないと泊めるに泊められないよな」
今小林家には両親が不在だ。これは俺の親から聞いたのだけど、海外出張で3か月ほど帰ってこないのだとか。となれば家には六花と真凛ちゃんのみとなる。
俺と別れた六花がどれくらいの頻度であの男を招き入れるかは分からないが、男が苦手な真凛ちゃんからしてみれば気が休まる事は無いだろう。
「ですです、なので蓮兄さんが拾ってくれないかもしれないと思った時は泣きそうになりましたね」
「それはすまんな。俺だって六花の事を思い出しそうだから出来ればもう小林家に近づきたくなかったんだけど、状況が状況だしな」
「そこに関してはごめんなさい…でも、蓮兄さんなら別の彼女すぐ作れそうですけどね」
「俺ってそんなに軽そうか?心外なんだけど」
「いや、そういう意味じゃなくて。彼女に振られた状況で私の事を見捨てなかったような優しい人ですよ?フリーだって分かったら詰め寄ってきますって!」
「そうだと良いな…」
恋愛の傷は恋愛でしか癒せないと言うが、今の俺には次の恋に進む勇気がない。ずっと一緒にいた幼馴染で、二年付き合ったのに裏切られた。そんな経験をしてしまっては、すぐには立ち直れそうにない。
そんな話をしていると、俺の住む賃貸マンションへとたどり着いた。
鍵を鞄から出して、玄関の扉を開ける。
中に入ると右手に下駄箱、正面に階段。
真凛ちゃんの持っていた段ボールを壁に立て掛け、L字に曲がった階段を登っていくと短い廊下が左手に続き階段を上った正面には引き戸で、開けるとLDKへとたどり着く。
「おぉ、広いですね」
「まぁ1人暮らしにしては広いよな10畳はあるし」
「凄いですね、この広さでワンルームじゃないんですもんね。家賃凄そうですけど」
「ん?そんなことないよ、俺も半分出してるけど月に1万5千程度位だから、大体3万くらいじゃないかな?」
「安すぎませんか!?訳アリ物件だったりして…」
「いやいや、ここ田舎だからだよ。田舎の土地は安いからここら辺の住宅地だと同じくらいの値段だと思うよ。でも2LDKでこの値段はなかなかないかな」
ここはド田舎だからというものあるし、高校生でバイトもしてみたいと思っていたから自分でも払える程度の値段で探したところここが見つかったんだよな。
利便性も悪くなく、駅徒歩10分でスーパーは20分くらい片道でかかるが、商店街が駅と反対側に10分くらいの所にあるからそこまで不便と感じた事はない。
「真凛ちゃんも1人暮らしするなら調べておいた方が良いかもね」
「うーん、別にいいです。ここに住めばいいですし」
「それはそうかもだけどさ…」
ずっと住むわけにはいかない、そう言ってしまえばいいのになぜか言葉を詰まらせる。
その言葉を言ってしまえばいつか本当に出て行ってしまうかもしれないから…?いや違う。ただ今は1人になりたくないだけだ、そう、多分そうなのだ。
「えっとシャワー浴びるんだっけ?」
「あ、はいお願いしたいです」
「わかった。場所は廊下の突き当たり左の扉開けたら洗面所で、中に入って右手の引き戸を開くと脱衣所だから。着替えに関しては俺のジャージ使って、シャワー浴びてる間に籠の中に入れておくよ。下着は…後でコンビニに行くか」
「そうします、では使わせてもらいますね」
そう言って真凛ちゃんは廊下へと出て行った。暫くするとシャワーの音が聞こえてくるので無事入れたのだなと安心する。
「今のうちにジャージ持って行くか」
中学の時のジャージをもって、脱衣所に向かい空の籠に入れる。後ろでは身体を洗っている真凛ちゃんが鼻歌を歌いながらシャワーを浴びているようだ。お風呂が好きなのかもしれない。
ここに居ては真凛ちゃんが出られないので、自室へと向かう。
俺の部屋はLDKの隣にある6畳ほどの部屋だ。俺の部屋とリビングは大き目の引き戸で区切られており、開けるとだいぶ広く感じる。
どうしてこんな設計になっているのかは分からないが、いちいち戸を開けなくてもいいので不便ではない、むしろ楽が出来るのでありがたいと思う。
俺の部屋には少し横に広い仕事机が1つとベッド、本に工具など色々な物が組み立て式のキューブボックスに収められている。
どこに何があるのかがすぐ分かるように扉は付けていない。因みにこれは俺が作った。俺の趣味はDIYで部屋の家具・インテリアや、アクセサリーなどを作っている。
インテリアやアクセサリーに関してはネット販売をしていて、結構な売り上げを挙げており普通にアルバイトするよりも2倍近くは利益を出しているから嬉しい限りだ。
趣味の延長線上と言えば聞こえはいいが、繊細な作業が必要な為作り終わった後にはどっと疲れが来ることがある。
楽しいけど、仕事としてやっている以上手は抜けない。本気で作るからこそやりがいがあるし、購入者の喜びの声を聴くたびに作ってよかったと本当に思える。
これから作るインテリアの途中経過を見ながら、次はどうしようかと考えていると風呂から出た真凛ちゃんの声が背後から聞こえてきた。
「何やってるんですか?」
「ん?んー、強いて言えば仕事かな。真凛ちゃんには言ってなかったけど、俺はアクセサリーとかちょっとしたインテリアを作って販売してるんだ」
「え!?蓮兄さんアクセサリー作れるの、すご…」
真凛ちゃんの声からでもわかるように、凄く驚いている。男がアクセサリーを作るなんてみたいなことを六花には言われたけど、真凛ちゃんはそんな事は言わないようで安心だな。純粋にうれしい気持ちがある。
「そんな事より、下着買いに行かないとね。すぐ用意するよ」
「あ、ありがとうございます…」
そう言った真凛ちゃんは恥ずかしそうに両手の指を合わせもじもじしている。外出するために用意し、近くのコンビニへと真凛ちゃんと向かうのだった。
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回:ご飯は私が作りますね
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『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』こちらも現在連載中なので気になればどうぞ!
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