8 side 猫 ④

 思わぬ収穫だった。


 昨日の我慢が今日のご飯を与えてくれたと言うのなら、ボクは何日だって我慢できる。


「さらりーまんのお兄さん」がくれたご飯はとっても美味しかった。


 また会えるかな?

 またご飯分けてくれるかな?


 お兄さんは何かに悩んでいるようだった。言葉が分からないから理解はできないけど、鳴き声がなんだか悲しそうだった。


 でも、最後お別れする時は、少し元気になっていて、ボクの頭を撫でてくれた。



……すこし、お兄さんのことを思い出した。


 この町で1人で暮らし始めてからもう結構な時間がすぎた。今の生活にも慣れたし、問題なく生きていけるようになったけど、

ふとした時に、お兄さんの事を思い出す。


 優しい笑顔と暖かい手

 いつもボクを抱きかかえて

 身体を撫でてくれた。


_____あの住処での生活はとても素敵な時間だった。


 お兄さんの事を思い出すと、少しだけ寂しくなる。


 でも、この町にはボクの事を助けてくれる存在はたくさんいる。


 そう思うと、寂しさも薄らいでいく。


「よお、リン。なんだ、ずいぶんと機嫌が良さそうじゃないか」


 ボクにこの町での生き方を教えてくれた

ネコが話しかけてくれた。


「そうだね。さっき、美味しいご飯を分けてくれるお兄さんに出会ったんだ」


「そいつは良かったな。また名前は増えたのか?」


「あ、そう言えば、名前は付けられなかったなぁ。もう会えないのかな」


「ご飯を分けてくれる優しい人間なんだ。

きっとこの町の住人さ。また会えるよ」


「そっか、そうだね」


 彼と別れて散歩を再開する。ボク達は1人じゃ生きていけない。どんな時も、誰かと助け合って生きていく必要がある。


 まだ、この町では、ボクは助けられてばかりだけど、いつか誰かの手助けができるようになれればいいな。


「あら、リンちゃんじゃない?」


 いつもご飯をくれる女の人が大きな住処から顔を出している。


「大丈夫、お腹空いてない?ここ数日顔を見てなかったから、心配してたのよ」


 そんな事を言いながら、中からご飯をお皿に盛りつけて出てきた。


_____どうしよう、もうお腹いっぱいなんだよね。


 モリモリに盛られたご飯を前に悩むボク。


 この町で生きていくには、色んな人に助けてもらわないといけない。


 もちろんこのヒトにも……。


_____ボクはお皿に口を近づけた。



 2日間、寝床から出られなかった。

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