5 side サラリーマン ②-2

 帰り道にあるスーパーに立ち寄った。


 買い物をしている時も頭では別のことを考えていた為か、何故買ったか分からないような物まで買物カゴに入っていた。


 買った商品を詰めた袋を持ち上げたら、想像以上に重かった。


_____ため息が空気に溶ける。


 重すぎる、少し休憩しようか。



 小さな公園があるので、中に入りベンチに座る。日の沈んだ後の公園には誰もいない。聞こえるのは、ビニール袋の擦れる音とため息だけだ。


 腕が痺れて、右手には赤色の線が走っている。およそ一人暮らしの1食分とは思えない量の惣菜が、袋の口から顔を覗かせている。その下には大量の缶チューハイが見える。


(どれだけ買ったんだよ……)


 また、ため息が出た。


 空はすでに暗い。

 雲が月を半分隠している。



 対応は何とか事なきを得た。

 製造部門に確認をした所、納品の本当の〆まで少し余裕のある製品があり、それの生産を後回しにすることで、我々の製品の生産を早めてもらうようにしてもらえた。

 取引先にも、謝罪と説明をしたうえで、水曜日までならば待つことができる、との事で話をつけることができた。


 トラブル自体は乗り越えられたのだが、

俺の頭を支配しているのは、そのことではない。


 安堵感など無いに等しかった。



_____言葉を選ぶことはできなかったのか。



 部下の青ざめた表情を見た時、実は俺も同じくらい青ざめた表情をしていた。


 彼の良さは分かっていた。その良さを活かしてもらえるようにもしていたつもりだ。


 必要以上に焦ってしまったのだと思う。


 件の取引先は、大手グループの子会社だ。この会社との取引を皮切りに、そのグループとの繋がりを強くしていくつもりだったのである。

 会社にとって意味合いの強い取引なだけに、ミスの報告を受けた時、思った以上に面食らってしまった。


 その焦りを部下にぶつけてしまった。


 あの出来事の後の事務所の雰囲気は思い出すだけで目眩がする。


(明日、どうしようか……)


 月は雲で見えなくなった。

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