2 side サラリーマン ①

 今日は生姜焼き定食にしよう。券売機のボタンを押そうとしたまさにその時、着信音が店に響き渡る。


_____しまった、マナーモードに変更していなかったか。


 少しの恥じらいと焦りから、そそくさと食券を手に席を確保する。一旦、店を出て電話を折り返した。


「もしもし、どうした」

「課長、あの、すみません…。」


_____意識が持っていかれる。


 気がつけば、私は会社に戻っていた。


 真面目すぎるのも問題だと思う。

 真に優秀な人間は、問題を前にしても動じず、いつも通りの動きの中でそれを解決するのだろう。

 

 私には、3回転生しても出来そうもない芸当である。


 焦りきって汗が止まらない。


 昼食の時間は私にとって、一日で最も重要な時間だ。

 見ても楽しくもない書類やデータと睨み合いを続ける午前中を切り抜け、束の間の安らぎを得られる時間。数多の選択肢から、その日最も自分が欲する品を選び、その日のエネルギーとする。

 お皿と向き合いながら今日の終わらせ方を考えるのだ。


 私にとっては儀式に等しい。

 

 事務所に戻るやいなや、部下が汗を垂らしながら駆け寄ってきた。


「すみませんでしょうか!!」


_____おそらく、「すみませんでした、どうすればいいでしょうか」と聞きたかったのだろう。

 いつもの元気と勢いが180度違う方向に作用している。



 さて、どうしたものか……。

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