第23話「今夜は赤飯?」

「えっ、それって……毎日ってこと……?」

「もちろん……!」


 何がもちろんなのか。

 そんなの、受けるはずがない。


「嫌だ」

「じゃあ、1日1回でどう……!? このまま言い触らされるのと、どっちがいいか考えてよ……!」

「…………」


 このまま彼女にしたことを言い触らされるのは、正直危険すぎる。

 それなら、1日1回のほうがいいんじゃないか――とは思うのだけど……。


「そのお願いに拒否権はあるの……?」

「よほどじゃない限り、だめ……! じゃないと、なんでもかんでも誠司断りそうだもん……!」


 確かに、風見さんがお願いしてくることだとロクなことじゃないと思うので、ほとんど断ってしまいそうだ。

 こっちもリスクが高い気がするけど……。


「……ついでに、ロリコンってことも言い触らす」

「――っ!? それはずるいでしょ!?」


 悩んでいると、俺の耳に風見さんが口を寄せてきて、ボソッと脅しをかけてきた。

 人気者の彼女が言ったら、みんな信じてしまうじゃないか。


「わ、わかったよ……! 1日1回だけだからね……!?」


 これ以上彼女が悪巧みをしないよう、俺は仕方なく頷く。

 すると、風見さんはニコニコの笑みを浮かべた。


「ふふ、ありがと。約束だよ?」


 もしかしたら俺は今、悪魔と約束を交わしてしまったのかもしれない。

 いったいどんなお願いをされるのか……。


「それで、今日のお願いは何……?」

「う~ん、まだいいかなぁ。あとでお願いするね」


 風見さんは人差し指を口に当てて考えると、かわいらしくウィンクをしてきた。

 もったいぶられると、後が怖い。


 そのまま、歩いていると――。


「あらあら、美空ちゃん。その子は彼氏?」


 何やら、知らないおばさんに話しかけられた。

 風見さんの地元だし、知り合いなのだろう。


「ち、違いますよ、クラスメイトです……!」


 恥ずかしかったのか、風見さんは顔を赤くして手をワタワタとさせながら、否定する。

 俺も動揺するほうだけど、意外と風見さんもこういうのは照れるようだ。

 最近、彼女の意外な一面をよく目にしている気がする。


「そ~? お似合いに見えるけどな~?」

「も、もう、やめてくださいよ……! そういうのじゃないんで……!」


 ニマニマとして見てくるおばさんに、風見さんは困ったように笑いながら対応していた。

 ほんとおばさんたちって、こういう話が好きだよな……。


「今夜は赤飯かな?」

「違いますってば……!」


 いじられている風見さんが新鮮で、俺は黙って見ておく。

 助け船を出そうにも、おばさんに悪い印象を抱かれて変な噂を流されても困るので、静観しておくのが無難だろう。


 そうして、寝ている美海ちゃんの頭を撫でながら彼女たちのやりとりを見つめていると――。


「疲れた……」


 やっと解放された風見さんが、げんなりしていた。


「お疲れ様」

「むぅ……」

「なんで頬を膨らませてるの?」

「助けてくれなかった……」


 どうやら、助けなかったことを拗ねているようだ。


「いや、邪魔するのもどうかと」

「私がいじられてるの見てて、楽しんでたでしょ?」

「そ、そんなことないよ?」


 まずい、バレてる。


「やっぱり楽しんでたんだ……! よ~くわかったよ……!」

「何が……?」

「今日のお願い決めました~。こうさせてもらう……!」


 そう言って、風見さんは俺の腕に抱き着いてきた。


「なんでそうなるんだ!?」

「ふふ、私と同じ恥ずかしい目にえばいいの……! 美海がいなかったら、恋人繋ぎしてもらうところだったけどね……!」


 今は美海ちゃんを抱っこしている状態なので、手を放すことができない。 

 だから抱き着いてきたと言っているようだけど――こんなの、誰がどう見ても恋人じゃないか。


 腕に柔らかいあれ・・が押し付けられてるし……!


「拒否権……!」

「だめで~す! これくらいのことじゃ、認めませ~ん!」


 おそらく、俺と同じで恥ずかしいのだろう。

 風見さんは顔を赤くしながら、舌をベッと出してきた。

 そんな俺たちを見て、離れたところにいたおばさんたちがニマニマとしながら、こそこそと話している。


 これは多分、この辺のおばさんたちの中で、俺たちが付き合っているという噂がまたたに広がるんじゃないだろうか……。


「知り合いに見られたらどうするの……!?」

「私はノーダメージ……!」


 そんなに顔を赤くして、何言ってるんだこの子は……!


 俺はなんとか、抱き着いてきてる風見さんを離させようとするものの、結局彼女は離れなかった。

 そうしていると美海ちゃんが起きそうになったので、渋々諦めてスーパーに行ったのだけど――。


「美空ちゃん、彼氏できたんだね~! おめでと~!」

「熱々だね~」

「今夜は赤飯かなぁ?」


 こんなふうに、買い物に来ていたお客さんや、店員のおばさんにまで誤解は広がっていった。

 腕を組んでいるので、当然といえば当然なのだけど……。


 一つわかったことは、風見さんが多くの人から愛されているということだった。




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【あとがき】


読んで頂き、ありがとうございます(≧◇≦)


話が面白い、キャラがかわいいと思って頂けましたら、

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これからも是非、楽しんで頂けますと幸いです♪

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