第16話「付け入る隙を見つけた彼女」
「――穴があったら入りたい……」
おままごとを終えた後、猫耳カチューシャをつけたまま風見さんが悶えていた。
両手で顔を押さえ、真っ赤にしたまま俯いている。
本当に恥ずかしそうだ。
まぁそれもそうだろう。
なんせ彼女は、おままごとの間ずっと猫の物真似をしていたのだから。
ちゃんと猫になりきらないと美海ちゃんが怒るため、風見さんも猫になるしかなかったのだ。
まぁそのおかげで、こんなふうに恥ずかしさで悶えることになったわけなのだけど。
ちなみに美海ちゃんは、満足したように気持ちよさそうな表情で、スヤスヤと寝ている。
幼い子だし、すぐ寝てしまうのだろう。
「妹のお願いを聞いてあげただけなんだから、いいんじゃないかな?」
「……学校で言ったら、怒るから」
フォローしたつもりだけど、ジト目を向けられてしまった。
まだ顔は赤く、よほど引きずっているらしい。
ここだけの話、個人的には悪くなかったと思う。
本人には絶対言わないけど。
「言ったところで誰も信じないでしょ?」
「わかんないよ……。誠司の前だったらするかもって、みんなが思う可能性があるから……」
それは自業自得だろう。
よく俺にくっついてきて、からかったりするからだ。
「まぁ言う気はないよ。それよりも、どうして猫耳カチューシャなんかあったの?」
「昔お店で見かけた時に、美海がほしいって聞かなかったのよ」
「ん? それにしては、サイズが違うような……?」
「私につけてほしかったんだって」
なんというか、子供って純粋な分、やっぱり怖いところがあるな……。
美海ちゃんに悪気がないのはわかっているけれど、言われた風見さんは困っただろう。
実際、つけさせられているわけだし。
「正直、風見さんにそういう趣味があって、買ったのかと思ったよ」
「そんなわけないでしょ……? 誠司は私をなんだと思ってるのよ……?」
恥ずかしい思いをしたため、風見さんの機嫌は悪いようだ。
藪蛇だったか。
「てか、おままごと中、チラチラと私を見ていたようだけど、まさか猫耳が好きなの?」
風見さんは目を細めながら、ジッと俺を見つめてくる。
凄く物言いたげな表情だ。
「気のせいだろ?」
「知らないの? 女の子は視線に敏感なんだよ? 誠司は、猫耳をつけた女の子が好きな、変態さんなんですか~?」
まるで挑発するかのように、風見さんは俺の顔を覗き込んできた。
Tシャツを着ているのに前かがみになるものだから、首と服の間に隙間ができて、ピンク色のかわいらしい下着が見えてしまう。
だから俺は慌てて目を逸らしたのだけど――それをどう勘違いしたのか、風見さんはニヤッと笑みを浮かべた。
「そっかそっか~、誠司は猫耳が好きなのか~」
先程まで顔を赤くして恥ずかしがっていたはずなのに、何やら優勢に立ったとでも言わんばかりに、風見さんがニヤニヤと笑みを浮かべている。
いったい何を考えているのか。
「勘違いだよ。別に興味はないから」
「ほんとかにゃ~? こういうのが好きなんじゃないのかにゃ~?」
そう言いながら、至近距離で手を使って猫の物真似をやってくる。
あれだけ恥ずかしがっていたくせに、なんで今はやっているのだろうか?
とりあえず一つわかるのは、彼女が調子に乗っているということだ。
「興味ないってば」
「でも、視線が私に釘づけなんだにゃ~? 本当は好きなのにゃ~?」
「そのわざとらしい猫語をやめてよ……。こんな至近距離にいたら、視線が外れるわけないでしょ?」
俺は風見さんから距離を取るように後ずさりながら、そう指摘をする。
だけど、こういう調子に乗った時の彼女は厄介で、空けた分の差をつめてきた。
「素直ににゃったら、もっとサービスしてあげるのににゃ~?」
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